崩壊
「な!何だ!?」
突如吹き出してきた闇に驚くシロヤ。
闇はゆっくりとラーカの近くに塊となって落ち、やがてその闇は三つ首の狼に変化した。
「さぁ、純粋な闇をまといし獣を相手に、果たして勝てるかな?」
ラーカの言葉と同時に、三つ首の狼は地面を蹴ってシロヤとバルーシに向かって牙を向けた。
「速い!」
「シロヤ様!」
異常なまでの速さに対応が遅れたシロヤ。そのシロヤを守るため、バルーシは剣で狼の牙を止める。
「くっ!」
「バルーシさん!」
予想以上の牙の強さに圧倒されるバルーシ。次第にバルーシは、狼の力に負けて後ろに下がりつつあった。
「なんという力だ・・・!このままでは・・・!」
キィィィン!
「!」
バルーシの剣が宙を舞い、地面に突き刺さった瞬間、狼はバルーシに向かって牙を突き立てた。
「ぐわぁぁぁ!」
肩に牙の一撃を食らい、膝をついて肩を押さえるバルーシ。
狼は止めを刺そうと、再び牙を突き立てようと構える。
「させない!」
狼の動きを察知し、すぐさま狼とバルーシの間に割って入るシロヤ。
狼は割り込んできたシロヤに攻撃目標を変え、牙を向けて飛びかかってきた。
「っ!」
すぐさま横に飛び退く。
何とか避けることができたシロヤだったが、避けてから体制を立て直すよりも狼の第二撃の方が速かった。
再び飛びかかってくる狼に、シロヤは対応できなかった。
「ぐぅ!」
肩に噛みついてきた狼を腕で防いだシロヤだったが、腕の防御では限界があった。
何とか払い飛ばそうとするが、狼はしっかりとシロヤの腕を捕らえている。
「うっ・・・!」
次第に力が弱まっていくシロヤ。
やがて、シロヤの腕の防御が弱くなり、狼はその隙を狙ってシロヤに突進した。
「うぁ!」
そのまま地面に倒れるシロヤ。何とか立ち上がろうとしたが、その瞬間に狼はシロヤの上に乗って動きを止めた。
「つまらん、やはり人の思いはその程度か。」
「くっ・・・!」
嘲笑うかのようなラーカの言葉。
「もうよい、そのまま奴の首を食いちぎってしまえ!」
ラーカの命令に反応し、狼はシロヤの首に向かって牙を向けた。
「シロヤ君!」
プルーパがすぐさま狼に向かって短剣を投げようとするが、その瞬間、狼がプルーパの方を向いて吠えた。
「あぁ・・・!」
狼の咆哮を聞いて、体が動かなくなるプルーパ。
その強力な狼の威圧感に、プルーパは動きを封じられてしまったのだ。
「ふふふ・・・そこで見ているがよい。貴様らの愛する者が死ぬ瞬間をな!」
ラーカの言葉と共に、狼はシロヤの首に狙いを定め、勢いよく降り下ろした。
「シロヤ君!!!」
プルーパが叫ぶ。
「!」
刹那、プルーパの必死な叫び声と共に空気が変わった。
その正体は、プルーパのすり抜けて勢いよく飛んでいった風だった。
その風は勢いよく、そしてまっすぐにシロヤと獣に向かって吹き、やがて風は獣を吹き飛ばした。
「・・・!」
獣を吹き飛ばしたのは風ではなかった。風のような素早さでシロヤに向かっていったそれは、キラキラと光る黄金の余韻をその軌道に残していた。
「まさか・・・星を・・・?」
この余韻は、まさしく星によるものだ。
星によって風のスピードを得た人。プルーパはその名前を呼んだ。
「ローイエ!」
そう、獣を吹き飛ばした風の正体はローイエだった。
キラキラと光る星の煌めきを帯びたことにより、ローイエはラーカの威圧感を吹き飛ばし、桁違いのスピードを得たのだ。
「お兄様!大丈夫!?」
