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Sand Land Story 〜砂に埋もれし戦士の記憶〜  作者: 朝海 有人
第三章 白の勇者と古の記憶
136/156

空間

「ヒヒヒヒヒ!たかが星の力を得た程度で調子に乗りすぎですよ!ヒヒヒヒヒ!」

 鬼の姿となったレーグは、星の力を得たリーグンを前に高らかに笑った。

 しかし、それでもリーグンの表情は揺るがない。それは、実の父親であるレーグとの決別を意味する表情だった。

「見せてあげますよ!今や私の力の前に星の力など無意味なことを!ヒヒヒヒヒ!」

 笑いながらレーグはリーグンに向かって地面を蹴り、左手を高く振り上げて詠唱を始めた。

「!」

 その瞬間、振り上げられたレーグの左手に黒い塊に包まれた。

「闇の結晶を自身に纏わせる物理攻撃・・・。」

「その通りですよ!ヒヒヒヒヒ!」

 そして、レーグは杖を構えたまま動かないリーグンに向かって左手を振り下ろした。

「・・・!」

 しかし、手ごたえはなかった。

 そして、そこに確かにいたはずのリーグンが影も残さずに消え去ってしまっていた。

「な・・・!」

 闇の結晶に消えたわけではないのはわかっていた。ということは、リーグンはどこかにいるはず。

 レーグは周りを注意深く見てみるが、リーグンらしき姿はおろか、影すらも見当たらない。

「ちっ!どこにいるのですか!」

 声を荒げるレーグ。その表情は、鬼の姿には似合わない焦りの表情となっていた。

 死角を作らないように常に周りを警戒するレーグ。

「・・・ここです」

「!」

 突如、上から声が聞こえた。

 顔を上げてみると、リーグンはレーグの頭を上に立っていた。

「な!何故気づけない!」

 焦りの表情のまま、レーグは右手で頭の上にいるリーグンを攻撃する。

 しかし、ただ空を切るだけだった。

「くっ・・・。」

 再び気配と共に消え去るリーグン。

 今度は空中にも気を配るが、それでもリーグンを見つけることが出来ない。

「一体・・・!何をしているんですか!」

 耐えかねたレーグが叫ぶ。しかし、それは森に溶け込んで消えるだけだった。

「ちっ・・・ならばしょうがないですね・・・!」

 そう言うと、レーグは身をかがめて再び詠唱を始めた。

 その瞬間、レーグを中心にして円形状に闇の結晶が形成されていった。

「ヒヒヒヒヒ!これは私を中心に広範囲の物を一瞬にして消滅させる広範囲魔法ですよ!」

 闇の結晶はどんどんと形を成していき、やがてレーグの姿を隠すほどに巨大になった。

「ヒヒヒヒヒ!こうなればこの森もろとも消滅させてしまいましょうか!もちろん地下帝国にいる白の勇者もろとも・・・ヒヒヒヒヒ!」

 そして、レーグはかがめていた全身を大きく広げ、闇の結晶を解放した。

「全て消え去れ!ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!」

 レーグを中心に闇がどんどんと広がっていき、森の木、フカミ達の家、そして地下帝国の入り口まで広がっていき、やがて未開拓地帯全てを包み込んだ。

「ヒヒヒヒヒ!ヒヒヒヒヒ!ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」

 闇に包まれる未開拓地帯に、レーグの笑い声だけが響いた。


・・・・・・・・・・。


・・・・・・。


・・・。


「・・・!」

 レーグはそこで、自分の目の前の景色に気づいた。

 それはさっきと何の変哲もない未開拓地帯の景色だった。

「な・・・!」

 確かに闇の結晶は発動した。本来ならば、ここら一帯は森の木々全てが消滅して何もなくなっているはずだった。

 しかし、森が無くなるどころか、森はさっきよりも元気になっている、そんな感じだった。

「な・・・!何をした!リーグン!」

 信じられない表情でリーグンに問いかけるレーグ。

「・・・簡単です」

「!」

 気配と姿を消していたリーグンが、レーグの前に現れた。

