予知
「私はこの景色大好き。でもね、最近砂漠が変わった気がするの。」
「砂漠が・・・変わった?」
目の前に広がる夜の砂漠は、確かに昼とは違った神秘的な印象があった。しかし、そんなことではないだろう。ローイエが見ているのは表面上だけではない、さらに奥深い何か・・・。
「何かが起こる・・・砂漠が壊れるような何かが起こる。」
ローイエの呟きはとてつもなく重く、それでいて暗い。
「・・・・・・・・・。」
ふとシロヤは二人を見た。シロヤの目に映ったのは、体を震わせる少女の姿だった。しかしそれは寒さではない。これから起こるであろう未来を予知しているような震え、恐怖だ。
「ク!クピンさん!?」
「どうしたのクピンちゃん!?」
震えていたのはクピンだった。その震えは自分で止めようにも止められないようで、震えはさらに強くなりクピンの顔を青くする。
「いや・・・いやぁ・・・いやぁぁぁ!」
クピンは頭を抱えながら悲鳴をあげたのち、そのまま前に倒れこんだ。
「クピンさん!クピンさん!」
「お兄様!プルーパお姉様のところに運びましょう!」
「気絶してるわ・・・。」
プルーパがクピンの顔を覗きこんで言った。
「でも・・・どうして気絶なんか・・・。」
「・・・話しておいた方がいいかしらね。」
プルーパはしばらく考えたのち、ゆっくりと語り出した。
「クピンをメイドとして雇ったのは、シアンじゃなくて私なのよ。」
クピンの顔を軽く撫でて、再び続けた。
「クピンには強い霊力があるのよ。それを自分で制御できないから、たまにこうやって暴走を起こすのよ。多分、今回のは暴走が起こったことで未来が見えたんじゃないかしら。」
強い霊力を持つ者は、制御が難しく暴走を起こす。それはごく当たり前の話だ。
しかし、未来を見ることができるなんて話は稀である。よっぽど強い霊力がないと、未来を見るなんてことはない。
「まぁ一日経てば目覚めるから心配しないで、さぁローイエ、もう寝るわよ。」
プルーパはローイエを部屋から出すと同時に、シロヤを見た。
「シロヤ君、ちょっといいかしら。」
プルーパは重く言った。瞳が深く、それは見ているだけで吸い込まれそうだ。
「クピンは未来を見て気絶した。その意味がわかるかしら?」
シロヤは考えた。
「えっと・・・霊力が強すぎて負担になったからですか?」
「いいえ、原因は"見えた未来"よ。」
プルーパは顔を伏せた。おそらく、プルーパも信じたくないのだろう。
「クピンが見た未来は・・・おそらく星がレーグに奪われた未来よ。」
「えぇ!じゃあ未来はもう決まって!?」
「いいえ、あくまでもその可能性が一番高いって話よ。クピンには耐えられない未来の映像だったみたいね・・・。」 心配そうにクピンを見る二人。青かった顔は少しずつ戻っているようだ。
「クピンは私が看病するわ。シロヤ君、今日はもう休みなさい。」
「は・・・はい。」
プルーパに促され、シロヤは部屋を出た。
シロヤは少し考え込んだ。
「未来・・・。」
クピンが見た未来、恐怖に飲まれ気絶する程の未来。いったいどんな未来なのか。
「・・・。」
星が奪われ、シアンは暗殺され、バスナダがレーグの手に落ちたとしよう。そしたら他の人たちはどうなるだろうか。
おそらく、レーグの計画を知っている、そして知ろうとしている人は処刑されるだろう。ということは、ローイエも、プルーパも、バルーシも、レジオンも、そしてシロヤも・・・。
「・・・いやいや駄目だ!」
頭を軽く振って考えていたことを消す。マイナス方向に考えていてはキリがない。そう思って布団に入る。
「・・・・・・・・・!」
一度出たマイナス思考は消えない。布団に入って忘れようとすればするほど、どんどんと深く思考が頭をめぐる。
次第にシロヤは恐怖を覚えた。広い部屋に一人でいるということが、さらに恐怖心を強くする。
いつしかシロヤは、体をブルブルと震わせていた。
ガチャ・・・。
「・・・!!!」
急に開いた扉、シロヤは反射的に剣を握った。
「ど!どうしたのだ!?何かあったのか?」
シロヤは手を下ろした。
「シアン様・・・!」
部屋に入ってきたシアンだった。シアンはシロヤのベッドに上がり、シロヤに寄り添った。
「どうしたのだ?汗だくではないか。」
いつの間にか、シロヤは汗だくになっていた。
「私が・・・拭こうか?」
頬を少し赤くして、シアンは呟いた。
「いや!あ・・・遠慮します・・・。」
激しく拒否すると失礼だと思ったシロヤは、最後に小さく拒否の言葉を呟いた。
「ふむ・・・嫌ならいいだろう。」
シアンは寄り添いながら呟いた。
「そういえば、そなたにしかできぬことの話だが。」 シアンは、シロヤを見つめながら呟いた。
「私と共に・・・この国を支える王に・・・なってほしい・・・私と・・・結婚して・・・ほしい・・・。」