伝書
城門前には、クロトがシロヤを待っていた。体には包帯が巻かれていて、背中にはシロヤが持っていた荷物が積んであった。
「クロト・・・。」
悲しそうな顔をするシロヤに、クロトはゆっくりと顔を寄せた。
「ハハハ・・・そうか、暗い顔してても始まらないよな。」
無理矢理笑顔を作ったシロヤは、クロトにまたがってゆっくりと歩き出した。
「街はまだ祭りの片付けが終わってないみたいだな。」
日はまだ出始めで人の姿はない。祭りの片付けが済んでないのを見ると、星夜祭の日からそれほど時間が経ってないみたいだ。
「バスナダの名物とも・・・お別れか・・・。」
クロトが悲しそうに鳴いた。それを聞いたシロヤは、微笑みながら周りを見回した。
「せめて最後に何か買っていきたかったけど・・・犯罪者なんだし・・・やめた方がいいかな。」
クロトも事情を察したのか、すこし早歩きで関所を目指した。
「クロト・・・せめて最後にバスナダの街並みをゆっくり見てから行こう。」
シロヤがそう言うと、歩みをゆっくりにして、二人はバスナダの景色を見ながら歩いていった。
街外れの森に入ると、シロヤは立ち止まって一点を見つめた。
「確かここで・・・シアン様を助けたんだっけ。」
それからパレードに参加したら、豪勢なもてなしを受けて城にまで招待された。バルーシやプルーパやクピンに会ったり、レーグとの一件に関わってしまったのもその日だった。
さらにはローイエやリーグン、フカミとキリミドやレジオンにも会った。
そして・・・シアンがシロヤに告白したりもした。街をさらに好きになってもらおうと、星夜祭に招待された。
そして・・・シアン暗殺を企てるレーグとの戦い。シロヤは服の下を見てみるが、あの時に貫かれた傷などは残っていなかった。
星に選ばれ、今までにないぐらいの力を手にしてレーグを倒すが、待っていたのは犯罪者のレッテル。
「でも・・・何でなんだろう。」
そんなことを思っているうちに、シロヤとクロトは関所についた。そこにいたのは、シロヤとクロトがバスナダで初めて会った人がいた。
「よぉ、シロヤ。」
「ランブウさん!」
関所にいたのは、あの時と変わらずランブウだった。
「まぁ・・・なんだ、気にするな!俺達の力が弱かったのもあるが・・・。」
どうやら、シロヤがかなり沈んでいるように思っているらしい。シロヤは笑いながら口を開いた。
「いえ、気にしてませんよ!元々よそ者だったんだから・・・。」
暗い雰囲気が漂う。
「・・・あぁ、スタンプ押さないとな。シアン様から預かってるんだ。」
ランブウは、バスナダのスタンプを取り出した。
「あ、はい。えぇっと紙はどこだ・・・?」
ボコッ!
「うわぁ!」
紙を探している最中に、急に地面が盛り上がって、何かが顔を出した。
「ん?あぁ、伝書土竜だよ。どれどれ・・・。」
伝書土竜が持っていた紙を受け取り、目を通すランブウ。
「・・・。」
読んでいくうちに、顔をしかめていくランブウ。
「あの・・・ランブウさん?」
気になったシロヤは、勇気を持って話しかけてみた。するとランブウは、無言のまま持っていた紙をシロヤに手渡した。
「なんだろう・・・。」
シロヤは、ゆっくりと紙に書かれている内容に目を通した。
"緊急命令書"
この命令書が届いた時間から、最高責任者の命があるまで関所を封鎖せよ。
どんな事情があろうとも、国から人を出すことを一切禁止とする。
なお、関所管理・出国禁止命令に関する最高責任者を、女王シアンと認定する。
シアン・ラーカ
「出国・・・禁止命令?」
出国禁止命令、つまり国から出ることを禁じること。
「でも俺は犯罪者なんだから・・・。」
「どんな事情があろうとも・・・って書いてあるだろ?」
口を閉ざす二人。
しばらく沈黙が流れたあと、またもや伝書土竜が姿を現した。
「またか・・・今度はなんだ?」
再び紙に目を通す。すると今度は、訳がわからないような表情を浮かべている。
「あの・・・どんな内容なんですか?」
しばらく黙りこむランブウは、やがて口を開いた。
「俺にもわからない・・・ただ、ここに書いてあるのは単純なことだ。」
そう言って、ランブウは奥からテレビを持ってきた。
「数分後に行われるシアン様の演説をシロヤに見せてくれって内容だった。」
そう言ってランブウは、すぐさまテレビをつけてアンテナを合わせる。
やがて、台が置かれた城門前の映像がテレビに映った。
「演説・・・?」
「よくわからないが、まぁ見ればわかるだろう。」
しばらくすると、テレビにシアンが映った。
「シアン様!」
食い入るようにテレビを見つめるシロヤ。
テレビの向こうのシアンは、大きく深呼吸をした。
「皆の衆!急にこのような場を設けたのには理由がある!」
シアンの演説が始まった。