未来
「クピンさん!よかった〜!目が覚めたんだ!」
シロヤはぴょんぴょんと跳ねて喜んだ。
「本当に申し訳ありませんでした!シロヤ様のお手を煩わせて・・・。」
「そんなとんでもない!俺はクピンさんが無事で本当によかったですよ!」
クピンの手を握って一緒に跳ねる。シロヤと跳ねるクピンの顔は、キョトンとしていた。
「あの・・・。」
「あ・・・ごめんなさい・・・。」
我にかえったシロヤは、クピンの手を離して頭を下げた。
「と、とにかく、クピンさんが無事で本当によかった。とりあえず中で話しましょう。」
「それなら私も一緒でいいかしら?」
突然聞こえた声、声の主はプルーパだった。
「ごめんなさいね、シロヤ君。私まで加わっちゃって。」
今シロヤの部屋にいるのは、シロヤとクピンとプルーパだ。三人は円を描くように座っている。
「あの・・・プルーパ様!看病していただき!ありがとうございます!」
王族の隣にいるという緊張感でガチガチのまま、ぎこちなくクピンはプルーパに頭を下げた。
「固くなりすぎよ、クピン。リラックスリラックス。」
クピンの頭を撫でるプルーパ。しかし、クピンの緊張は解れている感じはしない。
「それよりクピン、あなたにちょっと聞きたいことがあるんだけど・・・いいかしら?」
プルーパの顔が引き締まる。
「クピン、あなた・・・未来を見たのかしら?」
シロヤは目を丸くした。まさかプルーパからそれを引き出すとは思わなかった。
クピンの表情が曇る。何となく、ためらっているような表情だ。
「いえ・・・見ていません・・・。」
うつむきながらクピンは答えた。少し声が震えているようだ。
それを見たプルーパは、少しだけ微笑んだ。
「そう・・・わかったわ。ごめんなさいね。」
少し間を空けたのち、プルーパはそのまま部屋を出ていった。
「あの・・・シロヤ様。」
静寂を破ったのはクピンだった。
「さっきの話なんですが・・・シロヤ様になら言える気がします・・・。」
今まで見たことない、クピンの強い表情。今まで見せていたおろおろとした表情とは全く違う表情だ。
「ク・・・クピンさん・・・?」
「お話しします。私があの時見た夢を・・・。」
クピンはゆっくりと語り出した。
暗くなった空には、砂漠を照らす星も月も輝いていない。
「ヒヒヒヒヒ!ヒヒヒヒヒ!ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」
暗い砂漠に響く含み笑い。そびえ立つ砂丘には、シロヤが今まで感じていた優しさは、欠片すらなかった。
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」
さらに響く含み笑い。その先にそびえる巨大な城には、絶望を宿した屍しかなかった。
その屍は多種多様だ。黒毛の馬、黄色い髪の少女、ドレスに身を包んだ女性、メイド服を着た少女、銀の鎧に身を包んだ兵士、歴戦を乗り越えた老兵。
そしてその中央にそびえ立つのは、きらびやかなドレスに身を包んだ女王と、白髪の旅人が寄り添って倒れていた。
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」
不気味に響く含み笑い。
街は、輝きを失った空よりも暗く、行き交う人々は誰一人としていない。
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!」
誰にも止められなかった含み笑い。
その手に見えるのは、砂漠からは見えない星と月の輝きを集めたような輝き。
「ヒヒヒヒヒ!ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」
暗黒に包まれたバスナダ。屍へと姿を変えた王族と反乱者。生気と笑顔を無くした国民。
バスナダは、一人の男によって姿を変えた。人の力を何倍にも増幅する国の宝、星。
星は落ちたのだった。独裁者、レーグの手によって・・・。
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!!!」
「なんですか・・・それ・・・。」
シロヤは絶句した。クピンから聞かされた話は、シロヤにとっては最悪のシナリオであった。
無言のまま、クピンはゆっくりと顔を下げた。
「私にもわかりません・・・あの時・・・急に目の前が真っ暗になって・・・今の映像が頭に流れてきました。私にもわかりません・・・これがプルーパ様が言っていた未来なのかどうかは・・・。」
クピンはどうやら、自分に強い霊力があることを知らないようだ。
シロヤはゆっくりと頷いて、言葉を探した。
「そうですか・・・ありがとうございます。」
そのまま会話を終えようとしたシロヤ。しかし、クピンがさらに言葉を続けた。
「シロヤ様・・・。」
クピンの声は震えていた。自分が見た夢が怖いのだろうか。
「シロヤ様・・・もう、頼めるのはシロヤ様しかいないと思うんです。」
「え?だって他にもバルーシさんとかプルーパ様だって」
「何でかわからないんですが・・・シロヤ様なら・・・私達バスナダ国を守ってくれると思うんです。」
クピンしか感じない、第六感に似た何か。強い霊力があるクピンだからこその直感だった。
その直感を信じたクピンが、顔を引き締め、ゆっくりと顔を上げた。
「お願いですシロヤ様!どうかバスナダをお救いください!」