根性
「・・・!」
剣を持った相手は固まった。それどころか、他の四人も同じく固まっていた。
バルーシの頭を狙って降り下ろされた剣は、確かにバルーシにヒットした。
「くぅ・・・うぅぅ!」
ヒットしているが、バルーシは倒れない。バルーシは、向かってくる剣を頭で受け止めたのだ。
そしてそのまま、頭に剣の刃が食い込んでいる状態から、バルーシは反撃した。
「・・・ぐっ!」
今まで声を出していなかった相手が、初めて苦しみの声を上げた。鳩尾に打撃を食らった相手は、そのまま膝をついて倒れた。
「あ・・・あり得ない・・・。」
「すごい出血量・・・。」
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・。」
肩で息をするバルーシ。
「でも、そろそろヤバイんじゃないかしら?」
「そうですね。それだけダメージがあれば・・・。」
今、バルーシは立っている。しかし、今立っていることが奇跡だということは、バルーシが一番よくわかっていた。
全身に刻まれた剣、銃、ボウガンの傷。ボウガンが貫通したことで真っ赤に染まる脇腹。そして、頭には剣を真っ向から受け止めたためにできた深い傷。
流れ出る血は、バルーシの体、頭を真っ赤に染めあげている。
そして、バルーシは目がほぼ見えていない。失明ではないが、視界はぼやけていて周りを認識していない。
しかし、バルーシは立っている。そして、残った七人衆の内の四人に向かっていった。
「な!まだ動けるの!?」
「こいつ・・・不死身か?」
ボウガンと銃をそれぞれ構える。
今のバルーシに、戦術をその場で考えるような力は残ってない。
バルーシを動かしているのは、シアンやシロヤ等、この国に住む人々、守らなければならない人々への忠誠心。
そして、生まれながら人が持っている力。バルーシ特有とも言える、バルーシの心の力。
"根性"
「うきゃ!」
「うぐぁ!」
バルーシに恐怖した二人は、一瞬の隙を作ってしまっていた。バルーシはそれを見逃さなかった。すかさず繰り出された打撃は、二人を地に伏せさせた。
向き直って、残りの二人に向かって突撃するバルーシ。
「どこまで恐ろしいの・・・?この男は。」
「油断なりませんな・・・。」
二人は武器を素早く取り出し、素早く構えた。
一人は槍、もう一人は片手斧、どちらも近距離戦用の武器だ。
すぐさま、バルーシは剣を取り出して槍と片手斧を防いだ。そして始まる二対一の競り合い。バルーシが不利なのは言うまでもないが、バルーシはただひたすらに競り合いを続けた。
「くっ!」
「・・・!」
二人は、いつの間にかバルーシに圧倒されていた。次第に後ろへと後ずさっていく二人。
そして・・・。
ガキィィィン!
「うっ!」
「ぐわぁ!」
二人の武器を弾き飛ばしたバルーシは、そのままの勢いで蹴りを放った。
綺麗な弧を描いて、二人は飛んでいった。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・。」
激しく息をしながら、バルーシは周りを見回した。
バルーシには見えていないが、七人衆は全員倒れていた。
「後を・・・追わなければ・・・。」
ふらふらのまま、バルーシは三人が向かっていった方角へと歩きだした。
ヒュン!
「えっ・・・?」
突如後ろから聞こえた、空気を切り裂く音。音の正体は・・・。
「ボウ・・・ガン・・・?」
そしてそのボウガンは、ふらふらのバルーシの足を貫いた。
「キャハハハ!油断しすぎだよ〜!」
「まさかここまで油断しているとは・・・。」
「まさか私達が立ち上がるなんて思いもよらなかったでしょうね。」
「詰めが甘いとはこのことでしょうか。」
「・・・。」
立ち上がったのは五人だった。
「立ち上がったのは我々だけですか?」
「最初の二人はダメージを受ける前に気絶させられたからでしょうね。」
「キャハハハ!ダッサ〜イ!」
全員、武器を構え直す。
そしてバルーシは、新たに与えられたダメージによって完全に意識を手放そうとしていた。
「キャハハハ!早く死んじゃえ!」
さらにバルーシを追い詰めようと、ボウガンをさらに構える。
もはや真っ直ぐ歩けないバルーシは、それに抗うことができない。
「キャハハハ!」
笑いながら、ボウガンの引き金を引いた。
キィン!
「え!?」
確かにバルーシの背中を狙って放ったボウガンは、空中で方向転換したかと思えば、そのまま勢いをなくして砂の上に落ちた。
そして、落ちたボウガンの傍らには、同じく勢いをなくして落ちた物体が落ちていた。
「これって・・・銃弾?」
そんな事が起きてることを知らないバルーシは、そのまま勢いをなくして倒れこんだ。
「よくやったな、バルーシ。」
倒れこむバルーシを受け止める一人の男。もちろん、バルーシはその男を知っていた。
「バルーシに変わって、今度は俺がお相手しよう。」
そして男―――ランブウは銃を取り出して構えた。