兵器
未開拓地帯の精霊姉妹の家の前で、フカミとキリミドは汚染植物を相手に戦っていた。
「キリミド!危ない!」
「え!きゃあ!」
汚染植物の攻撃をギリギリでかわすキリミド。
すぐさま二人は体制を立て直し、同時に魔法の詠唱を始める。
その瞬間、二人の周りに木の枝が浮いて現れた。フカミはその枝に向かって腕を挙げ、汚染植物の方向に思いっきり降り下ろした。
「食らいなさい!」
フカミの言葉と共に、浮かんでいた木の枝が一斉に汚染植物に向かっていく。
しかし、汚染植物本体には木の枝は届かず、簡単に弾かれてしまった。
「くっ!」
「お姉ちゃん!このままじゃ!」
何度も攻撃を繰り返してきた二人だったが、その全ては汚染植物には届かずに弾かれてしまっていた。
そして、魔法の詠唱を繰り返している内に、いつの間にか二人は体力の大半を使ってしまっていた。このまま続けば、状況はますます不利になる一方だ。
「仕方無いわね・・・!」
状況が変わらないのを見て、フカミは決心したように手を汚染植物に向かって構えた。その瞬間、フカミの手が淡く光始めた。
「お姉ちゃん!来たよ!」
二人に向かって狂ったように向かってきた汚染植物。しかしフカミは避けようとせず、淡い光の灯った手を向け続ける。
そしてその距離が目と鼻の先に迫った時、フカミは手に灯っていた光をさらに強めた。
「枯れなさい!」
光が汚染植物を包み込む。
「・・・・・・・・・え!?」
フカミが放った魔法、木々を枯らせる光を放つ魔法は、確かに目の前で汚染植物を包み込んだ。しかし、汚染植物は枯れる様子を見せず、無防備なフカミに向かって枝をしならせて攻撃する。
「キャアアア!」
「お姉ちゃん!!!」
直撃を受けて横の大木に体を打ち付けるフカミ。急いでキリミドが駆け寄り、治癒魔法でフカミを癒すが、その表情から察するに回復量は微々たるもののようだ。
「ハァ・・・ハァ・・・!」
「しっかりして、お姉ちゃん。」
ゆっくりと立ち上がるフカミ。苦痛の表情を崩さないまま、汚染植物を睨み付けている。
「・・・前にもあったわね、枯れない汚染植物と戦ったこと。」
「うん・・・確か、クロトさんを城に送り届けようとした時だったよね。」
二人はその時の事を思い出した。あの時戦った汚染植物も、フカミの魔法をものともしなかった。
「じゃあやっぱり・・・植物じゃないってこと?」
キリミドの言葉に、フカミは固い表情のまま答えた。
「・・・レーグを見て、思い出したわ。こいつらの正体をね。」
「正体・・・?」
キリミドの更なる疑問に、フカミはすぐさま答えた。
「レーグの研究、それは植物兵器だけじゃない。そう、あれは見た目は植物だけど本当は理性を兼ね備えた生体兵器よ!」
フカミの言葉に、キリミドは驚愕の表情で固まった。
「じゃあ・・・あれは!」
「そう、枯らせようにも枯らせなれない。あれは植物じゃない、動物よ!」
その言葉に反応するように、植物の見た目をした生体兵器は枝を更にしならせて二人に向かって放った。
「危ない!」
「キャ!」
同時に攻撃をかわす二人。
すぐさま地面で体制を整え、フカミがキリミドに目で合図を送る。
「キリミド、アレをやるわよ。」
「・・・うん。」
目でお互い合図を送りあい、二人はすぐさま体制に入る。
フカミはすぐさま魔法で空高くまで飛び上がり、詠唱を始める。
そしてキリミドは、地面に立ったまま詠唱を始めた。
二人がやろうとしているのは、以前同じように生体兵器と対峙した時に使った奥の手。キリミドの魔法で動きを止め、大量の木の幹で相手を貫く二人の連携魔法である。
しかし、今回は以前のように時間を稼げないため、二人は焦っていた。
「・・・・・・・・・・!」
汗を流しながら詠唱を早めるフカミ。
その瞬間、フカミの目の前に揺らめく影がよぎった。
「・・・え?」
「お姉ちゃん!前!」
キリミドの言葉に反応して前を向くと、目と鼻の先に生体兵器の枝が迫っていた。
詠唱中であり、無防備状態だったフカミは、避けることができずしなった枝の攻撃を真正面から受けてしまった。
「お姉ちゃん!!!」
キリミドの悲鳴に似た声の先で、フカミは勢いよく地面に叩きつけられた。
「う・・・うぅ・・・!」
ゆっくりと立ち上がろうとするフカミ。しかし、生体兵器は目の前に迫っていた。
「いやぁ!やめて!逃げてお姉ちゃん!」
必死に叫んで助けに向かおうとするキリミドだったが、生体兵器の方が一歩早かった。
そして、枝がフカミを捕らえ、勢いよく地面に向かって叩き落とされた。
「・・・・・・・・・。」
声が出せずに固まるキリミド。砂埃が舞い、視界が完全に塞がれているため、フカミの安否を確認できない。
「お姉ちゃん・・・!」
泣きそうな声で呟くキリミドの目に、砂埃の中を動く何かが見えた。
それは、ゆっくりとキリミドに近づいていき、やがて砂埃から抜けてその姿を見せた。
「・・・クロト・・・さん・・・!」
目の前に現れたのは、確かにクロトだった。黒い毛に砂埃が汚れとして目立ち、背中には傷ついたフカミが倒れていた。
「お姉ちゃん!大丈夫!?」
すぐさま駆け寄り、ありったけの力で治癒魔法をかける。
「えぇ、大丈夫よ・・・クロト君が助けてくれたわ・・・。」
あの刹那、フカミの体を枝が捕らえた瞬間、フカミの目に黒い影が映った。その影はとてつもないスピードでフカミに向かっていき、すぐさまフカミを救出して砂埃から脱出したのだ。
「クロトさん!本当に・・・ありがとうございます!」
治癒魔法をかけながら、泣いてクロトにお礼を言うキリミド。
「でも・・・まだ戦いは終わってないわ。」
砂埃の中から、生体兵器が暴れている音が聞こえてくる。それを聞いて、再び表情を固くする二人。
その時、クロトがキリミドの腰の小袋をくわえ上げた。
「クロトさん?」
クロトはキリミドの小袋を器用に口で開けて、キリミドの近くに落とした。その瞬間、袋から光がこぼれ始め、キリミドを優しく包み込んだ。
「お、お姉ちゃん!これって!」
「えぇ、間違いないわ、星よ。」
すぐさまフカミも自分の腰の小袋に手をかける。
「・・・ゴルドー、あなた、まさかこうなることをわかってて・・・。」
小さく呟き、小さく微笑みながら、フカミは小袋の中身を開けて漏れ出す光をまとった。
「よし!お姉ちゃん!クロトさん!」
決心したようにキリミドが言うと、フカミはクロトから飛び降りてキリミドと並んだ。
「さぁ!反撃開始よ!」
星の力を得たフカミとキリミドは、砂埃から聞こえる生体兵器の音に臆することなく、ゆっくりと構えた。