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Sand Land Story 〜砂に埋もれし戦士の記憶〜  作者: 朝海 有人
第三章 白の勇者と古の記憶
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復讐

「ヒヒヒヒヒ!」

 未開拓地帯に響く不気味な笑い声。

 笑い声の持ち主は杖を何度も振って、その先にいるリーグンに向かって砂の槍を何本も飛ばしていた。

「くっ!」

 対してリーグンは、飛んでくる槍をギリギリで避けることしか出来なかった。避けてからすぐ体制を整えようとしても、すぐさま次の砂の槍が飛んでくるため、攻撃体制に入ることが出来ないのだ。

 リーグンと比べて、レーグは魔法の詠唱時間が圧倒的に少ない。それは、上級魔術師であるリーグンと賢者であるレーグの圧倒的な魔力の違いを表していた。

「ヒヒヒヒヒ!だんだんと疲れが見えてきてますよ?ヒヒヒヒヒ!」

 不気味な笑い声と共にさらに加速する砂の槍の勢い。

 レーグの言うとおり、リーグンは時間が経つごとに息切れのペースが速くなっている。やはり、魔術師としての力量に違いがありすぎるのだろうか、差はどんどんと離れていっている。

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・!」

「やはり私に挑むなど愚かだったのですよ、ヒヒヒヒヒ!」

 リーグンは体の限界を感じ、近くの木の陰に身を潜め、大きく深呼吸をした。

「やはり・・・私のお父様では力に差がありすぎる・・・どうにか光明を見出さなければ・・・!」

 木に背を預けて息を落ち着かせるリーグン。

「無駄ですよ。私が出てくるまでいつまでも待つと思いますか?」

 木の向こうから声が聞こえてくるが、リーグンは答えずに息を整えることだけに専念した。

 それ以降、しばらく向こうから声が聞こえない。ただ聞こえるのは、リーグンの呼吸の音だけだ。

「ハァ・・・ハァ・・・」

 次第に息も落ち着き、体が回復してきたのを感じるリーグンは、タイミングを計ろうと木の陰からそっとレーグを見た。

「・・・・・・!」

 その先にいたのは、詠唱の最中だったレーグだった。

「何ですか・・・あれは・・・!」

 詠唱しているレーグを見て、リーグンは驚愕の声を上げて固まった。

 詠唱しているレーグを、黒い何かが覆っていた。そしてその黒い何かは、詠唱が続くにつれてどんどんとレーグを取り囲み、いつしかレーグの体は黒い何かによって姿を消した。

 直感で、リーグンはあれが危険なものだと認識し、すぐさま近くなっていた距離を離そうと木から離れた。

「遅いですよ!ヒヒヒヒヒ!」

 リーグンが木から離れようと地面を蹴った瞬間、黒い何かの向こうからレーグの声が聞こえた。

 そしてそれと同時に、黒い何かが塊のように集まり、レーグの前に浮かんだ。レーグは持っていた杖を振るい、その黒い塊を杖を振った方向に飛ばした。

「!!!」

「ヒヒヒヒヒ!」

 高速で飛来してくる黒い塊。

 身の危険を感じたリーグンは、すぐさま飛び退きながら詠唱を始めた。しかし、詠唱をさせまいと黒い塊はさらに加速してリーグンに向かっていく。

 そして、黒い塊がリーグンを完全に捉えた瞬間、リーグンは持っていた杖を思いっきり地面に向かって振った。

「砂よ!上がれ!」

 その言葉と同時に、リーグンの足元の砂が柱となって地面から勢いよく飛び出し、リーグンを空中に飛ばした。

 そのまま、黒い塊はリーグンではなく砂の柱に当たった。

 その瞬間、黒い塊が捉えた砂の柱が、跡形もなく消え去ってしまった。それは、一片の欠片も一粒の砂も残さずに消えた。それは、消滅という言い方が一番正しいだろう。

「あれは・・・まさか・・・!」

 空中で体制を立て直して地面に着地するリーグンは、黒い何かの正体に気づいてハッとなった。

「ヒヒヒヒヒ!まだまだですよ!」

 また聞こえた笑い声。その先を見ると、またレーグの周りに黒い何かが纏われていた。そして再びレーグの前に塊となると、レーグの杖の動きに合わせて高速で飛来していった。

「お父様!その魔法は!」

「貴方もわかっているはずですよ!この魔法の正体が!ヒヒヒヒヒ!」

 そう、リーグンはこの魔法の正体がわかっていた。

「その魔法は!太古の昔から研究されていた、純粋な闇の塊を生成して物体そのものを消滅させる禁術!本来ならばその方法は闇に葬られ、表はおろか裏にすらその姿は見えないはず!」

