大地
シロヤ達がやって来たのは、城の奥の兵士の詰め所だった。
「では・・・開けますよ。」
一拍置いたのち、バルーシはドアを開けた。途端に流れてくる異臭。
「うぅ!」
思わず鼻をつまむシロヤ。詰め所の中は異臭しかしなかった。そんながらんどうな詰め所の奥に、シロヤは動く影が見えた。
「ウック!なんだなんだ〜!揃いも揃って〜ウック。」
樽にもたれ掛かっている男がいた。ゆっくりと立ち上がって近づいてくるが、その足はおぼつかない。ふらふらと近づいてドア付近に再びもたれ掛かる。
「ん〜?なんだお前〜!?」
男はシロヤの顔をのぞきこんだ。全身から異臭を放ち、口からはさらに強い臭いを放つ。
これは・・・酒だ。
バルーシは、持っていた物を男に渡すと、男は物を口に当ててひっくり返した。そこからまた臭う異臭。おそらくバルーシが持っていたのは酒だろう。
しばらくして、バルーシは男に言った。
「その方はシアン様が招待した客人、シロヤ様です。」
「あぁん?客人!?ただの農民にしか見えんが!?」
事実なだけに否定できないシロヤ。苦笑いしながら、プルーパは本題を持ち上げた。
「それで本題なんだけど、ちょっと協力してほしいことが」
「断る!」
プルーパの言葉を途中で遮った。
「待ってくださいレジオンさん!今回の件はレジオンさんの力が!」
「知らねぇよそんなもん!大体俺は引退した身だ!そんなやつの力なんか借りずにてめぇで何とかしやがれ!」
シッシッシっとバルーシ達を追い返し、再び詰め所の中に入る。
「まぁ・・・予想通りでしたね。」
バルーシが苦笑いした。
「にしても・・・レジオンがいなきゃ話にならないわ。別の説得方法を考えましょう。」
プルーパも同じく苦笑いしたのち、四人は詰め所を離れた。
「しかし・・・これじゃ手がありませんよ。」
バルーシは頭を抱えた。それを見ながら、プルーパとリーグンが同じように考え込んだ。
「私・・・もう一回レジオンのところに行ってくるわ。バルーシ、あなたも行くわよ。」
「はい!」
再びバルーシとプルーパが部屋を出ていった。
「あの・・・レジオンさんっていったい・・・?」
シロヤはリーグンに尋ねた。
「レジオンさんは、砂の竜王時代に兵団長に配属になった方です。今は体のことを考えて兵団長を引退、現在は兵士達の剣術指南等を主とした活動をしています。」
それを聞いた直後、部屋の扉が開いた。バルーシとプルーパが戻ってきたのかと思って振り向くと、そこにいたのは違う人だった。
「シロヤ君・・・だったかな?」
立っていたのは、さっきまで泥酔していた男、レジオンだった。しかし、今部屋に入ってきたレジオンに酒気はない。シラフのレジオンだ。
「そう・・・ですけど。」
思わず声に緊張の色が混じる。シラフのレジオンからは強い威圧感が発せられていて、歴戦を乗り越えてきた事がわかる。
「さっきはすまなかったな。それで改めて、君と話がしたい。一緒に来てくれないか?」
「は・・・はぁ・・・。」
シロヤはレジオンのあとについていった。しばらく歩いてたどり着いた場所は、城の見回り台だった。
「国ってなぁ・・・難しいと思わねぇか?」
見回り台の上で砂の国の大地を見ていたレジオンは、突然シロヤに話しかけた。
「この国の砂漠には、たくさんの人達の命が眠っているんだ。もちろんそれは、砂の竜王時代に散っていった人達だけじゃねぇ。国をよくしようと尽力した歴代国王、そしてそれを支えた国民達皆の命も含めてだ。」
レジオンは遠くを見ながら、再び語りだした。
「俺はこうして・・・砂漠の風を感じながら砂漠を眺めるのが好きなんだ。」
砂漠の風がフワッとシロヤの髪を撫でた。
「今お前達が相手にしてる奴ってのは・・・そんな大地を、国を壊そうとしている奴だ。」
シロヤは砂漠を見た。たくさんの命が眠る大地。それを再び戦いの大地に変えようとしているのがレーグ。改めてシロヤは、戦っている相手が強大だということを再認識した。
「そんな奴ら相手と・・・お前は戦うことができるか?」
レジオンはシロヤを見た。再度吹く砂漠の風。しかし、同じ風とは思えないほど、今吹いている風は重かった。
「誰も言わないから言うが、バルーシもプルーパもお前を過大評価しすぎだ。お前は戦士のように強いわけでもない。学者みたいに頭がいいわけではない。そしてお前はこの国の人間じゃないよそ者だ。」
はっきりと言うレジオン。しかし、シロヤはそれに聞き入っていた。
「こんなよそ者なんかを巻き込むなんて酷な話だぜ。それでもお前は、国を支配しようとしている脅威に立ち向かうことができるか?」
優しく吹く風がどんどんと強くなる。
「後戻りするなら今のうちだ。降りたきゃ降りろ。これは俺達バスナダ国の問題だ。」
レジオンは見回り台を降りようとした。しかし、シロヤはレジオンの腕を握り、静かに呟いた。