攻防
腕を包む砂が、次第に形となってくる。レーグの腕に現れたのは、またもや巨大な砂の剣だった。
「また剣かよ・・・。」
「ヒヒヒヒヒ!ただの剣ではないですよ!」
そう言うと、レーグは剣を振り上げて地面を切った。
「!!!!!」
激しい音が鳴り響き、思わずシロヤは目を閉じた。
「ヒヒヒヒヒ!現実を確認しなさい!」
ゆっくりとシロヤは目を開け、レーグが切った地面を確認した。
「っ!!!」
思わず後ろに下がる。
シロヤが見たのは、レーグが砂の剣で切った地面だった。砂の地面は激しく切り裂かれ、まるで地割れのようになっていた。
「ヒヒヒヒヒ!では・・・行きますよ!」
間髪入れずに飛び出してくるレーグ。右肩を狙って繰り出された剣を、シロヤは咄嗟に剣で受け止めた。
「ぐぅ!」
「ヒヒヒヒヒ!」
不気味に含み笑いを続けるレーグと拮抗するシロヤ。
砂の大剣を受け止めた時とは比べ物にならないくらいに重い一撃。剣を持っている手に強い衝撃が走る。
「ちっ!」
「隙有り!」
強い衝撃を受けたシロヤの手が、一瞬弛んだ。その一瞬の隙を狙って、レーグは体制を変えた。空中で重心を軸にして体を横回転させ、シロヤが構えていた逆側に剣を持っていった。
ヒュン!
「なっ!」
受けが間に合わないと思ったシロヤは、身を屈めてしゃがみこんだ。レーグの剣が豪快に空を切る。
すかさずレーグに一撃を与えようと、思いっきり地面を蹴るシロヤ。勢いをつけて、シロヤは剣を振った。
ザシュ!
「!?」
手応えがなかった。空中で剣を振り切っているため、レーグは隙だらけなはずだ。しかし、シロヤの剣が捉えたのは砂の塊だった。砂の塊は、真っ二つに割れて地面に落ちていった。
「ダミー・・・?」
「ヒヒヒヒヒ!」
同じく剣を振り切って、隙だらけになったシロヤの後ろに現れたのは、同じく砂の塊だった。砂の塊はシロヤに向かって飛び込んでいき、射程距離内に入った時には、砂が無くなりレーグの姿が現れた。
「後ろとったり!ヒヒヒヒヒ!」
シロヤを後ろから切りつけようと、レーグは剣を振り上げた。
その瞬間、シロヤが動いた。
「っ!」
一瞬ためらったレーグ。しかし、シロヤは目立った動きをしなかった。
気にせずレーグは、シロヤの背中めがけて剣を降り下ろした。
キィィィン!
「っ!?」
振り下ろした剣はシロヤには届かず、力によって軌道を変えられてしまった。空中でよろめきながら見てみると、シロヤは剣を左手に持ち替えていた。
「ぐぅ!なぜ左手に・・・。」
レーグは空中で体制を整えようとするが、その一瞬の隙に、シロヤは地を蹴っていた。
「しまった!狙いはそれか!」
「当たり!」
空中で無防備な状態のレーグに、渾身のパンチを入れる。
「ぐぅ!」
後ろに吹き飛ぶレーグ。
シロヤは、後ろから来た剣を左手で持った剣で返すことで、その勢いを利用した右手での攻撃を狙ったのだ。
確かに、シロヤの利き手である右手で剣を受けた方が力を加えやすいが、左手の攻撃は慣れていないため、威力が落ちてしまう。
逆も同じだが、勢いをつけることで利き手じゃない方の手の力をカバーして、慣れている方の右手の攻撃の方には、さらなる勢いを足すことができたのだ。
「うぅ・・・戦闘中にそれだけの策を練ることができるとは・・・。」
よろめきながら、レーグが立ち上がる。
「ふぅ・・・やはり接近戦なんてアホらしいですね・・・。」
レーグはやれやれと言わんばかりに、両手を横にしてため息をついた。
「考えてみれば、賢者が剣での接近戦なんてバカみたいな話ではないですか?」
問いかけてきたレーグに、シロヤは無言のまま剣を構えた。
「そもそも、私は国を思っているからこそシアン様暗殺を決行したんですよ。」
「はぁ?何言ってるんだ!」
さっきまでの戦意は消え去っていて、普段のレーグのような口調で淡々と語り続けた。
「シアン様は本来、いてはいけなかった存在。しかし、今日のバスナダを束ねる女王となっている。皮肉なものですな。ヒヒヒヒヒ!」
相変わらず、人をイライラさせる口調と含み笑いだ。シロヤは聞き流そうと剣を持ち直した。
「まぁ・・・私はバスナダが好きですからね。願わくは私が新たな王となり、よりバスナダを住みやすく発展させようとしていたのですが・・・。」
「黙れ!お前は・・・バスナダを軍事国家にして全世界の頂点に!」
ドス!
「・・・えっ?」
突如現れた痛み。それは、シロヤの心臓部近くの痛みだった。
「もういいでしょう。あなたとシアン様の二人が死ぬことで、一番この国は平和になるのですから。」
「な・・・に・・・?」
「この国は私が責任を持って管理いたしますから。」
レーグは杖を軽く振るった。その瞬間、シロヤの胸に刺さっていた砂のトゲが、形を崩して地面に落ちていった。