招待
豪華すぎるもてなしを受けたシロヤとクロトは、食べ過ぎでふらふらのまま城に入った。
「うわぁ〜・・・。」
今までの旅の中で城らしきものに入ったことがなかったシロヤは、あまりに自分の中の世界とかけ離れた空間に驚きを隠しきれないでいた。
何より一番驚きなのは、王室に続くまでの長い廊下に人の列ができているところだ。へいしやメイドや学者など、おそらく城に出入りしている人たちだろう。
「・・・。」
自然と無口になるシロヤ。初めての体験が多すぎて何も言えなくなっていた。
王室の奥には豪華な椅子。そしてそこに座っている女性は、確かに森地帯で助けた女性だ。しかし、服装が昼よりも華やかで豪華になっていて、本当に女王であることがうかがえる。
「よく来たな。そなたを心から歓迎しよう。」
重みがある声が部屋に響く。ただの歓迎の言葉だけなのに緊張するシロヤ。額から汗が垂れる。
「ところでそなたは何故このバスナダに来たのだ?」
「えっと・・・実はスタンプを集めてまして・・・。」
声が震えるシロヤとは対称的に、口元を緩ませて話すシアン。
「よしわかった。今すぐ黄金のスタンプを作らせよう。」
「いやいやいや!押していただけるだけで結構です!」
慌てるシロヤ。
「そなた、バスナダが旅の最後らしいな。このあとはバスナダに住む気か?」
「いえ、目的も果たしましたし帰郷しようかと。」
元々は農民の父親を置いて出たため、旅が終われば少しは親孝行してやろうと思っていたのだ。
「帰郷してからは何をするのだ?剣術の指南か?官僚に就くのか?」
「いえいえとんでもありません!牛や馬と戯れながら親の仕事の手伝いでもしようかと思ってます。」
シアンは顔を少しだけ歪ませた。
「そなたならばもっと上に立つことが出来るのではないか?」
「いえ、自分は農民生まれの農民育ちですから。」
シロヤは愛想笑いで返すのが精一杯だった。シアンが思っているほど自分は優秀な人間ではない、その事を説明するだけなのに、三頭の牛を引くかのような重労働をしたかのような疲労感が襲う。完全に「女王の威圧感」に萎縮してしまっていた。
「ふむ、ならばどうだ?そなたにぴったりな役職を用意しよう。」
「え?」
シアンは椅子から立ち上がり、シロヤに近づいた。
「そなたになら私が自信を持って任せられる役職だ。」
「あ・・・あの・・・自分は城に仕えるなんて自信が・・・。」
しどろもどろのシロヤの顎に手をかけて顔を近づけるシアン。微笑んだまま、シアンはゆっくりと言葉を続けた。
「どうだ・・・?そなたにしかできぬのだ・・・。」
言葉を失い、口をパクパクさせるシロヤ。
「私の力になっては・・・くれないか・・・?」
心臓が人生最高の高鳴りを繰り返す。出来るならば逃げだしたい。しかし、シロヤは金縛りにあったかのように動けない。
「・・・女王様。」
急に聞こえた第三者の声。声はシアンの後ろから聞こえた。
見てみると、老人が本を開きながら立っていた。シアンは老人の顔を見たことがある。シアンと共にパレードカーに乗っていた大臣らしき人物だ。シロヤにとっては救世主だった。
「何だレーグ、今日はパレードで何もないはずだぞ。」
「そのパレードの最後に演説をしていただこうと思いましてね・・・何せご帰還祭ですからねぇ。」 シアンと同じように重みのある声だが、何かが違う。シアンは、レーグという男に違和感を感じた。
「ならば仕方がない。レーグ!このお方を最上級の客室にご案内して差し上げろ。決して失礼の無いようにしろ。」
「御意。」
深々と頭を下げるレーグを背に、シアンは服を直して歩き始めた。すぐさま近くの兵士が回りを固める。
王室を出る間際、シアンはシロヤの方を振り返った。
「今夜じっくり考えてほしい。答えが出るまではこの城に居座るといい。」
優しく微笑んだのち、シアンは王室を出ていった。
「ではご案内しましょう。」
レーグに連れられて、シロヤは奥へと歩いていった。
「ではお連れの馬は私が連れていきましょう。」
振り向くと、銀色の防具をつけた体格のいい兵士がクロトの横にいた。
「では馬はバルーシに任せていきましょう。バルーシよ、くれぐれも失礼の無いようにしろ。」
「御意。」
力強い声と共に、クロトを連れてバルーシは王室を出た。
「では案内しましょう。私についてきてください。」
レーグについていき、シロヤは王室を出た。
「ではこの部屋をお使いください。何かあれば呼び鈴を鳴らしてくだされば控えの者が来ます。」
「わ、わかりました。わざわざありがとうございます。」
深々と礼をして、レーグは部屋を出た。
広すぎる客室には大きなベッド等の様々な物がある。
急に悲しみが沸いてきたシロヤは、すぐさま呼び鈴に手を伸ばした。
「・・・。」
チリンチリン!