好意
強く目を閉じるシロヤ。痛みに耐えようと必死に体を力ませるが、痛みはやってこなかった。
「・・・?」
ゆっくり目を開けてみると、シアンの矢は自分の腹部に届く直前で止まっていた。そして矢を止めているのは、砂だった。
「シロヤ様!大丈夫ですか!?」
支えていた砂が落ちたと同時に、矢も一緒に地面に落ちた。
いつの間にか、シアンもシロヤから距離をおいていた。そしてその間に、緑髪の男が立っていた。
「シロヤ様、ご無事で何よりです。」
緑髪の男はすぐさまシロヤの後ろに回り込み、地面に刺さっていた弓を破壊する。同時に、シロヤの体が動きを取り戻した。
「シロヤ様、遅れて申し訳ありません・・・。」
すまなそうに言葉を低くする緑髪の男に、シロヤはすぐさま言葉を返した。
「こちらこそ、助けていただきありがとうございます。リーグンさん。」
そして、シロヤは緑髪の男―――リーグンの横に立った。
「リーグン・・・裏切り者の息子が何の用だ?」
シアンは今にも弓を引かんとしている。リーグンは表情を変えようとせずに、シアンを一心に見つめていた。
「・・・シロヤ様、ここは私が引き受けます。」
「リーグン様?」
リーグンは杖をクロトに向けて振った。その瞬間、クロトの足の矢が抜け、傷がどんどんと閉じていき、出血が完全に止まった。
「さぁ、早く!」
さらに杖を降ると、シロヤの体が宙に浮いた。
「うわわわ!」
そのままシロヤは、立ち上がったクロトの背中に乗せられた。
「待ってくださいリーグン様!」
「シロヤ様・・・私達の心配は無用です。シロヤ様の背中は任せてください。」
しかし、シロヤは納得がいかないといった表情を浮かべていた。
「何で・・・何で皆・・・俺のために戦うんですか・・・?」
溜まっていた疑問を投げ掛けるシロヤ。それに対して、リーグンは振り向いて笑顔を向けた。
「そんなこと・・・単純なことですよ。」
笑顔のまま、リーグンは疑問への答えをシロヤに言った。
「皆、シロヤ様のことが好きなんですよ。」
さらにリーグンは続けた。
「私にはわかるんです。皆、シロヤ様と一緒にいる内に好意が芽生えてきたんですよ。
シアン様はあなたの強さに、
プルーパ様はあなたの純真さに、
ローイエ様はあなたの包容力に、
バルーシさんはあなたのまっすぐな心に、
レジオンさんはあなたの誠実さに、
ランブウさんはあなたの諦めない心に、
クピンさんはあなたの優しさに、
フカミさんとキリミドさんはあなたの勇敢な心に、
そして私も、あなたの立ち向かう心に、それぞれ好意を抱いているんですよ。」
固まるシロヤ。
「私達がシロヤ様を守るのは、私達の単なる自己満足でもあるんです。
私達はシロヤ様が好きだからこそ、シロヤ様の選んだ選択を無理矢理変えるようなことはしません。」
リーグンの杖を握る手が強くなる。
「だから・・・私達を信頼してください!」
話を聞いたシロヤは、うっすらと涙を目に溜めていた。
「リーグン様・・・ありがとうございます!」
シロヤは涙を隠すように叫んだのち、未開拓地帯に向かって走り出した。
小さくなっていくシロヤを、リーグンは森に入っていくまで見つめていた。
「余計なことをしよって・・・!」
怒りを露にするシアン。それを見て、リーグンはさらに杖を握る力を強めた。
リーグンは直感で、シアンは自分よりも実力が上であると分かった。
しかし、リーグンは逃げるようなことは一切しない。シロヤの背中を守るために。
「リーグン、本気で貴様を潰しにかかる。命の保証はしないぞ。」
矢を出し、弓を構える。ただそれだけの動きが、リーグンの緊張をさらに高めさせた。額から汗を流すリーグンだが、杖を握る手を一切弛めなかった。
「シアン様が本気なら、私も本気を出すだけです!」
すかさず杖を振るい、砂を槍に変えてシアンに向けて放った。
「単調だな・・・。」
すかさずシアンは矢を放った。シアンの放った矢が砂の槍を貫き、すぐさま形を失って地面に落ちた。
「ならば次はこちらからだ・・・。」
シアンはすぐさま矢を五本持ち、不規則に放った。
不規則に放たれた矢は、不規則な動きでリーグンに向かっていく。
「っ!」
不規則な軌道を予測できず、一本の矢がリーグンに突き刺さった。
「くぅ!」
腕に刺さった矢に一瞬気がいってしまい、さらに襲ってくる四本の矢に気が回らなかった。
反応できずに動きが止まるリーグンに、四本の矢は容赦なく貫こうと向かってきた。
そして・・・。
「ぐわぁぁぁ!!!」
リーグンの体を、合計五本の矢が刺し貫いた。
おびただしい量の血を出しながら倒れるリーグン。
「勝負あったな・・・リーグン。」
シアンはゆっくりと歩み寄り、倒れているリーグンの体に向けて矢を向けた。