「私が発動したのは・・・禁術です。」

「何・・・!」

 そう言って、リーグは近くにあった枯れかけた花に向かって手をかざした。

 手から光が放たれて花を包むと、枯れかけていた花はどんどんと起き上がっていき、やがてそれは鮮やかな色を放つ力強い花に変わった。

「それは・・・一体・・・!」

 意味がわからずに固まるレーグに、リーグンはゆっくりと語り始めた。

「お父様が使っている禁術、闇の結晶を精製してこの世のものを消滅させる魔法。私の魔法はそれと対をなす魔法です。光の結晶を精製してこの世のものを活性化させる禁術。」

「そんなもの・・・私は知らない!」

 地団駄を踏むレーグに、あくまでも冷静にリーグンは口を開いた。

「当然です。この禁術はチラプナの子孫に受け継がれている禁術。消滅して葬り去られたラーカの禁術とは違う。」

「くっ!何故あなたが禁術を使えるのですか!」

 そう言われ、リーグンは空を見上げた。

「この禁術はこの戦い以前に習得しました。しかし、上級魔術師止まりの私が使うにはあまりにも危険。だから私は使わずにいました。」

「ならば何故!」

 そこで、リーグンは凛とした表情でレーグを見た。

「シロヤ様と共に戦うことを決意したからです。」

「!」

 リーグンはさらに表情を強める。その表情は、実の父親であるレーグですら見たことない、強い決意を表した表情だ。

「シロヤ様のために戦うため、私はこの禁術を使おうと決意しました。そしてそれを支えてくれたのは・・・星です。」

「くっ・・・星め!どこまでも私の邪魔をしますか!」

 悔しそうに歯噛みするレーグ。


ザザ・・・・!


「!」

「!」

 突如聞こえた謎の音。それは、レーグの後ろから聞こえてきた。

「この音は・・・!」

「お父様!」

 リーグンが驚きの声を上げる。

「・・・な!」

 後ろを振り向いたレーグの視界に入ったのは、空を走る亀裂だった。

「これは・・・まさか・・・!禁術のぶつかり合いで空間が・・・!」

 その瞬間、亀裂が完全に割れた。そしてその先に、何もない黒い空間が広がっているのが見えた。

「間違いない・・・!これは闇と光の対衝突で起こる無の空間!」

 無の空間が完全に現れた瞬間、周囲のものを引きずり込もうと空間が吸い込み始めた。

「ヒヒヒヒヒ!そうだこの力だ!この力さえあれば禁術をも凌駕し今度こそ私の大願が成就する!」

「お父様!いけません!それはお父様の手に収まるものではありません!」

「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!素晴らしい!無の力!素晴らしい!ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」

 リーグンの言葉を無視して、狂ったように笑いながらレーグは無の力に取り込まれていった。

「お父様!!!」

 無に取り込まれていくレーグを救おうと手を伸ばすが、正気を失ったレーグはそのまま笑いながら空間に取り込まれ、やがて姿が見えなくなった。

 そしてリーグンの目の前でレーグは無となり、空間の亀裂は徐々に形成されていき、やがてそこには無の空間はおろか亀裂すら無くなってしまった。

「・・・・・・お父様・・・。」

 リーグンはしばらくそこで佇んでいた。

 レーグは無となり、もう戻ってくることはないだろう。

 確かに父は許されない罪を背負い、最後は人を捨ててしまった。そんな父をリーグンは倒す決意をしたが、出来ることならば、実の父親には生きていてほしかった。

「・・・。」

 それが目の前で叶わぬものとなったリーグンは、その場で涙を流した。

「これ以上・・・犠牲は出したくない・・・!」

 リーグンは、父を利用したラーカに強い怒りと、これ以上犠牲を出さないという決意を心に誓い、しばらくそこで涙を流し続けた。

 それは、勝利と言って誇れるものではない勝利だった・・・。

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