 リーグンの言葉に、レーグはさらに笑った。

「ヒヒヒヒヒ!ラーカ様はその太古の昔から生きておられるのですよ?そんな禁術など心得て当然です!ヒヒヒヒヒ!」

 さらに飛来してくる黒い塊。

「くっ!飛べ!」

 リーグンは黒い塊を飛行魔法で避ける。しかし、それでもすぐさま黒い塊は生成され、リーグンに向かって飛んでいく。

「ヒヒヒヒヒ!そしてラーカ様はその禁術を私に授けてくださった!この力さえあれば憎き白の勇者を消滅させ、私はこの国を手に入れることが出来る!」

 レーグの言葉に、リーグンは表情をしかめて地面に着地した。

「まだ・・・そのようなことを言いますか・・・!」

 リーグンは表情をしかめながら言った。その言葉には、リーグンには珍しい"怒り"が込められていた。「ヒヒヒヒヒ!当然です!私は私の計画を潰した奴等に復讐し、今度こそ大願を成就してますよ!ヒヒヒヒヒ!」

 レーグは言葉と共にさらに黒い塊を放つ。

「そんなこと・・・そんなこと!させない!」

 リーグンは叫ぶと、自分に向かってくる黒い塊と対峙して詠唱を始めた。

「ヒヒヒヒヒ!無駄ですよ無駄!ヒヒヒヒヒ!」

 高速でリーグンに向かっていく黒い塊。それを避けようとせず、リーグンは真っ向から立ち向かった。

 そして、黒い塊がリーグンを完全に捉え、ぶつかろうとした瞬間、リーグンが動いた。

「砂よ!舞い上がれ!」

 リーグンの言葉に呼応して、砂が意思を持ったように舞い上がってリーグンを包み込んだ。

「何!?」

 砂はリーグンを完全に包み込んで姿を隠した。そして、黒い塊がリーグンを取り囲む砂にぶつかった。

 黒い塊が弾けると、砂が消滅してリーグンを守った。

 そして、砂によって姿が見えなかったリーグンの姿が現れると、その周りには砂の槍が構えられていた。

「槍よ!飛べ!」

 リーグンの言葉と共に、槍が勢いよくレーグに向かっていった。

「くっ!」

 突然すぎる反撃に、さすがのレーグも対処できなかった。槍が飛んでくるよりも早く詠唱することができず、槍の攻撃を回避できずに体を切り裂かれた。

「くっ・・・。」

 後ろによろよろとよろめくレーグ。しかしその表情は、何故か余裕の表情だった。

 対してリーグンは、凛とした表情でレーグの前に立った。その表情には、強い怒りが秘められていた。

「ヒヒヒヒヒ!まさか私に反撃するとは・・・!」

「お父様、禁術は見破らせていただきました。強力であるがゆえ、その軌道は単純です。それさえ読むことが出来ればいくらでも防ぐことができます。」

 杖の先を勢いよくレーグに向けて、リーグンは強い口調で言い放った。

 しかし、それでもレーグは表情を緩めようとしない。

「ヒヒヒヒヒ!その程度で見破ったなど浅はかすぎますね。ヒヒヒヒヒ!」

 まるで負け惜しみかのように笑うレーグ。しかし、それが負け惜しみではないことをリーグンは肌で感じ取っていた。

「ではそろそろ見せてあげましょうか・・・この禁術の本当の力を!」

 そう言うと、レーグはすぐさま詠唱を始めて黒い塊を作り出す。そして、生成された黒い塊に向かって杖を振るうと、黒い塊は大きく旋回してレーグに向かっていった。

「何を・・・何をする気ですか!」

「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」

 高らかに笑うレーグを、黒い塊が捉えて包み込んだ。

「な・・・!」

 驚きの表情で固まるリーグン。

「ヒヒヒヒヒ!」

 そんなリーグンを嘲笑うかのように、黒い塊から声が聞こえてきた。笑い声がしばらく続くと、ゆっくりと黒い闇が晴れ、レーグが姿を現した。

「!!!」

 しかし、現れたのはさっきまでのレーグではなかった。

 頭からは金色の角が、口からは牙が生え、茶色の体毛と獣のような手足が禍々しく闇に染まっていた。

「ヒヒヒヒヒ!禁術の闇の本当の姿!それは術士に純粋な闇の結晶を宿らせる強化魔法だったのですよ!ヒヒヒヒヒ!」

 もはや人の姿でなくなったレーグは、高らかに笑いながら言い放つ。

 それに対して、リーグンは今までの表情を完全に崩していた。

「お父様・・・いや、もはや貴方はお父様なんかじゃない!」

 リーグンは強い口調で言った。それは、リーグンの表情を崩した感情、"怒り"が強く込められた口調だった。

「もはや貴方はその姿同様、復讐の闇にとらわれた鬼!そんな貴方をこのまま生かしてはおけません!」

 その言葉と共に、リーグンの懐から小さな袋が落ちた。そしてその袋の口が開かれ、袋からキラキラと何かが舞い上がり、リーグンを包み込んだ。

「それは・・・まさか!」

 レーグの表情が一変した。

 リーグンの体を包むのは、レーグの野望を砕いた、そしてレーグの恐怖の対象となっている物だった。

「私はレーグを!復讐の鬼を必ず倒す!」

 レーグの恐怖の対象―――星の力を得たリーグンが構えた。

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