策略
クピンが霊力を注ぎ込んだ結果、シロヤの剣は名刀と言えるレベルにまで上がっていた。
「ヒヒヒヒヒ!無名の名刀が相手ですか。これはお厳しい・・・ヒヒヒヒヒ!」
口では厳しいと言っているが、その表情には余裕があった。
「それならば手加減はいらないでしょう。ヒヒヒヒヒ!」
軽い含み笑いをしながら、レーグは再び杖を振るった。
身構えるシロヤの前に現れたのは、四体の砂の人形だった。
「さぁ、サンドドール達よ。お相手して差し上げなさい。」
そう言った瞬間、四体の砂人形が同時にシロヤに飛びかかった。
砂人形の動きは早く、さらに四体同時に相手しているシロヤは、明らかに不利だった。
剣がレベルアップしたとはいえ、シロヤ自身の力が上がったわけではない。四体の砂人形を同時に相手取り、シロヤは苦戦を強いられて苦い顔をする。
「ぐっ・・・。」
「ヒヒヒヒヒ!」
四体の砂人形に翻弄されるシロヤ。それを見ながら、レーグはさらに含み笑いを続けた。
次第にシロヤの体に傷が増えていく。
「くそっ!」
決死の覚悟で剣を振るう。剣が砂を捉え、一体の砂人形がその姿を崩した。
「えっ?」
確かに剣は砂人形を捉えたが、切っても手応えを感じずに崩れてしまった。
明らかに脆い。さっきの砂の剣に比べると、その差は歴然だ。
「まさか・・・魔力を節約してるのか?」
一瞬の閃きがシロヤによぎる。
レーグは、先程の砂の塔と砂の針と砂の剣で、魔力をかなり使っていた。さらに、レジオンとプルーパを封じている砂の檻の維持コストを加えると、レーグの魔力は半分以上は減っていた。
しかし、賢者は自然と魔力が回復する。そして、今使っている砂人形の維持コストは非常に低い。つまり、レーグは今、魔力を回復する時間稼ぎを砂人形に任せているのだ。
砂人形が脆いのは、砂人形の耐久力はレーグが消費する維持コストと比例するためである。現在レーグが消費している維持コストは、砂人形の形を保たせて戦わせる程度しか消費していない。
シロヤはそれに気づき、すぐさま攻撃の体制に入る。
一体を失ったことによって、砂人形のコンビネーションに隙間ができ始めていた。タイミングを見計らい、シロヤは隙間を狙って剣を振るう。
砂人形一体が形を崩す。
「ヒヒヒヒヒ!」
「!」
含み笑いが聞こえた。見てみると、レーグの目の前に何かが現れた。現れたものは、高速回転しながらシロヤに向かってくる円盤状の砂だった。
「砂の・・・ノコギリ!」
すぐさま体制を変えて飛び出すシロヤ。続けて二体の砂人形もシロヤを追う。
「ヒヒヒヒヒ!逃げても無駄ですよ!」
ノコギリがもう一つ増えた。日本の砂のノコギリもシロヤのあとを追う。
「ちっ!」
逃げ回るシロヤ。それを追う砂人形と砂のノコギリ。時には砂人形を誘導するかのように、時には砂のノコギリを撒くかのように動き回る。
しかし、どれだけの動きをしても、砂人形も砂のノコギリも諦めてはくれない。
「・・・うわぁ!」
急に転んだシロヤ。その前には、二体の砂人形が待ち構えていた。
「ヒヒヒヒヒ!もう終わりですよ!やってしまいなさい!」
砂人形の手が伸びていき、先が針のように尖った。それを見たシロヤは、後ろに手をつきながら笑い出した。
「ヒヒヒヒヒ、死の直前が怖くて壊れてしまいましたかな?」
「フフフフフ・・・。」
笑みを止めないシロヤ。
そして、二体の砂人形がシロヤに向かって、尖った手を突き出した。
「!!!やめろ!」
急な叫び。その叫び主は、シロヤに・・・ではなく、シロヤの前の砂人形のさらに後ろに叫んだ。
「お前達!避けろ!避けるんだ!」
叫び主は、今度は砂人形に向かって叫んだ。
叫び主はレーグだった。レーグが叫んだのは、二回目は砂人形だが、一回目は砂のノコギリに向かってだった。
砂のノコギリは、シロヤに向かってどこまでも着いてくる。そして、今のノコギリの位置とシロヤの間には、砂の人形がいた。
どんどんと近づいていく二枚のノコギリ。後ろにノコギリが迫っていることを知らない砂人形。
そして・・・。
ザシュ!!!
シロヤの前で、二体の砂人形が切れるような音と共に形を崩した。砂人形にぶつかっていった二枚の砂のノコギリも、同じく形を崩した。
「よし!何とかなった!」
体制を立て直したシロヤは、小さくガッツポーズをした。
「むぅ・・・まさか・・・人形とノコギリの位置を誘導していましたね?」
ノコギリが出現してからのシロヤの動きは、人形とノコギリをぶつけるために誘導するためのものだったのだ。
再び剣を構えるシロヤ。それに対して、レーグは始めて表情を歪ませた。
「少々油断しましたね・・・では、そろそろ本気でいきましょうか!ヒヒヒヒヒ!」
レーグは杖を振るった。その瞬間、レーグの足元の砂が盛り上がり、レーグの腕を包み込んだ。