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Sand Land Story 〜砂に埋もれし戦士の記憶〜  作者: 朝海 有人
第三章 白の勇者と古の記憶
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終演

 バスナダは砂漠地帯だが、外れに行けば木々たちがまだ鬱蒼と生い茂っている。

 バスナダの民は、俗に"未開拓地帯"と呼ばれているこの森の木々を見て季節を感じるのだ。

 そして今、木々の葉は鮮やかな色に染まっている。つまり、今が春であることを表している。

 そんな爽やかな春の空の下、最大の建築物であるバスナダ城は、非常に騒がしかった。

「あ!レジオンさん!そっちに!」

「待ちやがれ!ドレッド!そっちに回れ!」

「捉えた!バルーシ!手伝え!」

 城のテラスでは、何やらバタバタと慌ただしく、三人の男が走り回っている。その先には、まさに暴れ馬という名がぴったりな馬がいた。

「あ!クロト何を!」

「おいおい、まずいんじゃないか!?」

「待ってください!クロト様!」

 男三人が必死に止めようとするが、その努力むなしく、馬はテラスの柵を飛び越えて大空に向かって飛んでいった。


ガラガラガラガラガラ!!!


「な!なんだなんだ!?」

 城の外を歩いていた男の近くの積み荷に、クロトと呼ばれていた黒毛の馬が落ちていった。

 それを見ていた男は、小さくため息をついてクロトに近づいていく。どうやら、状況を理解したようだ。

「だからなぁ、クロト。お前があの時飛べたのは、絆の力で竜になれたからなんだよ。馬に戻ったんだからもうお前は飛べないんだ、わかったか?」

 それを聞くと、クロトはとても寂しそうに鳴いた。

「シロヤ様!」

 テラスの上から声がした。見上げると、そこには血相を変えて下を見ているレジオンとドレッドとバルーシがいた。

「クロト様はご無事ですか!?」

「はい!大丈夫です!」

 男―――シロヤは大きな声で答えた。


 ラーカとの戦いが終わり、半年が過ぎた。

 あれから、クロトは何度もテラスから飛び降りている。よほど竜になって空を飛んだのが気持ちよかったのか、無理だと言い聞かせても何度も繰り返している。

「よかった、無事だったみたいだな。」

 急いでテラスから降りてきたレジオンが、安心したように言った。

 あの戦いの後、レジオンは新・バスナダ七人衆を結成した。国王を助け、バスナダをさらに繁栄させようと、政治が苦手なレジオンは日々頭を悩ませながらも奮闘している。

「ったく、手間とらせやがって。」

 クロトの頭を、ドレッドはそっと撫で上げた。

 敵であったドレッドは改心して、現在はランブウの後釜である戦術顧問の座についている。元々戦い好きという意味もあり、とても生き生きと仕事をしている。

「申し訳ございません。私達がついていながら。」

 バルーシは大きく頭を下げた。

 バルーシは、レジオンが結成した新・バスナダ七人衆と、バスナダ兵団長の両方の役職についた。主に軍事的な方面においてその力を発揮しており、城の者からは非常に好かれている。