すぐさま駆け寄ってシロヤを起こすローイエ。
「ローイエ様・・・!」
「よかった・・・!お兄様、ちゃんと生きてるよね!?」
ローイエの言葉に微笑みで返すシロヤ。
それを見て安心したローイエは、立ち上がって吹き飛ばされた狼の方を向いて槍を構えた。
「見ててねお兄様!私が人の思いの強さを証明するから!」
そう言うと、狼は一直線にローイエに向かってきて、そのままローイエに向かって牙を向けた。
それをローイエは槍で防ぎ、狼との力比べを始めた。
「ローイエ様!」
シロヤは思わず叫んだ。バルーシが力負けした相手にローイエが力比べなど無謀すぎる。
「お兄様!大丈夫だよ!」
今すぐ助けに入ろうとしていたシロヤの方に顔を向け、ニッコリと微笑むローイエ。
そして、ローイエは再び狼の方を向いて槍に力を加えた。
「何だと!?」
ラーカの驚きの声が響く。
「ローイエ様が・・・押してる・・・!」
槍に力を加えた瞬間、狼はどんどんと後ろに下がっていった。
ラーカが驚くのも無理はない。純粋な闇の結晶から生まれた狼の力は、ドレッドやルーブの比ではないのだ。
次第にローイエが狼を押していき、そしてさらに槍に力を加えた瞬間、狼の牙が音を立てて砕け散った。
「今だ!えぇい!」
隙を見つけたローイエは、そのまま狼に向かって槍を振るう。 狼は槍の一撃を食らい甲高い雄叫びを上げ、そのまま倒れて動かなくなった。
「あり得ぬ・・・!闇の結晶から生まれし獣を・・・!」
呆然とするラーカに向かって、ローイエは槍を向けた。
「これがシロヤお兄様の人の思いの強さだよ!お前なんかに絶対負けないんだから!」
ローイエの言葉を聞き、ラーカは呆然としていた状態から一転、怒り狂った様子で怒号を放つ。
「ぐぉぉ!人の思いなどという下らぬ力に!闇が負けるなどあり得ないのだ!」
ラーカの怒号が終わった瞬間、ラーカの周りに巨大な闇の塊が出現した。
「何だ!?」
「破壊してやる!貴様らもろともこの国を全て破壊し尽くしてやるのだ!」
その瞬間、黒い塊が巨大化を始めた。
「まさか・・・!地下帝国を壊すつもりか!」
「そんな!地下帝国には国の皆が避難してるって言うのに!」
シロヤとローイエはすぐさま黒い塊を倒そうとするが、闇の力が強すぎて迂闊に近づけない。
「まずい!このままじゃ国民が!」
「シロヤ様!」
焦るシロヤに、誰かが声をかけた。声の方を向くと、そこにはクピンが立っていた。
「クピンさん・・・!」
シロヤはクピンを見た瞬間、その姿に驚いた。
クピンの体には、ローイエ同様の金の光がまとわれていた。つまり、クピンも星の力を得たということだ。
「シロヤ様、今から私の霊力で地下帝国にいる皆さんを地上へ送ります!」
「クピンさん・・・!お願いします!」
シロヤの言葉と共に、クピンは目を閉じて精神を集中する。
やがてクピンの周りに光が現れた時、クピンは勢いよく叫んだ。
「皆さん!今から地下帝国の中にいる皆さんを外へ送ります!」
そう言った瞬間、倒れていたリーグン、レジオン、フカミ、キリミドが光に包まれ、姿を消した。
それに続いてプルーパ、バルーシ、ローイエと続き、そしてシロヤとクピンが同時に光に包まれ、地上へと送られた。
「小癪なぁ!だが残念だったな!我が目覚めまで、貴様らの命が尽きるまでの時間はあとわずかなのだ!ふははははははは!!!」
ラーカの笑い声と共に、地下帝国は黒い塊によって破壊され、崩れ落ちていった。




