絶望
目を閉じて死を覚悟したプルーパ。しかし、体に痛みは訪れてこなかった。
・・・自分はもう死んでいるのだろうか?
そんな考えが頭をよぎる。
「・・・。」
ゆっくりと目を開けるプルーパ。目の前の景色が頭に流れ込む。
「!!!!!」
瞬間、プルーパは声にならない叫びを上げた。針の壁は、プルーパと壁の間に現れた第三者によって止められていた。第三者は壁の針を全身に受け、おびただしい量の血を出しながら壁の進行を止めていた。真っ赤な血がプルーパにまで届く勢いで吹き出し、プルーパの頭をわずかに染めた。
「ぅ・・・。」
「シロヤ君!!!!!」
針の壁を、シロヤは体で止めていた。自分の血で服や髪を真っ赤に染めながら、シロヤは必死に壁を止めていた。
「プルーパ・・・さ・・・ま・・・。」
「シロヤ君・・・!!!」
消えそうな声で名前を呼ぶシロヤを見て、プルーパはぼろぼろと涙を流した。そんなプルーパに、シロヤは必死に微笑んだ。
「もうやめて・・・!シロヤ君・・・!」
涙を流しながら懇願するプルーパだが、シロヤは何も言わずに微笑み続けた。
本来なら絶命してもおかしくないぐらいの傷を受けながらも、シロヤはまだ生きている。そんな事実を受け止められないレーグは、今までに見たことない程の叫びを上げた。
「うぬぅ!何故まだ生きているんですか!!!」
軽く杖を振って砂の檻を壁ごと崩す。それによって、シロヤとプルーパは外へと出された。
すぐさまレーグは杖を震い、シロヤの足元に砂の針を作り出した。砂の針が勢いよくシロヤの両足を貫いた。
「ぐぅぅ!」
「いやぁ!もうやめて!」
プルーパが叫んだ瞬間、新たに現れた砂の針が、同じくプルーパの足を貫いた。
「きゃあああ!!!」
「ぐ・・・プルーパ様・・・!」
両足の支えを失って、プルーパはそのまま前のめりに倒れこんだ。
「ヒヒヒヒヒ!素直に全身を貫かれて死んでいればいいものを!」
「レーグ・・・!レーグ!」
貫かれた足に精一杯の力を込めて、思いっきり地面を蹴る。そのままレーグめがけて、シロヤは我が身を投げ出すかのように走り出した。
「まだ動けるんですか?なら・・・こうしましょう!」
シロヤの進路の砂が盛り上がり、またもや砂の針が勢いよく飛び出て、シロヤの右胸を狙った。
「ぐ・・・うぉぉ!」
走りながら叫ぶシロヤ。叫んだ衝撃で全身の傷から血が吹き出るが、お構いなしにシロヤは走り続けた。
「右胸・・・狙いは・・・右胸!」
右胸を狙って飛び出てきた砂の針を避けて、その勢いのままレーグに体当たりした。
「うぐっ!」
シロヤの体当たりを受け、レーグは後ろに吹っ飛んだ。
「ぐぅぅ!少しあなたをなめていたみたいですね!」
レーグはさらに杖を振るった。その瞬間、地響きと共に大量の砂がレーグの周りで浮き始めた。
「ヒヒヒヒヒ!」
また杖を振ると、大量の砂が大量の砂の槍へと変化した。
「ヒーヒヒヒ!これだけの砂の槍!避けきれますかな!?ヒーヒヒヒ!」
三度杖を振ると、砂の槍がまるでマシンガンのようにシロヤに向けて放たれた。
「くぅぅ!」
剣でその身を守りながら、ゆっくりと前に進もうと足を前に出す。しかし、その足を狙って砂の槍が降り注ぎ、シロヤの足をまるでサボテンのような姿に変えた。
「うぅぅ!!!」
苦痛を訴えるような声が漏れる。しかし、攻撃は全く止まない。
踏み出した足だけでなく、もう片方の足や腕にも砂の槍が突き刺さり、頭を掠めた砂の槍は、わずかに尖端を血で染めて地面に還っていく。
「そろそろ・・・幕を下ろしましょう!」
一際大きな挙動で杖を振ると、大量の砂の槍が一点に向かって降り注いだ。
「これで終局です!」
・・・・・・・・・・・・・・・。
レーグ以外の全員が同じ方向を見ていた。そして、声はおろか息すらままならない状況に陥っていた。
「シロヤ・・・君・・・。」
「シロヤ・・・シロヤ・・・!」
プルーパとレジオンの声がどんどんと震えていく。もはやその声からは、冷静さを完全に欠いていた。
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!ヒーヒヒヒヒヒヒヒヒ!」
無情に響く高笑い。その先にいたのは、槍に上半身の大半を貫かれて、完全に力を無くしたシロヤの姿があった。
「シロヤ君・・・シロヤ・・・君・・・。」
倒れながら、いつまでも名前を呼び続けるプルーパ。いつの間にか地面の砂を握っていた。砂はいくら強く握っても、まるで流れるようにプルーパの手から落ちていった。
サラサラと流れ落ちる砂。それはいつの間にか、小さな山を作っていた。
「シロヤ君・・・シロヤ君・・・!」
名前を呼び続けるプルーパの目に、一瞬だけ砂の山が光ったように見えた。
一瞬だと思った光は、どんどんと強くなっていく。
「っ!」
一際強い光の後にプルーパが目にしたのは、大量の光が砂丘の向こうから流れてくる光景だった。