「いえ、いいんですよ。ほら、クロト行くぞ。」

 そう言って、シロヤはクロトを引っ張っていった。


 クロトを連れていったシロヤは、王室に向かって歩いていた。

 その途中、一つの部屋の扉が開いていた。覗いてみると、そこには二人の女性が仕事をしていた。

「えっと・・・これがこれだから・・・この書類がこうなって・・・!」

「ちょっとクピン!また判押してないわよ!」

「はわわ!ごめんなさいルーブさん!」

 とても慌ただしい様子の部屋に、シロヤはゆっくりと入っていった。

「あら、シロヤ様。」

「はわわわわ!シロヤ様!」

 シロヤの姿を見て、慌てて立ち上がって服装を整えるクピン。そんなクピンとは対称的に、衣服を直さずにジッとシロヤを見ているルーブ。

「ふぅん、ちょっとはマシな顔になったんじゃない?」

 ルーブはシロヤの顔を覗き込みながら言った。

 ドレッドと同様に改心したルーブは、クピンの部下としてメイドとなった。最初はクピンの部下になることに抵抗があったようだが、いつの間にか二人は打ち解けあっていた。

「シロヤ様!お見苦しいところを見せてしまい、申し訳ありません!」

 慌てた様子でクピンが頭を下げる。

 平メイドだったクピンは、プルーパやローイエの推薦もあり、新・バスナダ七人衆の一員と大出世を果たした。主に経済面を担当しているが、まだ幼いクピンには重荷ではないかとやや心配だったが、クピンはいつも笑っている。

「お邪魔だったみたいですね、失礼します。」

 そう言って、シロヤはクピン達のいる部屋を後にした。

「ん?シロヤじゃないか。」

 その直後、後ろから声がかけられた。振り向くと、そこにはランブウが立っていた。

「ランブウさん!いつからここに?」

「ついさっきだよ、たまにはここに顔出さないとな。」

 ランブウはいつものように楽観の笑顔を浮かべた。

 ランブウは、変わらずに国境警備隊を続けている。しかし、それ以外にもランブウは行っていることがあった。それは、孤児達を養う施設の建設だ。悲しむ子供のための施設、ランブウらしい優しい考えだ。

「おっと、もうこんな時間か。じゃあ俺は行くぜ。」

「はい、施設の建設頑張ってください!」

 ランブウが背を向けて歩いていくのを、シロヤは見えなくなるまで見ていた。


「・・・ふぅ。」

 王室に着くと、シロヤは玉座に身を下ろす。しかし、いまだにシロヤはこの玉座の感覚になれないでいた。

「・・・シロヤ様。」

「うわぁ!」

 突如、後ろから聞こえてきた声。振り向くと、そこにはリーグンが、そしてその足元にはフカミとキリミドが立っていた。

「シロヤ様、先日渡した予算案なんですが。」

「あ、はい。えっと、判をしてクピンさんに渡しておきました。」

 シロヤの答えに、リーグンは大きく頷いた。

 リーグンは、父であるレーグと同じ役職である大臣となった。それは父を越えるため、そして父を忘れないためだった。さらにリーグンは、大臣であると同時に新・バスナダ七人衆の一人でもある。この二足のわらじは、リーグンだからこそ出来る技だ。

「それとシロヤ君。旧バスナダ国家が建てたっていう教会なんだけど。」

「どうしましょうか?私達だけではとても手が回らなくて。」

 フカミとキリミドが言う。

 フカミとキリミドは、先の戦いで破壊された森の再生に従事している。それは、森で生きてきた精霊姉妹だからこそ出来る仕事であり、シロヤも何回かお手伝いに行ったこともある。

「うーん・・・取り壊すわけにはいかないし・・・。」

 頭を悩ますシロヤ。

 その時、王室の巨大な扉が開いた。

「あの教会なら心配ないわ。国民の皆さんが責任を持って管理するって。」

 入ってきたプルーパが、シロヤに向かってウィンクをした。

 ラーカが倒されたあの日、命の危機から解放された国民達は歓喜に満ちていた。

 さらにその歓喜に追い討ちをかけるがごとく発表されたのが、婚礼儀式の日取りだった。

 婚礼儀式、言うまでもないがシロヤとシアンの式は、ラーカが倒された三日後に行われた。

 国を救った英雄シロヤが真に王位継承、そして女王シアンとの結婚、さらにはその側室として姉妹であるプルーパとローイエとも結婚すると知り、国民達の盛り上がりは最高潮に達し、婚礼パレードは連日連夜開催された。

