急変
「皆の衆!昨夜の星夜祭は大成功に終わった!皆の頑張りが大成功に導いたのだ!」
凛とした声で演説を始めたシアン。
「しかし・・・昨夜、大臣のレーグとバスナダ七人衆が重症を負うという事件が起きた。我々は、以前にバスナダを訪れた旅人、シロヤをA級犯罪者に認定、国を追放することにした。」
少し前に起きた出来事を淡々と語るシアン。話しているうちに、シアンは目に涙を溜めていた。
「しかし・・・。」
そう呟いた瞬間、シアンの頬に一筋の涙がこぼれ落ちた。
「しかし!その後、レーグの部屋からこの署名が見つかった!」
シアンは紙を取り出して、その紙を高くあげた。
「これには、レーグとバスナダ七人衆の署名がなされている。そしてこの署名された紙に書かれた内容は、私の暗殺を企てるための計画書だった!」
「っ!」
テレビを見ながら、シロヤは絶句した。
「おかしい・・・なぜあの署名がシアンの手元に・・・?」
ランブウが驚いたように呟いた。
テレビの向こうのシアンはさらに演説を続けた。
「私は愚かな間違いをしていた!あのお方はレーグやバスナダ七人衆を手にかけようとしていたのではなく、私を助けようと尽力してくれたのだ!」
そして、シアンはぼろぼろと涙を流した。泣きながらも、涙を拭おうとせずにシアンは演説を続けた。
「私は・・・実に愚かだ!命を二度も助けてくれた者を犯罪者と認定して追放するなど・・・実に愚かだ!」
どんどんと強くなるシアンの演説。涙を流しながらも、その声は凛としている。
「この愚かな所業を犯したことを・・・私はあのお方に謝りたい・・・。しかし、あのお方はもう戻ってこないだろう・・・。」
強くなっていた演説がどんどんと涙声に変わっていく。
「だから・・・私は今、ここに宣言しようと思う!私のこの判断が皆に被害を与えるのではないかと思うが、私の最初で最後のわがままだと思って聞いてほしい!」
深呼吸を一つして、さらに凛とした声で宣言した。
「再びあのお方を城に迎え入れるため、出国禁止命令を出すことに決定した!」
「えっ!?」
シロヤは驚きの声を上げた。
「やばいな・・・女王は本気みたいだな・・・見ろ。」
ランブウが一つの方角を指差した。その先にいたのは、銀色の鎧を見にまとった兵士の集団が歩いていた。
「まさか兵団を出してくるとは思わなかったぜ・・・おそらくあれを率いているのは・・・。」
ランブウがさらに指差すと、そこにいたのは、立派な銀色の鎧に身を包んだ男が先頭になって兵団を率いていた。しかし、その男は体に包帯を巻いていて、苦痛の表情を浮かべていた。
「バ!バルーシさん!?」
先頭のバルーシは、明らかに怪我が完治していないようだ。動く度に鎧が傷口を開かせ、その度にバルーシは苦痛の表情をさらに強めていた。
「シロヤ、今すぐここから逃げろ。丸一日でも逃げ切ればなんとかなる。」
ランブウはテレビを消して、バルーシら兵団がいる方向とは違う方向を指差した。
「このまま関所の壁を頼りに走っていけ。この先は街からは見えないようになっている。」
シロヤはすぐさまクロトに乗り、ランブウが指差していた方角に向かって走り出そうとした。
「ランブウさん!ランブウさんはどうするんですか!?」
シロヤは立ち止まってランブウに声をかけるが、ランブウはその場を動かずに手だけを動かした。どうやら"早く行け!"と言っているようだ。
「ランブウさん・・・ありがとうございます。」
シロヤは小さく会釈すると、ランブウが指差していた方角に向かって走り出した。
「ランブウさん、もういいですか?」
草影から、数人の男が顔を出した。男達はそれぞれ違った形の銃を持っていた。
「あぁ、さて・・・少し荒くなりそうだな。」
そう言って、ランブウは背中に隠していた散弾銃を構えた。それと同じように、男達も持っていた銃を構えた。
「言っておくが殺すなよ。相手は同じ国の人間、言うなれば家族みたいなものだからな。」
そう言うと、男達が一斉に銃を構えた。
「っ!皆伏せろ!」
銃を向けた方向にいるバルーシが叫んだ。しかし、ランブウの叫びの方が一瞬早かった。
「撃てぇぇぇ!」
一斉に銃弾が放たれ、兵士達の鎧にぶつかり光となった。
「くぅ!閃光衝撃弾か!」
閃光衝撃弾は、強い光と衝撃を放ち、被弾した敵を気絶させる弾である。
「第二射用意!撃てぇぇぇ!」
さらに放たれた閃光衝撃弾により、兵団達は次々と倒れていった。
後ろから聞こえる銃声。しかしシロヤは振り返らずに走り続けた。振り向けばランブウの思いを無駄にする。そう思い、シロヤは振り返りたい気持ちを必死に押さえ込んだ。
「ランブウさん・・・無事でいてください。」
走り続けるシロヤは、やがて大きな岩の前にたどり着いた。
ヒュン!
「!」
岩の前に着いた瞬間、横から謎の衝撃がシロヤの前を走り抜けた。