祭典
「ここがバスナダの街か・・・。」
シロヤは周りを見渡した。
もっと建物が点々としている街を想像していたシロヤにとって、行き交うたくさんの人々やたくさんの高い建物、そして目の前に見える大きな城は予想外だった。
「とりあえず・・・宿をとるか・・・。」
「あぁ〜!やっと休める〜!」
宿の一室をとったシロヤは、ベッドに思いっきり倒れこんだ。バスナダ国に来るまで無休だったことに加え、めったにしない魔物退治までやってしまったため、倒れこんだ瞬間に一気に眠気が襲った。
「・・・zzz」
「・・・!」
急に目が覚めたシロヤは窓の外を見た。時刻はもう夜で、空の色は真っ黒だ。その下、宿から見れる街は、今が夜であることを忘れるぐらい明るい。窓の外からは小さく陽気な音楽が聞こえ、人々の陽気な声が聞こえてきた。
「・・・祭り・・・祭り!」
シロヤは眠気が残る頭を軽く振って、身支度を軽く済ませて宿を飛び出した。
「クロト!祭りだ祭りだ!出店回りするぞ!」
クロトは嬉しそうに足をバタバタさせた。
「よしクロト!まずは甘砂まんじゅうだ!」
シロヤはクロトにまたがって走り出そうとした。
その瞬間、
「こらお前!これからパレードカーが来るんだぞ!馬なんかで街中を回るんじゃない!」
近くにいた宿の主人に呼び止められた。
「パレードカー?何ですかそれ?」 それを訪ねた瞬間、流れていた音楽がさらに激しくなり、祭りを楽しむ人たちの声が一点に集中した。その先には、夜の街をさらに明るく照らす華やかなパレードカーが走っていた。
「今日は女王様のご帰還記念祭だからな。いつもよりパレードも華やかだ。」
「ご帰還記念祭?」
シロヤとクロトは首を傾げた。
「何だお前、よその国から来たのか?今日の昼にシアン女王様が遠征からご帰還したのだ。だから国民は女王様の無事を祝ってこうしてパレードをしているのだ。」
パレードカーを見上げているシロヤとクロトに向かって、宿の主人が言葉を続けた。
「パレードカーの上に座っておられるのが、我らがバスナダ国女王、シアン様だ!」
パレードカーの上には、これまた華やかなドレスに身をまとった美しい女性が座っていた。右と左を交互に見て国民に笑顔で手を振っていた。笑顔ながら、凛とした表情が見てとれるのは女王の素質があるからだろう。
そんなことを思いながらパレードカーを眺めていたシロヤ。
「・・・!」
ほんの一瞬、女王様が国民に笑顔で手を振っている最中、
シロヤと目があった。
女王様の動きが止まった。
「・・・?」
急にどうしたのかと、一部の国民とシロヤが異変に気づいた。
パレードカーの上の女王様が、大臣と思われる男に何かを言っている。何か急いでいるような雰囲気を出している女王様に、大臣からマイクを渡された。 パレードカーが動きを止めた。
「皆の者!今日は私の帰還を祝したパレードを開いてくれたことに感謝する!しかし、今回私が無事に帰ってこれたのは私一人の力ではない!」
女王様はすっとある方向を指差した。その先には、
「そこにいる黒毛の馬に乗った旅人の青年は、私が魔の物に襲われていたところを助けてくれた勇敢なお方だ!ぜひとももてなしてあげてほしい!」
女王様の言葉と同時に、その場にいた国民全員がシロヤとクロトに群がった。
「うわ!ちょっとまっ!うわあぁぁ!!!」
国民に持ち上げられ、ベルトコンベアのように城に向かって運ばれるシロヤとクロト。そのまま城の前まで運ばれたシロヤとクロトに、たくさんの食べ物を持った人たちが押し寄せてきた。あっという間にシロヤとクロトの目の前は、たくさんの食べ物で一杯になった。
まだ状況を確認できずに周りをキョロキョロするシロヤと、嬉しそうに食べ物にがっつくクロトに向かって、パレードカーの上の女王様がさらに言葉を続けた。
「パレードが終わったら城に来てほしい。改めて礼を言いたい。」
シロヤは遠くからも見えるように大きく頭を縦に降ったのち、ゆっくりと甘砂まんじゅうに手を伸ばした。
「これ・・・食べきれるかな・・・。」