勇気
少し前・・・。
「シアン様!今すぐこの場から離れてください!」
突如、空に現れた謎の黒い塊から黒い獣が生成され、大量に城に入り込んできた。
兵士達は何とか王室を食い止めようと戦っていたが、そこへ王室にいるはずのシアンがやってきた。
「そこを通せ。私は城の最上階へ行く。」
「なりません!この先には謎の黒い獣が!」
兵士達がシアンを止めようとするが、それでもシアンは最上階に向かって歩き始めた。
「シアン様!お戻りください!」
「心配はいらぬ!獣など私の敵ではない!」
そう強く言い放ち、シアンは兵士達を背に最上階へ続く階段を上り始めた。
「ふむ・・・やはりあれが・・・。」
最上階につき、遠くの空に見える黒い塊を見るシアン。
そこに、三匹の黒い鳥がやってきた。
「あれが、あの黒い塊が放った獣・・・か。」
シアンは背中に掛けていた弓と三本の矢を抜いて構える。
そして、その鋭利な嘴でシアン目掛けて急降下してくる鳥に向かって矢を向けた。
「散れ、三本波矢。」
シアンは三本の矢を一斉に放った。
矢はまっすぐと黒い鳥に向かって飛んでいき、同時に三匹の心臓を貫いた。
鳥が、体に矢が刺さったまま落ちてくるのを見て、シアンは静かに弓を再び背中に掛け、黒い塊を見る。
「あそこでは・・・シロヤが戦っているのだな。」
ふと、シアンの頭の中に、シロヤと出会ってからの出来事が甦った。
死に場所を探していた自分を助けてくれたシロヤとの出会いは、シアンの人生を大きく変えた。時に笑い、時に悲しみ、時に楽しみと、毎日がシロヤのおかげで輝かしいものに変わった。
「シロヤは私に、生きる希望をくれた。」
もちろんシロヤだけではない。姉であるプルーパや妹であるローイエ、バルーシやレジオン、リーグンやランブウ、フカミとキリミドにクピンと、いつもシアンの周りは賑やかだった。
「シロヤがいたからこそ、私は生きてこれたのだな。」
母を失い、父を失い、自分が捨て子であることを知り、何もかも裏切られたあの時の自分を、シロヤは救ってくれた。
過ちを犯した自分を、シロヤは助けに来てくれた。そして、罪を許してくれた。
「私は・・・弱い人間だ。だがそれすらも関係なく、シロヤは手を握ってくれた。」
走り続けてシアンに向かって手を伸ばすシロヤだったが、いつの間にかその関係は逆転していた。気づけば、シアンがシロヤに向かって走り続け、握ってほしいと手を伸ばし続けていた。
「私は・・・シロヤと共にいたい!」
シアンは、心の中の思いを口にした。
「なら・・・彼に力を貸してあげて。」
「!」
その時、シアンの頭の中に声が流れてきた。
「彼は、とても巨大な闇に立ち向かおうとしている。」
「・・・そうだな。」
頭の中に流れる声に答えるシアン。不思議と、その声は柔らかでシアンの心を解きほぐしていくようだった。
「彼の頭には、いつもあなたがいます。あなたがいるからこそ、あなたがいたからこそ、彼は強くなれたのです。」
柔らかな声は、シアンの頭で優しく語りかけ続ける。
「だから今度は、あなたから彼の元に向かう番です。」
「・・・シロヤは、私の手を握ってくれるだろうか。」
ふとシアンは自分の右手を見つめる。追いかけ続けてもなお、掴むことができなかったシロヤの手を、自分は掴むことができるのかと、不安な気持ちが頭を満たす。
しかし、流れる声はそれすらも優しく解きほぐす。
「大丈夫、あなたが手を伸ばせば、彼はそこにいる。後はあなたの勇気だけ。」
流れる声は、まるで母親のような暖かさを感じる。シアンは、自分の目の前で父をかばった母の姿と声を思い出して、優しく微笑んだ。
「今度は・・・私がシロヤを支える番だ。」
そう言って、シアンは城の最上階から飛び降りた。
風が、砂の大地を通り抜けていった。