土産
気絶者二人が運ばれていくのを横目に、三人は街中を進んでいった。
「約束の時間まではまだあるみたいね・・・シロヤ君、これからどこに行くのかしら?」
「お腹いっぱ〜い!」
お腹がふくれた様子のローイエとクロト。
とりあえず辺りを見回してみると、シロヤの目に一つの屋台が飛び込んだ。
「野菜の・・・叩き売り?」
とれたての野菜を売っている屋台だ。
バスナダの砂は特殊な成分が入っているらしく、野菜を植えれば極上の野菜に、家畜に食べさせれば極上の肉になると言われている。バスナダが"隠れた美食大国"と呼ばれている理由がこれだ。
野菜の屋台をしばらく見ていると、シロヤの頭にふと二人の人物がよぎった。
「あ!そういえばお土産!」
よぎった人物、未開拓地帯でシロヤが助けた、そして助けられた二人の人物。
「あぁそうね。私も忘れてたわ。」
そう言ってプルーパは、野菜の屋台に向かって歩きだした。
「ローイエ様、少しだけ付き合ってください。」
「ん〜・・・わかった〜!」
シロヤとローイエは、屋台へと走っていった。
買った野菜を持って、シロヤ達が未開拓地帯に向かった。
「ここ入ったことない〜!怖〜い!」
ローイエの体が震えている。心なしか、クロトも震えているような感じがした。
「改めて見ると確かに不気味ね・・・。」
改めて未開拓地帯を眺めて、プルーパは森に入っていった。
「あ!プルーパ様!」
「お姉様早い〜!」
遅れて、二人も入っていった。
「あら?また来たの?」
森に入ってしばらく歩くと、会おうとしていた人物にすぐに会えた。
「この間のお礼に来たわよ。はい、バスナダ自慢の野菜。」
「わぁ〜!ありがとうございます!」
「本当に届けに来るなんて思わなかったわ。まぁ、ありがたくもらうわ。」
目をキラキラされて野菜を受けとる妹、キリミドと、軽く頭を下げる姉、フカミ。この森に住んでいる精霊の姉妹だ。
「どう・・・かな?喜んでもらえてるかな?」
「まぁ・・・まあまあって所かしらね。」
顔を背けて言ったフカミに、キリミドがクスクスと笑いながら呟いた。
「もう、お姉ちゃんったら・・・素直じゃないんだから。」
「キ!キリミド!何言ってるのよあなた!」
「私知〜らな〜い!」
笑いながら野菜を持って逃げるキリミド。その後を、顔を真っ赤にしたフカミが追いかけていった。
「こらぁ〜!待ちなさ〜い!」
森を走り回っている精霊の姉妹。何だか微笑ましい光景だ。三人は、そんな姉妹をしばらく眺めていた。
未開拓地帯から出て街に戻ると、約束の時間が近くまで迫っていた。
急いで集合場所に向かうシロヤ達。クロトに三人を乗せて、砂漠を一気に走り抜ける。
結果、約束の時間ギリギリに集合場所に着いたシロヤ達。すでにシアンは集合場所に来ていた。
「むぅ・・・どうやら急がしてしまったようだな・・・すまない。」
「いえいえ!俺が時間にルーズ気味なだけですよ!シアン様が謝ることありませんよ!」
必死に頭を上げさせようとするシロヤに、クスクスと笑うプルーパとローイエ。
「まぁ・・・そなたが無事でよかった。さぁ、案内させてもらおう。」
シアンはシロヤの手を握った。どきどきしながら、シロヤはゆっくりとシアンをクロトに乗せる。そしてシアンは、ゆっくりとシロヤに身を預けた。
「そなたの背中・・・大きいのだな。」
「えぇ!?あ!あの!どちらに行けば・・・!」
それを聞いてシアンは、ゆっくりと体を直し、クロトに語りかけた。
「クロト殿、すまぬが城の逆側に向かって歩いてほしい。・・・すまぬな、二人も乗っては重いであろう。」
クロトはその場で足踏みをした。まるで「気にしないで」と言っているかのようだ。
「じゃあシロヤ君。きっちりエスコートしなさいよ?」
「お兄様もお姉様もいってらっしゃ〜い!」
手を振って二人を見送るプルーパとローイエ。そんな二人を背に、シロヤとシアンは城の逆側の方角へと進んでいった。
城の逆側、方角で言うと北には、海が広がっていた。
「ここは・・・これから始まる祭りのイベントの穴場スポットだ。」
シロヤ達が来たのは、海にそびえる灯台だった。灯台の中に入り、長い階段を上がっていくと、城の向こうの街の明るさまで見渡せてしまうほどの高さになった。
街の向こうを眺めるシロヤ。そんなシロヤに、シアンはゆっくりと寄り添った。
「・・・!」
そのまま、シロヤの肩に頭を乗せる。まるで恋人同士のようであり、シアンにはそれが心地よかった。
「あの・・・シアン・・・様?」
「今、そなたと二人っきりなのだな。」
わずかに震える声。
「静かだな・・・まるで世界がそなたと私だけになったみたいだな・・・。」
体も小さく震えている。シロヤは、シアンの手を握った。
「ふふ・・・そなたの手・・・暖かいぞ・・・。」
突然、寄り添う二人が見上げる空に、光の華が咲いた。