砂丘
頭を下げるクピンを見たシロヤは、ゆっくりとクピンの頭を上げさせた。
「わかっていますよ。どこまでやれるかは分かりませんが・・・出来る限り戦ってみます。」
その言葉を聞いて、クピンは笑顔のまま目に涙を浮かべた。
「あ・・・ありがとう・・・ございます!」
シロヤは、近くにあったミニタオルでクピンの涙をぬぐった。
次の日、シロヤは部屋にいた。
「・・・。」
いよいよ明日は星夜祭、決戦の日だ。
バルーシ、プルーパ、レジオン、リーグンの協力があるとはいえ、自分の無力な力でどこまで戦えるのかがわからない。
外を見てみると、街は明日の星夜祭を待ちきれないのだろうか、人々が忙しく街を走り回っている。
「・・・。」
何だか外に出てみたくなったシロヤは、ドアノブに手をかけた。
「・・・ですよ、ヒヒヒヒヒ・・・。」
「!!!」
瞬時に手をドアノブから離す。
ドアの向こうから聞こえてきたのは、レーグの含み笑いだった。
何かを話しているのだろうか、気になったシロヤはドアに耳をつけた。
「では明日の・・・時、パレードの時間・・・暗殺を・・・します・・・ヒヒヒヒヒ。」
誰かと話しているようだ。話している相手はわからないが、話している内容はわかる。どうやら、シアンの暗殺について話しているようだ。そしてその内容には、暗殺時間とその決行場所が話されていた。
「では手筈通りに・・・ヒヒヒヒヒ。」
含み笑いが近づいてきた。少しずつ近づいてきて、聞こえてきたのはドアを挟んで数センチの所。
「・・・ヤバイ!」
すぐさまドアから離れる。そしてその数秒後、ドアが開かれた。
「ヒヒヒヒヒ、シロヤ様、朝食の時間になりました。」
ムカつく含み笑いが部屋に響くが、シロヤの耳には入らなかった。それよりも気になったのは、レーグのさっきの会話だった。
「シロヤ君、気分はどう?」
「シロヤお兄様〜!明日一緒にお祭り回ろう〜!」
席に座ると、すぐさまシロヤに近寄るプルーパとローイエ、その横で微笑んでいる(ように見える)シアンがいた。
「明日・・・そなたを目一杯おもてなししよう。それでこの国をもっと・・・好きになってもらいたい・・・。そして・・・答えを聞かせてほしい。」
モジモジするシアンを見たプルーパが、ニヤリと笑った。
「あ〜ぁ!私も側室に入れてくれないかしら?シ・ロ・ヤ・く・ん〜?」
「ぶふっ!」
飲んでいた牛乳を吹きこぼすシロヤ。
「な!何言うんですかプルーパ様!」
「クスクス、本当に可愛いわね。」
プルーパは笑いながら、近くの牛乳に手を伸ばした。
シアンは顔を真っ赤にして俯いている。どうやら告白したのをプルーパに見透かされたことが恥ずかしかったのだろう。
「側室に入れるんだったら、私以外にもローイエとかクピンとかも・・・。」
「バルーシとかレジオンも〜?」
「ぶふっ!」
ローイエの発言にシロヤ、そして今度はプルーパも吹きこぼした。
「ローイエ・・・あなた少し黙ってなさい・・・。」
プルーパは半笑いしながらローイエに言った。
朝食を食べ終えたシロヤは、すぐさま身支度を済ませて城を出た。途中、ローイエがついていきたいと駄々をこねたが、プルーパによって阻止された。おそらくプルーパは、シロヤが行こうとしている場所がわかっているのだろう。
シロヤが来たのは、もちろんプルーパが予測した場所だ。
賑やかな街を通り、準備に奔走していたバルーシに挨拶をしたのち、シロヤがついたのは砂丘だった。
「・・・。」
砂漠の優しい風を体に受け、シロヤは砂丘の向こうを眺めていた。
景色を見ているうちに、シロヤは心配していたことを忘れていた。
・・・シロヤは、後ろに人の気配を感じた。
「よぉ、確か・・・シロヤっていったかな?」
立っていたのは、シロヤがバスナダに来て一番最初に見た人だった。
「あ!確か・・・ランブウさん?」
シロヤは思い出したように手を叩いた。それを見たランブウは、軽く笑いながらシロヤに語りかける。
「明日から星夜祭か・・・、わくわくするな。」
子供のように楽しみにしているランブウ。
「安心しな。明日の星夜祭は危険なんか無いぜ?安全に祭りを楽しんでもらうぜ?」
ランブウはシロヤの背中をバンバンと叩いて高笑いした。
「危険・・・ですか・・・。」
シロヤは少し黙った。
そうだ、危険なんてないようにしないといけないんだ。シアンの命も、国の皆も守らなければならないんだ。
・・・ん?
「あの!?ランブウさんの役職って」
シロヤが後ろを振り向いた時、ランブウの姿はもうなかった。
「・・・?」
首をかしげるシロヤ。そんなシロヤを、砂漠の風は優しく包んだ。
まるで、明日に向かう人達を、そしてシロヤを応援するかのように・・・。
そして、星夜祭本番の日がやって来た。