強襲
ただひたすらに走った。ランブウもプルーパも、自分のために戦ってくれている。思いを無駄にしないためにも、ただひたすらに走り続けた。
やがて、シロヤとクロトは砂浜に出た。
「あれ?この海って・・・。」
シロヤはこの海に見覚えがあった。この海は、星夜祭でシアンと二人で花火を見た灯台がある海だ。この海は、シロヤ達が最初にいた関所とちょうど反対側にある所だった。
「このまま行けば・・・未開拓地帯か・・・。」
シロヤ達は灯台と森を目印に、再び走り出した。
「・・・?」
しばらく走っていると、シロヤはある異変に気づいた。
「クロト・・・?」
森を抜けた辺りから、クロトの走り方がぎこちなくなっていた。変に思ったシロヤは、クロトから降りて足を見た。
「!」
クロトの足は、かなりの量の出血をしていた。シロヤ達が通ってきた道は、道とはまだ呼べないぐらいに荒れていた。木の枝や草を掻き分けていくうちに、クロトの足はかなり傷ついていたのだろう。
「クロト・・・無茶しすぎだぞ。」
シロヤの言葉を聞いたクロトは、鳴きながら足踏みをした。おそらく"まだ走れる!"と言っているのだろう。
「クロト・・・ごめんな。」
シロヤはクロトに跨がり、再び走り出した。
ヒュン!
「!」
突如、シロヤの耳に空を切る音が響いた。その瞬間、シロヤの視界が揺れた。
「うわぁぁぁ!」
視界はどんどんと傾き、シロヤは砂浜に倒れこんだ。
「いてて・・・。」
ゆっくりと立ち上がるシロヤだが、体に新しい傷はついていなかった。シロヤはただ、地面に倒れこんだだけのようだ。
「クロト、大丈夫か?」
シロヤはクロトの方を向いた。その瞬間、信じられない光景がシロヤの目に映った。
「クロト!!!」
シロヤはクロトに駆け寄った。クロトは砂浜に倒れていて、その足からはおびただしい量の血が溢れていて、砂浜を赤く染めていた。
「何だよこれ・・・どうなってるんだ?」
さらに酷くなる出血。シロヤの目に映ったのは、クロトの足に刺さっている何かだった。
「これ・・・矢だ。」
クロトの足に刺さっていたのは、木で作られた矢だった。矢はクロトの足を貫通し、砂浜に刺さってクロトの動きを止めていた。
「何で・・・急に矢が?」
そう呟いた瞬間、さらに空を切る音がシロヤの耳に響いた。空を切る音は、すぐさま砂を裂く音に変わった。
「!」
見ると、シロヤの前にさらに矢が突き刺さっていた。まだ矢を放っている人物が近くにいる。
シロヤはすぐさま剣を構えた。
矢が飛んできたと思われる方向、砂丘の向こうから、ゆっくりと何かが近づいてきた。
「・・・・・・・・・・・・・・・えっ?」
シロヤは目を疑った。砂丘の向こうから現れた人物は、シロヤにとっては予想を遥かに越えた人物だった。
「見つけたぞ・・・。」
シロヤは、口元を震わせながら現れた人物の名を呼んだ。
「シアン・・・様・・・。」
砂丘に立っていた人物は、まぎれもなくシアンだった。ドレスに身を包んではいるが、手には長弓が握られている。その長弓は、使い方次第では強力な武器になり得る代物だった。そしてシアンは、その使い方を完全に熟知していた。
シアンを見て、体が固まってしまったシロヤ。
それに向かって、シアンは三本の矢を手に持って弓を引いた。
「!」
避けようと考えた瞬間、シアンの手から三本の矢が放たれた。しかし、三本の矢はシロヤの体を越え、その先の地面に刺さった。
狙いを外したのかと思ったシロヤだったが、すぐさまそれが何なのかわかった。
「くっ・・・体が・・・。」
シロヤの体は、シロヤの意思では動かなくなっていた。
「・・・。」
シロヤの体が動かなくなったのを見て、シアンは弓を下ろしてゆっくりと近づいてきた。
「!」
シロヤは目を疑った。近づいてきたシアンの目は、初めて会った時の凜とした目ではなかった。色の無くなった無機質な目に、シロヤは恐怖を募らせていった。
「あぁ・・・愛しいお方よ・・・。」
無機質な目をしたシアンは、いつの間にかシロヤの一歩前まで来ていた。ゆっくりとシロヤの顔に触れるシアン。
「そなたが・・・愛しい・・・。」
いつの間にか、シアンは目から涙を流していた。無機質な目から流れる涙は、ゆっくりと頬を伝って砂浜に落ちていく。
「シアン様・・・。」
「う・・・うぅ・・・。」
抑えられずに涙を流し続けるシアン。そして、シアンは矢を一本握った。
「痛くはしない・・・全てを私に委ねてくれ・・・。」
「えっ・・・?」
シアンは矢を構え、シロヤに突き立てようと振りかぶった。
「シアン・・・様?」
「そなたを愛しているぞ・・・。」
そして、シアンは矢を振り下ろした。