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Sand Land Story 〜砂に埋もれし戦士の記憶〜  作者: 朝海 有人
第一章 白の青年と砂の国
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願意

「うぬっ!」

 目の前に現れたシロヤに、レーグは思わず身震いした。

 賢者のレーグにとって、今目の前にいるシロヤという存在は異質でしかなかった。戦士の様な腕っぷしの強さとも違う。魔術師の様な魔力を秘めた強さとも違う。全く未知数な"強さ"に、歴戦を越えてきたレーグは恐怖していた。

 しかし、小さく震えるレーグを見ても、シロヤは表情を変えなかった。

「・・・まだだ、お前への制裁はまだ済んでいない。」

 シロヤは拳を振り上げた。

「ヒヒヒヒヒ!諦めてなどいませんよ!」

 拳を振り上げたシロヤを目の前にして、レーグはいつもと何も変わらずに高笑いした。

「まだわからないのですか?私が何故、何もせずに黙っているかが!」

 瞬間、レーグの後ろで砂金が盛り上がった。

「・・・!」

 砂金は巨大な柱となり、シロヤを上から見下ろしていた。

「ヒヒヒヒヒ!あなたのお陰で星を操る程の魔力を手に入れることができました!ヒヒヒヒヒ!」

「俺の・・・お陰?」

 シロヤは剣を構え、疑問を口にした。

「あなたが私を痛めつけたお陰で、私の魔力の上限がさらに上がりました!ヒヒヒヒヒ!」

 レーグの隠し玉、与えられたダメージ分だけ魔力を回復・上昇させる賢者のスキル、"ダメージリリース"を発動させたのだ。星の力によって与えられたダメージは、レーグにそれ相応の魔力を与えたのだ。

「ヒヒヒヒヒ!わかる、わかるぞ!力が増大していく!力が我に!ヒヒヒヒヒ!」

 レーグを包み込むように、砂金が舞い上がる。砂金に包まれたレーグは、さながら金の繭で羽化を待つ蝶のようだった。

「ヒヒヒヒヒ!星が私に力を与えてくれる!素晴らしい!素晴らしい!!素晴らしい!!!」

 金の繭の一部が盛り上がり、そこから砂金の針が現れた。

「哀れだな・・・貴様は。」

「ほざけるのも今だけですよ!ヒヒヒヒヒ!」

 砂金の針がシロヤめがけて放たれた。

 シロヤは一瞬目を閉じ、何かを祈りながら走り出した。

「遅い・・・。」


ヒュンヒュン!ヒュンヒュン!


「何!?」

 高速で放たれた砂金の針を、シロヤは何事もないかのように交わす。それはまるで、砂金の針がシロヤを避けているようだった。

「何故だ!何故当たらない!」

 激昂しているレーグ。その瞬間の間に、シロヤはすでに金の繭の前にいた。

「何故だ!何故貴様に星の針が当たらない!」

 叫ぶレーグを包む金の繭の前で、シロヤはゆっくりと剣を振りかぶった。

「言っただろう?星に選ばれた者じゃないと星は操れない。」

「ほざくな!」

 突如、シロヤの目の前で砂金の針が現れ、シロヤの腹部を貫いた。わずかに傷口から血が流れるが、シロヤは倒れるような気配は全くしなかった。

 しっかりと大地に足をつけるシロヤ。そんなシロヤを、足元の砂金が優しく包み込んだ。シロヤの腹部を貫いた砂金は崩れ、貫かれた腹部は一切の傷を残さずに消え去った。

「!」

「人が星を選ぶんじゃない。星が人を選ぶんだ。」

 シロヤは剣を振り上げた状態で止まり、一点を見据えながら口を開いた。

「星は・・・ただ力を増幅させるだけの道具じゃない。それは星と共に生きてきたバスナダの民ならばわかるはずだ。」

「ヒヒヒヒヒ!星が道具じゃない!?」

 さらに現れた針がシロヤを貫く。右足、左足、腹部、左胸と、まるで苦しめるかのように貫いていく。

 しかし、貫かれた傷跡はすぐさま星によって癒され、まるで何事もなかったかのようにしてしまう。

「まだわからないのか。星が望むのはこんなことじゃないんだ。」

「うるさい!うるさい!」

 針は何度もシロヤを貫くが、傷跡は星が全て癒されていく。

 そして、新たな針がシロヤの左目を貫いたとき、シロヤは初めて表情を変えて動いた。それと共に、空気が一瞬静まった。

「星が望むことに耳を傾けないお前に!」




「星は操れない!」




 振り下ろされた剣が金の繭を切り裂いた。

「うがぁぁぁぁぁ!!!」

 苦しむような断末魔が、星が包む大地に響き渡る。

 シロヤの剣が光を放ち、金の繭が音を立てて崩れ落ちる。

 光はさらに世界を包み込むかのように広がっていく。シロヤとレーグは、そんな光に包まれながら意識を手放した。


・・・・・・・・・。


・・・・・・。


・・・。


 ゆっくりと目を開けるが、まだ視界には眩しい光が映っていた。何も見えない真っ白な世界に、シロヤは一人で立っていた。

 歩き出してみるが、地面を踏んでいるのかもわからない。まるで別の空間の中に迷いこんでしまったかのように。

 しばらく歩いていると、白い光の向こうに何かを見た。その何かが、光ではない何かと認識した瞬間、音も立てずに何かはシロヤの前にやって来た。

「はじめまして・・・白の勇者よ・・・。」

 そこに立っていたのは、巨大な剣を持った白い全身鎧の男だった。

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