 そのため、国の景気が非常に活気となり、国民達は融資を出しあい、英雄が戦った戦争の証を保護する運動を自主的に行っている。

 さらにもう一つ、国民達が自主的に行っている活動がある。

「お兄様!」

 プルーパの後ろから、ヒョコっとローイエが顔を出す。その手には、何やら紙が握られていた。

「これ、英雄像の完成パレードだって!」

「も、もう完成するんだ・・・!」

 信じられないといった表情で、大きな窓から街を見下ろすと、その中心部では大規模な工事が行われていた。

 これが国民が自主的に行っているもう一つの活動、英雄像である。

 国を救ったシロヤを英雄とし、バスナダ市街地のど真ん中に巨大なシロヤの像を造るのが目的だった。

「お兄様!クピンちゃんとかと一緒に参加しようよ!」

「そうね、私的には久しぶりにシロヤ君とデートがしたいかしらね。」

 ローイエは目を輝かせながら、そしてプルーパが妖艶な表情で言った。

 ローイエもプルーパも、今は女王ではなく王妃だ。シアンは少しムッとしていたが、それでもローイエとプルーパを側室にすることを認めてくれた。

「じゃあシロヤ君、楽しみにしてるわね。」

「お兄様の像、楽しみー!」

 プルーパとローイエは、本当に嬉しそうな表情で王室を後にした。

「・・・さて。」

 二人を見送ったシロヤは、二人が行った方向とは反対側へ歩いていった。

「シロヤ様、どちらへ?」

 リーグンの問いに、シロヤは振り向いて答えた。

「ちょっと・・・会いに行ってきます。」


 シロヤは、城の最上階にやってきた。城よりも高い建物がないため、砂の地平線がはっきりと見え、優しい風がシロヤを包む。

 そんな中、シロヤは最上階をキョロキョロと見渡し始めた。

「・・・・・・・・・あ!」

 しばらく探していると、シロヤはやっと会いたかった人を見つけた。

 会いたかった人は、最上階で遠くの景色を眺めていた。

「ここにいたんですか、シアン様。」

 シロヤは、水色の長髪をなびかせながら景色を見ているシアンに話しかけた。

 隣に立ってシアンと同じ景色を見つめるシロヤ。


「・・・シロヤ。一つ、質問してよいか?」


 突如、シアンはシロヤに聞いた。

「・・・なんですか?」

「もし、もしもだ。もしも私達が・・・あの時会っていなかったら、私達はどうなっていただろうか。」

「・・・。」

 シアンの質問に詰まるシロヤ。その空気を察したシアンは、すぐさまシロヤに向かって笑いかけた。

「うむ、やはり答えられぬな。当然だ、こんな質問など私らしく・・・!」

 そう言いかけた瞬間、シロヤはシアンを強く抱き締めた。二人を、バスナダの優しい風が撫でる。

「俺は・・・こうなったのは運命だと思っています。」

「運命・・・?」

「はい。シアン様と出会い、様々な人と巡り会えたこと、絆の力を受け継いだのも全て俺の運命。それならば、俺はこの運命に感謝します。」

 シロヤはシアンを抱き締めたまま、はっきりとシアンに言った。


「皆さんと出会えたこと、絆を紡げたこと、そしてシアン様と出会えたことは・・・俺の一生の宝物です!」


 その瞬間、シアンはボロボロと涙を流しながらシロヤを抱き返した。

「私も・・・自分の運命に感謝している・・・こうしてシロヤと・・・出会えたのだから・・・!」

 震えながら感極まって涙を流すシアンと、シロヤはしばらく抱き合っていた。

 そして、二人は優しく口づけをし、小さく呟きあった。


「これからもずっと一緒だ。シロヤと共に、幸せになろう。」

「はい、幸せになりましょう。シアン様。」


 そして二人は、永久の平和と絶対の絆を誓い合った。




 15年後。

 農業大国"アグリム"からバスナダにやってきた一人の旅人が、未開拓地帯に迷い込んでしまい途方に暮れている所をバスナダの姫に助けられて恋に落ちるのだが、それはまた別のお話。


Sand Land Story 〜砂に埋もれし戦士の記憶〜


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