告白
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ええぇぇぇぇ!!!」
シアンがシロヤに用意した席、それは国を統べる者の席、王の席だった。
「お!おぉ!俺が・・・おうに!?じょ!冗談ですよね!?」
「冗談ではない・・・私と・・・結婚して・・・王になって・・・ほしい・・・。」
シアンの顔がトマトのように赤く染まる。今、シアンが放った言葉は、間違いなく"告白"だ。
女王の告白を受け戸惑うシロヤは、口をパクパクさせて首を忙しく動かすことしかできなかった。
「・・・どうだ?それとも私は・・・魅力的ではないか?」
潤んだ瞳で上目使いをするシアン。
もちろんシロヤから見て、シアンが魅力的に映らないわけがない。ロングの髪の毛に華やかなドレス、綺麗な顔立ちにスタイルは誰もが魅了される。見た目だけではなく、性格や気配りも一級品。シアンは一国を統べる姫なのだから、そんなことは当然と言えるが、それはあくまでもシロヤからかけ離れた世界、王族や貴族などでの話だ。
単なる農民が姫と結婚、しかも恋愛結婚など、世界をひっくり返しても事例は出てこない。
「どうした・・・?私は早く・・・そなたの返事が聞きたい・・・。」
シアンの瞳がどんどんと潤んでいく。じっとシロヤを見つめるが、当の本人はまだまだ正気を保っていられない状態だった。それに気づいたシアンは、シロヤの頬に手を当てた。
「むぅ・・・やはり急に王になると言われても・・・答えるのは難しいか。」
シアンは優しく微笑んだ。
「ならば・・・そなたにこの国をもっと好きになってもらいたい。」
シアンはベッドから降りて、カーテンを開けて窓を見た。砂漠の夜の空は遮るものがなく、美しい星が国の空を彩っている。
「三日後、この国をあげて行われる最大級の祭り、"星夜祭"に、そなたを国賓として招待しよう。そこで、この国をもっと好きになってもらいたい。」
星空の光が部屋に差し込み、シアンの体を照らす。シロヤは何故か、星の光を浴びるシアンが神秘的に見えた。
「私たちバスナダ国一同、最大限のおもてなしをしよう。そして、星夜祭の終わりに、そなたの答えを聞きたい。」
三日、それはシロヤが答えを出すために考える時間。そして、答えを出すためにレーグの野望を止めなくてはいけない制限時間。シロヤにとって残された猶予だ。
「わかりました・・・三日・・・考えてみます。」
シロヤは小さくうなずいた。それを見たシアンの顔は、優しさを含んだ微笑みを浮かべていた。
「うむ、良い答えを期待しておるぞ。」
そう言ってシアンは、再びベッドに入り、シロヤに寄り添った。
「では今日はここで寝させてもらうぞ。」
シロヤの横にシアンも横になり、添い寝の形をとった。
あれから時間は経っていない。しかし、シロヤには何時間もの長い時間に感じた。シアンはずっとシロヤに寄り添っている。
ふと、シロヤはシアンに尋ねた。
「シアン様、この国の人たちは好きですか?」
「もちろんだ、民は皆、家族であると私は思っている。」
女王らしい答えだが、シロヤにとっては違和感しか生まれない答えだった。シロヤは続けた。
「もちろん・・・家臣も皆ですよね?」
「無論、家臣も皆バスナダの民だ。誰一人とて例外はない。」
シロヤの顔が曇った。聞いてはいけない質問をしたのではないか、という考えが頭をよぎる。そして、次にシロヤが口にした言葉も、また聞いてはいけない質問だった。
「もし・・・家族の誰かが・・・シアン様を暗殺しようとしても・・・ですか?」
即座にシロヤは後悔した。こんな質問はするべきではない。それがわかっていても、確認だけはしておきたかった。
曇った表情のシロヤとは対称的に、シアンの顔は微笑みを浮かべていた。
「もし私が狙われているのならば、喜んで受けよう。私は逃げも隠れもしない。命が欲しいのならば、くれてやる覚悟だ。」
覚悟、シアンの言葉に嘘偽りはない。清々しいくらいにまっすぐな答え。しかし、シロヤは清々しさを感じる余裕なんてなかった。
シアンは、今自分が狙われていることを知らない。当然の話なのだが、シロヤにはきつい現実だ。
「シアン様は・・・強いお方なのですね。」
「そなたも強いではないか。見ず知らずの私を魔の物から守ってくれたのだ。」
シアンはシロヤに向かって微笑んだ。しかし、シロヤは再び顔を曇らせた。
俺は強くなんかない・・・。助けたのは単なる良心、もし襲っていたのがバシリスクでなければ、シロヤは逃げていたかもしれない。
シロヤは何も喋ることが出来なくなった。
そのまま、無音の空間が二人を包み込む。シロヤは、色々とありすぎた今日の出来事を思い出す前に、深い眠りについてしまった。その頬を撫でながら、シアンも深い眠りについた。