拠点
「シロヤ君!」
広い空間に響く声。
長い道を抜けてやってきたのは、着物から普段のドレスに着替えたプルーパだった。
そしてその後ろには、ローイエ、クピン、レジオン、リーグン、フカミとキリミド、そしてクロトが揃っていた。
「皆さん・・・!無事だったんですね!」
全員の顔を見て、安堵の表情を浮かべるシロヤ。
「当然です。私達はシロヤ様との約束を果たすため、絶対に勝つと誓いましたから。」
シロヤの後ろで、バルーシがゆっくりと立ち上がりながら言った。
その後ろには、同じくゆっくりと立ち上がるロブズンの姿があった。
「あなたは・・・!」
プルーパの言葉と同時に、ロブズンはバルーシの前を抜けてシロヤと向かい合った。
「・・・白の勇者よ、今まで私は数多の過ちを犯してきた。しかし、私は兄の言葉を信じて罪を償うことを決めた。」
「ロブズンさん・・・。」
そして、ロブズンは落ちていたシロヤの剣を拾い、シロヤの前に差し出した。
「願わくは・・・白の勇者の戦いを見届けたい。そして私は、あなたのために過去を清算する。それをここに・・・誓います。」
ロブズンの決意、一心にシロヤを見つめブレないその様は、とても強いものだというものを物語っている。
そのとても強い決心を前に、シロヤも強い心で差し出された剣を握り、ロブズンに答えた。
「はい!ロブズンさんの決意・・・確かに受け取りました!」
「・・・ありがとう、白の勇者よ・・・。」
ロブズンは、小さく微笑んだ。
その後ろでは、プルーパが目でバルーシにメッセージを送っていた。
「よかったわね、弟さんを救えて。」
プルーパのメッセージを受け取ったバルーシは、プルーパに向かって微笑み、目でメッセージを送り返した。
「ありがとうございます、プルーパ様。」
そのメッセージを受け取り、プルーパも優しく微笑み返した。
「・・・ところでロブズンさん、ここは一体・・・。」
突如、シロヤが今まで持っていた疑問を切り出した。
「ここは俺達のねぐら、言わば俺達の拠点だ。」
「!」
突如、プルーパ達の後ろから声が聞こえた。
振り向くと、そこには赤髪の男、ドレッドと、青髪の女、ルーブが立っていた。
「あなたたち!」
プルーパの声に、全員が一斉に武器を構える。
「お、おいおい!何もしねぇって!」
「そうよ、私達はもう負けた。武器も壊されてなくなった私達に戦う意思はないわ。」
二人は手を挙げて武器がないことを確認させる。確かにドレッドの長尺刀もなければ、ルーブの斧もない。
「・・・戦う意思がないってのは、信じていいみたいね。」
プルーパの言葉に安心して、全員が武器をしまって戦闘体制を解く。
それを見て安心したドレッドとルーブは、プルーパ達の横を通り、洞窟の先の道の前に立った。
「俺達の拠点はこの先だ。そしてその先にいるのは俺達の総大将。」
「総大将・・・ってまさか!」
シロヤの驚きに、ルーブが冷静に答えた。
「あなた達が倒すべき敵、ラーカよ。」
その事実に、全員の体が一瞬で硬直する。
「とうとう来ましたね・・・。」
「ラーカはこの先か・・・。」
リーグンとレジオンが呟く。
「感じます・・・この先に強い力を・・・!」
「えぇ、確かに感じるわ。」
「私も感じる・・・どす黒い闇の力を・・・!」
クピンが怯えたように呟き、フカミとキリミドは冷静に呟いた。
「ここまで・・・ようやくたどり着けましたね・・・。」
「お兄様・・・!」
バルーシが剣の握る手に力を込め、ローイエは不安そうな表情でシロヤに近づく。
「シロヤ君・・・。」
プルーパも不安そうな表情で近づく。
全員がこの先にいるラーカの闇の力を体で感じて、不安に思い、それと同時に最後の戦いに恐怖していた。
「・・・。」
シロヤも例外じゃなかった。手がカタカタと震え、額から汗が流れている。
「・・・シロヤ。」
「!」
恐怖に震えていたシロヤの耳に、声が聞こえた。周りを見回すが、声の主はここにはいない。
「・・・シロヤ。」
またも聞こえてくる声。その声は、シロヤの恐怖していた心を優しく包んでくれる声だった。
「シアン・・・様?」
確かに聞こえたシアンの声。そして、いるはずのないシアンの声がさらにシロヤに語りかけてきた。
「そなたを・・・信じておるぞ。必ず生きて帰ってくると・・・また皆で笑い合う平和な未来が約束されることを・・・。」
そう言って、シアンの声は聞こえなくなった。
「・・・シアン様・・・。」
シロヤは胸に手を当てて、目を瞑って心の中でシアンに語りかけた。
「約束します・・・必ず帰ってくると・・・!」
シロヤは目を開け、まっすぐとラーカに続く道を一点に見つめた。その表情には不安の色も恐怖の色も無く、澄みきった決意の色だけが映っていた。
「皆さん、行きましょう。」
シロヤの強い言葉に、次第に全員の恐怖が消えていく。
「・・・えぇ、行きましょう!」
最初にプルーパがシロヤの横に並んだ。
それを皮切りに、全員が決意に満ちた表情でシロヤの横に並んでいた。
「・・・クロト。」
シロヤは、隣に並んでいるクロトをそっと撫でた。
クロトも決意したように大きく鳴いた。それは「早く行こう!」と言っているようだった。
「・・・わかったよ、クロト。」
クロトの決意を受け取り、シロヤは深呼吸をして前に一歩踏み出した。
それに続いて、全員がシロヤに続いてラーカへと向かっていった。
強い決意を胸に、目の前の闇に打ち勝つために、全員が足取り大きくラーカへと向かっていく。
そして、シロヤ達は広い空間にたどり着いた。