防戦
突撃してくるシロヤをみて、レーグが軽く含み笑いをした。
「ヒヒヒヒヒ!攻めが単調すぎですよ!」
レーグが杖を振るうと、突然砂が盛り上がって塔となり、シロヤとレーグの間に立ちふさがった。急な障害が出現して、シロヤは立ち止まった。
「ヒヒヒヒヒ!」
砂の塔の向こうから含み笑いが聞こえた。その瞬間、砂の塔が盛り上がり、そこから砂の針が放たれた。
「うわぁ!」
飛んでくる砂の針を避けようと、シロヤは横に跳んだ。
避けきれなかった分の針がシロヤの体を掠めて、軽い傷がいくつも刻まれた。
「なるほど、反射神経は中々のものですね。」
砂の塔の奥からさらに聞こえるレーグの声。
その声が聞こえると同時に、シロヤに向かってさらに針が放たれた。
すぐさま体制を立て直して、横に跳ぼうと足に力を込めたした瞬間、シロヤの足元の砂が盛り上がった。
「!」
盛り上がった砂がシロヤの脇腹に向かって伸びていった。
「うっ!」
足元からの急な攻撃に対応できず、直撃を食らったシロヤ。よろけるシロヤに向かって、放たれた針が襲いかかった。
「くっ!」
真正面から飛んでくる針。構えた剣で体を守るが、腕や足に針が刺さり、シロヤの服を赤く染めていく。
「ヒヒヒヒヒ!随分と粘りますね。」
「ぐっ・・・このままじゃ・・・。」
これ以上は持たないと思ったシロヤは、何かを決心するかのように目を閉じた。
カッ!と目を見開き、シロヤは自分の体を守っていた剣を下ろした。
「シロヤ君!?」
「くぅ!」
思わずプルーパが叫んだ。
剣で守っていた体に針が刺さり、シロヤの顔が苦痛に歪んでいく。
「ヒヒヒヒヒ!諦めて死ぬ気になりましたか?」
さらに笑うレーグ。そんなレーグを見たシロヤの顔が、一瞬笑みに変わった。
「誰が・・・そんなこと言った!」
叫ぶと同時に、シロヤは足を前に出した。
「シロヤ!まさかお前・・・進む気か!?」
思わずレジオンが叫んだ。
シロヤは、針が飛んでくる方に向かって歩き始めた。勢いを増していく針を身体中に受けながら、シロヤは一歩一歩踏み出していった。
「むぅ!針は効果なしですか。」
途端に針が止み、さらに大きく砂の塔が盛り上がった。
「ヒヒヒヒヒ!これはどうですか!?」
盛り上がった砂から、巨大な砂の剣が現れ、シロヤに向かって伸び始めた。巨大な砂の剣を前にして、シロヤは下ろしていた剣を再び構えた。
「ヒヒヒヒヒ!止める気ですか?無駄ですよ無駄!ヒーヒヒヒヒ!」
高笑いをするレーグ。
しかし、シロヤの表情は決意に満ちていた。
「止める・・・止めてみせる!」
砂の剣が勢いを増し、シロヤに襲いかかる。それに向かって、シロヤは剣を振るった。
「シロヤ!」
レジオンが叫んだと同時に、砂の剣はシロヤに到達した。
「ぐぅぅぅ!!!」
シロヤの剣と砂の剣がぶつかり合う。砂の剣の勢いを真っ向に受け止めるシロヤの体は、どんどん後ろに押されていく。剣を持つ手がカタカタと揺れ、次第に力が入らなくなる。
「そろそろ限界のようですね。ではトドメといきましょうか!」
砂の剣がさらに大きくなり、勢いも増していった。
「くぅ!」
「ヒヒヒヒヒ!」
シロヤの体がブレ始める。勢いを増した砂の剣を真正面から受け止めているシロヤの体は、予想以上にスタミナを消耗していた。
しかし、シロヤは手の力を弛めなかった。
一方、砂の剣を維持し続けているレーグは、どんどんと表情を歪ませていた。
「くぅ・・・なぜここまで持ちこたえるとは・・・。」
対象物(ここでいう砂)を形にして維持するのは、術者に対して予想以上の負担をかける。それは、"賢者"であるレーグも例外ではない。
「仕方ありません・・・。」
小さく呟くと、レーグは砂の剣の勢いを止め、間に立ちふさがっていた砂の塔を崩した。
それと共に、砂の剣が形をなくして落ちていった。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・。」
肩で息をするシロヤ。
「砂の剣を受け止めるとは・・・よほどの名刀でなければ不可能なはずですが・・・。」
もちろん、シロヤの剣が名刀ではないのは、シロヤが一番よく知っていた。
「何で・・・?」
剣を見つめるシロヤ。すると、剣が急に言葉を走った。
「ロ・さ・・シロ・・ま・・・シロヤさま・・・シロヤ様!」
か細い声がシロヤの耳に響く。その声を、シロヤは聞いたことがあった。
「この声は・・・クピンさん?」
声の主がクピンであることがわかった瞬間、頭に映像が流れこんだ。
「クピン!これを握って!」
「これって・・・シロヤ様の剣?」
「ほら、早く!」
プルーパに促され、クピンは剣を持って目を閉じた。
その瞬間、剣にクピンの霊力が流れこんだ。
「クピンさん・・・。」
映像が止み、シロヤは再び剣を見つめた。
「・・・ありがとう。」
剣を見つめたまま、シロヤはクピンへのお礼の言葉を呟いた。