開戦
「うわぁ・・・。綺麗・・・。」
シロヤとシアンが見ている空に咲く、光輝く大輪の華。街の向こうから上がっているのだが、その光は灯台まで届いている程に光輝いている。
「どうだ?我が国が誇る花火職人達の"砂火薬花火"だ。」
砂のようにサラサラとしたバスナダ特有の火薬は、他の火薬に比べて扱いやすい。それゆえに、昔からバスナダでは花火作りが盛んに行われていた。
他国の人々が、バスナダの花火はどこよりも美しいと言われている理由だ。
「バスナダってすごいですね。食べ物も美味しいし、花火も綺麗だし。」
「ふふ、気に入ってもらえたかな?」
シアンは、シロヤの腰に手を回して引き寄せる。自然と二人は密着しあっていた。
「名物は花火だけではないぞ?砂の酒なんかもこの国の自慢だ。」
バスナダに来てから、シロヤは様々な名物に触れてきた。そのどれもが素晴らしく、シロヤは全てに満足していた。
そして、このバスナダに住む人達は優しい人達ばかりだ。見ず知らずの旅人にここまでよくしてもらえるなんて、長旅の中で事例は一個もない。
だからこそシロヤは、このバスナダ国に特別な思いを抱き始めていた。
「私は毎年、こうして花火を見るのが好きなんだ。」
シアンは空を見上げながら呟いた。一瞬見えた横顔、花火に照らされたシアンの横顔には、形容しがたい美しさが秘められていた。
「どうだ?バスナダを好きになって・・・くれたか?」
シロヤの方を向くシアン。目を合わせていると、自然とドキドキしてしまう。
「はい・・・好きに・・・なりました。」
それを聞くと、シアンはニコッ!と満面の笑みをシロヤに向けた。
「うむ、我が国を好きになってくれて嬉しく思うぞ。バスナダはそなたを心から歓迎しよう。」
そしてシアンは、そのままシロヤの顔の方を向きながら、ゆっくりと目を閉じた。
「・・・!」
シアンは、シロヤの返事を待っていた。目を閉じてはいるが、唇は少し震えている。
「あ・・・あの・・・シアン様・・・?」
自然とシロヤの体も震える。シロヤは、体を震わせながら、ゆっくりとシアンに近づいていった。
「・・・女王様。」
「!!!!!」
突如後ろから聞こえた第三者の声。シロヤとシアンは同時に振り向いた!
「レーグ!!!」
「ヒヒヒヒヒ!探しましたよ女王様!」
いつからいたのかわからないのだが、確かに後ろに立っていたのはレーグだった。階段を上ってくる音も聞こえなかった。
「ヒーヒヒヒヒ!女王様、もうそろそろパレードの時間です。今すぐ城に戻っていただけますでしょうか?」
「もうそんな時間か、ならば・・・私はこのお方と戻ろう。」
シアンはシロヤの腕に抱きついた。それを見たレーグは、一瞬だけ顔を歪ませた。
「それには及びません。ヒーヒヒヒヒ!」
含み笑いをしたのち、持っていた杖を構えて何かを呟き始めた。
「待てレーグ!転移魔法を使わずとも間に合うであろう!」
「時間が惜しいんですよ。できるだけ早く準備を済ませてください。」
そう言った瞬間、強い光がシアンを包み込んだ。強い光に目をくらまされたシロヤ。向き直ったときには、そこにシアンの姿はなかった。
「ヒーヒヒヒヒ!」
レーグは高笑いをしたのち、そのまま杖を構えて再び詠唱する。
レーグの体が淡く光ると、そのまま光の尾を残して灯台の窓から飛び出していった。
「しまった!やられた!」
シアンを転移魔法で城に送り、自分は飛行魔法で城に向かって行ってしまった。
すぐさまシロヤは灯台を降りて、クロトに跨がった。
「クロト!今すぐ城に向かうぞ!」
そのまま走ろうとした瞬間、シロヤの頭上が光った。
流れ星かと思ったが、明らかにおかしい。軌道が地上に向かっているような気がしたからだ。
シロヤの目は間違いではなかった。流れ星に似た何かは、高速で地上に向かって降ってくる!
「うわぁ!クロト!しゃがめ!」
流れ星に似た何かは、そのままシロヤ達の目の前に落ちていった。
軽い砂ぼこりが舞う中を、シロヤとクロトは確認した。へこんだ砂の中にいたのは、杖を持った人だった。
「ごほぉ!ごほぉ!ぐぅうごっほぉ!」
人は軽く砂を払い、見に来たシロヤに声をかけた。
「シロヤ様!」
「あなたは・・・リーグン様!」
砂に埋まっていた流れ星に似た何かは、杖を持ったリーグンだった。
リーグンはすぐさま表情を引き締め、シロヤに言った。
「パレードが始まろうとしています!父上率いるバスナダ七人衆も控えています!」
シロヤは聞かされたと同時に走った。その後ろをついてくるリーグン。
「シロヤ様!転移魔法なら私も使えます!今すぐシロヤ様をプルーパ様達の元へ!」
リーグンは杖を構えて、詠唱を始めた。
「・・・シロヤ様、女王様の命をお願いします!」
リーグンの言葉が聞こえた瞬間、シロヤの体が光に包まれた。そして光が消えた頃には、シロヤの姿はなかった。




