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Sand Land Story 〜砂に埋もれし戦士の記憶〜  作者: 朝海 有人
第二章 眠る女王と決意の光
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滝壺

「・・・。」

 後ろを振り向かないように、必死に前だけを見つめてシロヤとクロトは走った。

 戻りたいのならば今すぐ戻って、ランブウやプルーパ、リーグンを助けに行きたい気持ちで一杯だった。しかし、シロヤはリーグンの言葉を信じ、走り続けた。

「リーグン様が信じてるんだ・・・俺も・・・皆を信じないと・・・。」

 ただひたすらに一人と一頭は、未開拓地帯を走り続けた。

「・・・!」

 シロヤの耳に、森とは違う音が響いた。草や枝を踏んだ時に生じる音とは違う、森とはかけ離れた男だった。

「何だ・・・?」

 いつの間にか、足元の草や枝が無くなり、荒れ果てた土が現れた。

 徐々に枝も無くなっていき、視界が開けてきた。その先で、クロトは急停止した。

 シロヤとクロトは、開けた場の前に広がる景色を見た。

「これって・・・滝?」

 シロヤ達の前には、巨大な滝が広がっていた。滝は思ったよりも高く深く、その道の先は崖となっていた。崖から滝壺を見てみると、滝壺までの距離は想像以上のものだった。

「道なんて無いだろ・・・。」

 シロヤは周りを見渡してみた。すると、崖の一つが道みたいになっていたのに気づいた。しかし、それは途中で途切れていた。

「危険だな・・・他を探そう。」

 クロトに引き返すように促し、崖に背を向けた。

「・・・!」

 急に、シロヤは森の奥から人の気配を感じた。しかもそれは、一人ではなく複数人の気配だった。

 ゆっくりと隠れながら気配の出所を探すと、森の奥にいたのは、鎧に身を包んだ集団だった。そしてその先頭には、関所でも見た銀色の鎧を纏った戦士がいた。

「バ・・・!バルーシさん・・・!」

 関所でランブウと戦っていると思っていたバルーシ率いる兵団が、未開拓地帯に足を踏み入れていた。

「ランブウさん・・・まさか・・・。」

 そこでシロヤは思考を止めた。負の方向に考えてしまってはキリがないと思い、すぐさま頭を切り替えた。

「まずい・・・この先は行き止まりなのに・・・。」

 シロヤは滝を見た。道らしい道はなく、あるとすれば途中で途切れている道だが、万が一滝壺に落ちれば命はないだろう。

「!」

 考えているシロヤの背中に、クロトは頭をつけた。何かを言いたげのようだが、シロヤがクロトの方を向いた瞬間、クロトは黙りこんだ。

「・・・クロト?」

 クロトはシロヤの服を引っ張り、無理矢理自分の背中に乗せる。その瞬間、クロトは助走をつけて走り出した。

「おい・・・まさか・・・!クロト!」

 シロヤは叫んで引き返させようとするが、クロトは無視して走り続けた。その先にあったのは、途中で途切れている道だった。

「クロト!あの道は不安定だ!万が一崩れたりしたら!」

 途切れている分の距離は、全速力で助走をつけて飛ぶぐらいの距離とほぼ同じくらい。つまり、一瞬でも気を抜けば落ちてしまいかねなかった。

「クロト!まだ道があるはずだ!だから!」

 シロヤの叫びを無視して、クロトは高く跳躍した。

 クロトの助走は十分であったため、道を飛び越えることができた。

「クロト!」

 そのまま着地して走り出そうと足を前に出す。

 しかし・・・。


ガラッ!


「!!!」

 急に足元が揺れた。

 着地の衝撃で、向こう側の着地位置の道が崩れたのだ。

「うわぁぁぁ!」

 バランスを失い、滝壺に向かって落ちていくシロヤとクロト。しかし、クロトは背中のシロヤを空中で振り飛ばした。

「ク!クロト!何を!」

 クロトはすぐさま体制を変えて、空中のシロヤを後ろ足で蹴り上げた。

「ぐわぁ!」

 蹴りの衝撃で上に飛ぶシロヤ。それを、道の向こうから現れた手が掴んだ。

「シロヤ!」

 手はしっかりとシロヤを掴んでいたが、掴まれているシロヤは、滝壺に向かって悲痛の叫びを上げていた。

「クロトォ!クロトォ!クロトォォォ!」

「落ち着けシロヤ!今お前まで落ちたら!」

「うるせぇ!クロトォォォ!クロトォォォォォ!!!」

 悲痛な叫びは滝の向こうの森にまで響いた。

「シロヤ様!」

「向こうから声がしました!」

 森の奥にいた兵団が滝を目指して走り出した。

「ちっ!このままじゃマズイ!」

 もはや正気を保っていないシロヤを背負い、男―――レジオンは森に向けて走り出した。


 レジオンは、ただひたすらに森を走った。背負ったシロヤは、もはや何も喋らずに固まっていた。

 星夜祭での傷が開き、新たに足や手に傷を負いながらも、レジオンはひたすら走り続けた。

 やがてレジオンは、森の奥にひっそりと佇む小屋の前についた。

 誰もいないことを確認して、レジオンはゆっくりと小屋の扉を開けた。

「!」

 扉を開けた先にいた少女が、体を硬直させた。それを見たレジオンは、少女に軽く微笑んだ。

「俺だよ俺!レジオンだよ!」

「あ!レジオン様!申し訳ありません!」

 そう言って、少女―――クピンはレジオンに深く頭を下げた。

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