刺客
包んでいた光がゆっくりと消えて、視界が徐々に回復してきた。
手足の感覚も徐々に回復してきた。シロヤはゆっくりと指を動かした。手を上げて見てみると、指の表面に砂が付着していた。
シロヤはようやく、自分が倒れていることに気づいた。
「シロヤ君!」
突如気づいた声、頭を上げて周りを確認すると、プルーパとバルーシがシロヤに駆け寄ってきた。
「ずいぶんと遅かったわね。」
「すいません・・・レーグがシアン様を転移魔法で・・・。」
「なるほど、シロヤ様を灯台に置き去りにしたわけですか。」
「リーグンに話をつけといて良かったわね。」
ゆっくりと立ち上がって、シロヤは服についていた砂をはたき落とした。
「じゃあ急ぎましょう!パレードが始まっちゃうわ。」
三人は、星が飾られている広場にたどり着いた。パレードを見るために、街の人達は皆城の前に集まってしまったためだろうか、人の気配はない。
「レーグの目的が何にしろ、星の近くに来る可能性は非常に高いわね。」
「ならばここで奇襲をかけるのが得策でしょうな。」
プルーパとバルーシはが、星を見ながら作戦会議を始めた。
「・・・。」
二人の作戦会議を聞いていたシロヤは、苦い顔をして黙りこんだ。
二人は、レーグの目的が暗殺だということを知らない。だから、今こうやっていることがレーグの目的に対して有効だとは言えない。
しかし、暗殺の話をしてはいけないとレジオンに言われている。
「うぅ・・・。」
言わなければ駄目な気もする。しかし言ってはいけない。そんな板挟みをくらって困惑するシロヤ。
「シロヤ君?どうしたの?」
「え?あぁいや!何でもないです・・・。」
どうやら葛藤が表に出てしまっていたようだ。シロヤは慌てて笑顔で答えた。
・・・やはり言った方がいいのかもしれない。シロヤは激しい葛藤の末、重い口を開こうとした。
「あ・・・あの!」
ヒュン!
「!!!伏せて!」
プルーパが叫ぶと同時に、シロヤとバルーシが伏せる。二人の直線上から、銀色の何かが飛んできた。
「く!誰だ!」
すぐさま体制を立て直したバルーシが、飛んできた方向に向かって叫んだ。
「交わされましたな。」
「あはは!本当だー!」
「あんな的を相手に外すとは・・・。」
「だからこいつに任せるのはやめようと言ったのに・・・。」
「まぁいいんじゃない?どっちにしろ運命は変わらないんだしさ。」
「しかし奴らは苦しみながら死ぬ方を選んだようだな。」
「・・・。」
そこに立っていたのは、七人の老若男女だった。
「貴方達は・・・バスナダ七人衆!」
「えぇ!あれがバスナダ七人衆?」
高齢の政治家ばかりだと思っていたが、立っている人達は若い人もいるし女性もいる。そして、七人全員が武器を持っていた。
「レーグ様の命令で三人を殺すように言われました。」
「私達が最優先すべき相手がここにいて好都合だわ。」
そう言うと、一人がボウガンをシロヤに向けた。
「貴方達まさか・・・シロヤ君が目的なの?」
「そうだよ!今度は外さないからね!」
ボウガンの引き金が引かれ、矢がシロヤに向かって高速で放たれた!
「うわぁぁぁ!」
シロヤは思わず目を閉じた。
・・・・・・・・・。
暫しの静寂、一番に声を出したのは、ボウガンを放った人だった。
「うっそー!」
シロヤは目を開けて、前を確認した。
矢は自分には届かずに、第三者によって受け止められていた。
「ぐぅ・・・。」
矢を止めたのはバルーシだった。バルーシは放たれた矢をキャッチしていたが、高速の矢を受けてしまったことで、手からはかなりの出血をしていた。
「バルーシさん!」
「くっ・・・目的は星じゃないのか・・・。」
「その通りだ!」
またもや聞こえた第三者の声。それは、七人衆がいる側とは反対側の所からだった。
「プルーパ!バルーシ!レーグの本来の目的は星じゃない!シアン女王の暗殺だ!」
「なんですって!」
「それは本当ですか!レジオンさん!」
声の主はレジオンだった。そして、レーグの本来の目的を聞かされた二人が目を丸くした。
「狙いはパレードの最中だ!今すぐレーグの場所に行かなきゃ手遅れになるぞ!」
それを聞いた瞬間、レジオンが走り出した。それについていくプルーパ。しかしシロヤは、走るのをためらった。
「バルーシさん!」
「シロヤ様!ここは私が!」
いくら兵団長と言えど、七人同時に相手取るのは無理がある。
「シロヤ様、ご心配なさらずに。すぐに後を追います。」
後ろを見て、軽くうなずくバルーシ。それを見たシロヤは、決心して走り出した。
「あはは、本当に大丈夫だと思ってるの?」
バルーシは軽く顔をしかめた。
バスナダ七人衆を同時に相手取るのは容易ではないのは、バルーシが一番よくわかっていた。
「わかってますよ・・・そのくらい!」
バルーシは、七人に向かって突撃した。