成敗
街にはたくさんの人達が笑顔で歩いている。中には他国から来た人もいる。
街中を走り回る子供達や、恋人と肩を並べて歩く者など、本当に多種多様だ。
その中に、黒い馬に乗って街を回っている青年と、それについていく少女と女性がいた。
「シロヤお兄様〜!あそこ行こ〜!」
「こらローイエ!あまりはしゃぎすぎるんじゃないわよ!」
プルーパの言葉を聞き流して、ローイエは一つの屋台に向かって走り出した。
「まだ約束の時間じゃないですから。祭りを楽しみましょう、プルーパ様。」
シロヤがプルーパに微笑んだ。
「約束の時間・・・ですか?」 朝、シロヤはシアンから時間と場所を言い渡された。
「うむ、そなたの案内は私がさせてもらうことになった。だから・・・待ち合わせ場所を決めておこうと思ったのだ。」
"待ち合わせ"という言葉を言ったのち、シアンは頬を赤く染めた。
「それまでは・・・そなたの思うがままに祭りを楽しんでもらいたい。」
恥ずかしさを隠すようにシアンはうつむきながら言った。
「でも本当によかったの?約束の時間までローイエと一緒に回るなんて。」
「えぇ、一人よりも皆で回った方が楽しいですから。」
プルーパの問いに、シロヤは笑って答えた。
「お兄様〜!お姉様〜!こっちこっち〜!」 笑顔でローイエが手を振っている。その方向に向かって、クロトはゆっくりと歩きだした。
「ちょ!クロト!話してる最中なのに!」
「あらあら、クロト君も楽しみたいみたいね。」
クスクスと笑いながら、プルーパはクロトの後ろを歩いていった。
ローイエの所に着くと、シロヤはたくさんの人達が集まっているところに目をやった。
「あれは・・・食堂みたいなものか?」
歩きながら食べることができない物はあそこで食べるようだ。
ふとシロヤは、その奥がざわついているのに気がついた。どうやら、誰かに注目が集まっているようだ。シロヤはよく目を凝らして、人混みの奥を見た。
「何だ〜てめぇ〜!もう飲めないなんて抜かす気かぁ〜こらぁ!」
「うっ!ちょっと飲みすぎですよ!もうそのくらいに!」
どうやら、酔っぱらいを誰かが制しているようだ。しかし、シロヤは酔っぱらい、そして酔っぱらいを制している人の声に聞き覚えがあった。
「てめぇバルーシ!もう一本持ってこい!俺とお前!どっちが飲めるか競争だ!」
「レジオンさん!ちょっと落ち着いてくださいってば!周りの方にも迷惑が」
「んだこらぁ!俺が迷惑だってんのか〜!」
そう言って、レジオンは持っていた酒の瓶を振り回した。レジオンの瓶さばきは凄まじく、元兵団長の名は伊達ではないことがわかる。それに対してバルーシも、レジオンの瓶の軌道を読んで、交わしながらも反撃をうかがっている。
街中で始まった、元兵団長対現兵団長の対決に、シロヤは思わず興奮してしまった。
「はぁ・・・しょうがないわね・・・。」
横のプルーパがため息を一つついた。それに気づいたシロヤは、プルーパに視線を戻す。
プルーパは、綺麗に一回転した。それと同時に、プルーパから何かが放たれた!
放たれた物は人混みを高速で抜けていき、そのまま食堂の奥へと向かっていった。そして・・・。
「ぐわぁ!」
「ぐっ!」
二つの悲鳴が聞こえたのち、食堂が一瞬静かになった。しかし、しばらくすると、人々は再び賑わいを取り戻した。
「ふぅ・・・。」
横のプルーパが軽く伸びをした。
「あの・・・プルーパ様?」
今の出来事を見ていたシロヤは、恐る恐る聞いてみた。
「・・・何をしたんですか?」
プルーパは微笑みながらシロヤを見た。何故だか、その微笑みに怖いものを感じたシロヤ。
「ただ単に酔っぱらいを黙らせただけよ?何も不思議なことはないわよ?」
シロヤはそれよりも、黙らせた方法が気になった。
プルーパの戦闘能力は、この間の汚染植物との戦いで思い知っていた。まるで舞いのような動きから放たれた短剣は、汚染植物の急所を一撃で貫いた。短剣を急所に、しかも一撃で当てるほどの腕前だ。そんな腕前をもろに食らった二人を遠目で見て、シロヤは少しだけ顔をひきつらせた。
「安心して、投げたのは竹串よ。しかも尖ってない方ね。少しだけ眠ってれば自然と回復するはずよ。」
シロヤの心配を、プルーパは優しく解決した。
「お兄様、どうしたの?」
どうやらローイエは、屋台に夢中でレジオン達に気づかなかったようだ。
「いえ・・・何でもないです・・・。」
クロトもローイエも、屋台で買った食べ物に夢中だった。シロヤも受け取って食べ始める。
プルーパも受け取って食べ始めた。持っている竹串が凶器に見えたシロヤ。自然と背中に冷たいものを感じた。
「・・・・・・・・・・・・って!プルーパ様!何でバルーシさんまで!?」
「ん?ん〜・・・喧嘩両成敗ってやつ?」
笑いながらプルーパは言った。シロヤは、ゆっくりとバルーシに手を合わせた。