分断
レジオンは、城に向けて走っていた。それを追うプルーパとシロヤ。
しばらくしてたどり着いたのは、城から少し離れた砂丘だった。
砂丘を登りきった瞬間、レジオンは背中の大剣の柄に手をかけた。
「さて・・・そろそろ出てきてもらおうか?レーグ。」
「えっ?」
レジオンが呟くと、突然砂丘の一部が大きく盛り上がった。
「うわぁ!」
急に盛り上がったことによって、足元の砂が暴れまわる。耐えきれずに、シロヤはバランスを崩した。
盛り上がった砂が徐々に落ちていき、その中が明らかになっていく。その中にいたのは、自分の身長よりも長い杖を持っている小柄な老人だった。
「ヒヒヒヒヒ!よくわかりましたね!」
「当然だ。お前とは城に入ってからの同期生だからな。」
対峙する二人。レジオンは今にも大剣を抜こうとしている。レーグも同じように構えたが、一瞬で構えを解き、含み笑いを始めた。
「ヒヒヒヒヒ!あなたと戦うのは次の機会にさせてもらいましょう。」
そう言うと、レーグはレジオンの方に向かって、杖を軽く振った。
ゴゴゴゴゴ!
「何だ!?」
そう言った瞬間、レジオンの周りの砂が動き始めた。レジオンを包み込むように盛り上がる砂。その場から離れようと地面を蹴った。
「無駄ですよ!ヒヒヒヒヒ!」
さらに砂が盛り上がり、一つの大きな柱となってレジオンに向かってきた。
「ちっ!」
間一髪で向かってきた柱を避けるが、その瞬間に、レジオンの体は砂の檻の中に封じられた。
「くそ!叩き斬ってやる!」
レジオンは、背中の大剣で何度も砂の格子を斬りつけるが、叩き斬るどころかひびすらはいらない。
それを見たレーグは、再び含み笑いをしながら向き直った。
「ヒヒヒヒヒ!あともう一人!」
レーグは再び杖を振った。その瞬間、プルーパの周りがレジオンと同じように盛り上がった。
「プルーパ様!」
みるみるうちに形成されていく砂の檻。
「くっ!」
砂の格子を蹴りつけるプルーパ。しかし、大剣で斬りつけても効果がないほどの強度を持つため、蹴り程度ではダメージは無いに等しかった。
「なら・・・これはどう!?」
プルーパは、ドレスの足元から短剣を取り出した。手一杯に短剣を持ちながら、プルーパは激しい舞を踊った。
だんだんと激しくなる舞、そして勢いが最高潮になったとき、プルーパは持っていた短剣を全て放った。
しかし・・・。
「ヒヒヒヒヒ!無駄無駄!」
短剣はレーグには届かず、レーグの前に現れた砂の柱が、飛んできた短剣を砂の中に封じ込めた。気づけばプルーパは、完全に砂の檻に捕らえられていた。
「ヒヒヒヒヒ!」
しばらく続く含み笑い。
気づけば、そこにはシロヤだけが残っていた。
「ヒヒヒヒヒ!何故自分だけが取り残されたのかわからない、といった表情ですね。」
レーグは含み笑いを続けながら、タバコを吸い始めた。
「俺は・・・閉じ込めないのか?」
そう聞いた瞬間、レーグは今までにないくらいに高笑いを始めた。
「ヒーヒッヒッヒッヒ!何を言っているのですか!私の今の狙いはあなたなのですよ?」
「今の狙いだと・・・俺が目的ってどういうことだ!?」
レーグは再び高笑いしながら話を続けた。
「私達が望むのは、シアン現女王の失脚、そして死。」
「それと俺がどう関係しているんだ?」
レーグはさらに高笑いをした。
「ヒーヒッヒッヒッヒ!まだわからないのですか!?」
高笑いをしながら、レーグはタバコの前で指を鳴らした。その瞬間、タバコの火が一瞬にして消え去った。
加えていたタバコを投げ捨て、レーグはさらに続けた。
「まだわからないんですか?あなたが死ねば、シアン女王がどうなるのかというのを!」
シロヤは固まった。
「わからないようですね。まぁ、わからないなら好都合です。このまま死んでください!」
レーグが軽く杖を振ると、砂の槍が現れてシロヤに向かって放たれた。
棒立ちのシロヤに向かって高速で飛んでいく砂の槍。
「シロヤ君!」
「シロヤ!」
檻の中の二人が叫ぶ。
間に合わないと思った直後、シロヤと槍の間に突然、黒く大きな影が割り込んだ。
ヒュン!
槍が突き刺さる。しかしそれはシロヤにではなく、間に割り込んだ黒い影にだった。
「お前・・・。」
割り込んだのはクロトだった。砂の槍をまともに食らったクロトの体が、少しずつ血の色を含んでいく。
「クロト!しっかりしろクロト!」
倒れるクロトに駆け寄る。しかし、近づいた瞬間にクロトは大きく叫んだ。
まるで、クロトが「僕の事は気にしないで!」と言っているようだった。そしてシロヤには、今のクロトの叫び声がそう聞こえた。
ゆっくりと立ち上がり、背中の剣を抜いて構える。
「まだ・・・俺はシアン様に"答え"を出してない。答えを出すって・・・シアン様に言ったんだ!」
決意を固め、シロヤはレーグに向かって飛び出した。