決断
「うわぁ!」
思わずのけ反ってしまい、シロヤはクロトから落ちた。
起き上がって岩を見てみると、岩の三ヶ所が細くえぐれていた。
「何だ・・・これ?」
そう呟いた瞬間、さらに謎の衝撃が飛んできた。
「っ!」
しゃがんで衝撃を避けるが、衝撃はシロヤの後ろの岩にさらにえぐった。
「くっ!誰だ!」
謎の衝撃が飛んできた方向を見ると、馬に乗り槍を構えている少女が立っていた。
「ダメ!この国から出ちゃダメなの!」
少女は目に涙を浮かべながら叫んだ。
「ロ!ローイエ様!?」
立っていた少女はローイエだった。ドレスを着ていた普段のローイエから一転、防具を身に付け、手にはローイエの身長よりも長い槍が握られていた。
「お兄様!お兄様は・・・私達を助けてくれたんだよね!?私達を救ってくれたんだよね!?」
ローイエは涙をこぼしながら叫んだ。
「・・・俺は・・・犯罪者・・・。」
「嘘!お兄様はレーグを倒してくれたんだよね!?」
ローイエは槍を再び構え、目にも止まらぬ速さで槍で空を突いた。その瞬間、槍からシロヤめがけて衝撃波が放たれた。
「くっ!」
辛うじて避けるも、シロヤではついていくのが精一杯で、反撃をする余裕すらなかった。
「ローイエ様!俺はこの国の人間じゃないから・・・俺が!」
「そんなの聞きたくない!私は命を救ってくれたお兄様が大好きなの!」
シロヤの叫びが、ローイエの涙の叫びによってかき消される。
「お兄様が・・・大好きなの!もっとお兄様と一緒にいたいの!お姉様も絶対同じだよ!」
「・・・。」
黙りこむシロヤに向かってさらに叫ぶローイエ。
「私もお姉様も・・・もっともっとお兄様とお話ししたりお食事したりしたいの!一緒にいたいの!間違いなんかでずっと会えないなんて嫌なの!お別れしたくないの!」
泣き叫ぶローイエは、さらに槍での攻撃を早めた。
「っ!」
何とか避けようとするが、速い上にどんどんと加速していく槍の連撃。
「ぐわっ!」
ついに避けきれずに、シロヤは槍の衝撃波をまともに受けた。
「うぅ・・・。」
受けた部分が赤く染まる。岩のようにえぐれはしなかったものの、衝撃波でかなり深手を負ってしまったようだ。
「お兄様!絶対に私達が幸せにするから!一緒に幸せになろうよ!」
さらに叫ぶローイエだが、シロヤはそんなローイエに顔色を変えなかった。
「でも・・・俺はよそ・・・者だ・・・から・・・。」
その言葉を聞いて、ローイエはさらに涙を流した。
「いやぁ!嫌だよぉ!お兄様!うわぁぁぁん!」
さらなる槍の衝撃波が放たれた。
キィィィン!
「っ!」
「何!?」
突如、槍の衝撃波が何者かによって力を失った。
「シロヤ君!無事!?」
茂みの奥から声が聞こえた。声と共に出てきたのは、ドレスに身を包み、手に短剣を構えた女性だった。
「プルーパ様!」
「シロヤ君!無事みたいね、うっ!」
駆け寄ってきたプルーパが、突然うずくまった。見ると、両足の包帯がみるみるうちに赤く染まっていっている。
「プルーパ様・・・怪我、完治してないんじゃ!」
「今はそんなこと・・・心配してる暇じゃないわ!」
プルーパは、ローイエの方を向き直し、短剣をさらに構えた。
「シロヤ君、ここは私に任せて早く行って!」
「そんな!怪我をしているプルーパ様を置いてくなんて!」
シロヤの言葉を聞いたプルーパは、シロヤに向かって満面の笑みを浮かべた。
「いいのよ。シロヤ君のためだもの、この程度の傷で止まったりしないわ。」
そう言って、プルーパはシロヤの背中を強めに叩いた。
「さぁ!行きなさい!」
シロヤは口から出そうだった言葉を飲み込み、無言のままクロトに乗って走り出した。
「シロヤ君・・・頑張ってね。」
小さくなっていくシロヤの背中に、プルーパはウィンクをした。
「お姉様!何でお兄様を逃がしちゃうの!?」
納得のいかないローイエは、プルーパに槍を向けた。
「ローイエ!シロヤ君は私達のために国を出るって言ってるのよ!」
「そんなの嫌だよ!お姉様だってお別れしたくないでしょう!」
プルーパは少し黙った。確かにプルーパも、シロヤがこの国に留まっていてくれるのは嬉しいことだ。
しかし、シアンがやっていることが正しいとは思っていなかった。
「確かに私も・・・シロヤ君ともっと一緒にいたいわ・・・。」
「だったら何で!?何で逃がしちゃうの!?」
言われたと同時に、プルーパは短剣を持ち直した。
「わかってるわよ・・・でもね!一番辛いのは・・・辛い思いをしているのはシロヤ君なのよ!私達のために国を出ていくって決断したシロヤ君が・・・一番辛い思いをしているのよ!」
思いを叫んだプルーパは、いつの間にか涙を流していた。
「いやぁ!お兄様ともっと一緒にいたいの!」
ローイエがプルーパに向かって槍の衝撃波を放ち、プルーパがローイエに向かって短剣を投げた。