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Sand Land Story 〜砂に埋もれし戦士の記憶〜  作者: 朝海 有人
第三章 白の勇者と古の記憶
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情景

 星の力を得たレジオンと退治するグンジョウ。

「来いよグンジョウ。俺がてめぇを正してやる。」

 その言葉に、グンジョウは小さく笑うと、すぐさま地面を蹴ってレジオンに向かっていった。

「言われずとも・・・そのつもりだ・・・!」

 言葉と同時にレジオンに向かって剣を振るう。

「!」

 ヒュン!と風を切る音が響く。剣は何をも捕らえぬことなく空を切り裂いた。

「ここだぜ?」

 急に後ろからかけられた声。振り向くと、その先には大剣を構え、余裕の表情で立っているレジオンの姿があった。

 対してグンジョウは、表情を引き締めレジオンを一点に見つめた。

 さっきまでとは違うレジオンの動き。肉眼で捕らえることはおろか、認識をずらしてしまうほどのスピード。紛れもなくこれは、星によって得た力だ。

「どうしたグンジョウ。顔が険しくなってきたぜ?」

 余裕の表情でグンジョウを見るレジオン。

 それを見て、グンジョウは再び地面を蹴ってレジオンに向かっていく。

「!」

 砂を舞い上げて走るグンジョウだったが、その動きはすぐに止まった。その目の前には、さっきまで離れていた距離にいたレジオンが目と鼻の先にいた。

「歯、食い縛れ!」

 怒号と共に、レジオンは握っていた拳に最大の力を込めてグンジョウを殴りつけた。

 レジオンの拳を食らって飛んでいき、グンジョウは地面に倒れた。

 それを見たレジオンは、勢いを止めずに地面に倒れたグンジョウに向かっていった。

「まだだ!」

 倒れているグンジョウに跨って二度、三度と顔を殴りつけるレジオン。

 グンジョウは、レジオンの拳を避けることも防御することもせず、ただひたすらに向かってくる拳に耐え続けるだけだった。

「・・・。」

 しばらく殴り続けていたレジオンだったが、一向に反撃してこないグンジョウに気づき、その拳の動きを止めた。すぐさまグンジョウから離れ、見下ろすようにグンジョウの前に立つレジオン。

「・・・何で反撃しないんだ?」

 それを聞くと、グンジョウは倒れながら微笑んだ。

「懐かしいな・・・その言葉・・・。」

「あぁ?」

 グンジョウは、昔を思い出すようにレジオンに向かって語りかけた。

「いつの日だったか・・・このような光景を見たことがある・・・しかしその時は・・・私が殴る側だったな・・・。」

 そう言われ、レジオンは昔起きたことを思い出した。

 それは、レジオンが負の霊力を受け継ぎ、"悪魔"と呼ばれていた時の事だった。

「確か・・・てめぇが俺を城で引き取るって言いやがったんだよな。」

「あぁ・・・そしたらお前は・・・迷惑をかけたくない・・・と断った・・・。」

 レジオンはその時のことを思い出し、表情を曇らせて空を見た。

「そうだっけな、そしたらお前が有無を言わさず殴りかかってきた。」

「その時もお前も・・・今の私のように・・・反撃して・・・こなかったな・・・。」

 フッと笑うグンジョウ。それを見て、レジオンも曇っていた表情を崩して小さく笑った。

「そしたらお前が聞いてきたんだよな。」

「何で・・・反撃してこないんだ・・・。」

 二人は同時に微笑んだ。それは、今と昔、その情景が二人の位置が真逆になって重なったことに、何かを感じ取った二人だけの表情だった。

「今なら・・・判る気がする・・・お前が反撃・・・してこなかった理由がな・・・。」

「ちっ!」

 大きく舌を鳴らして、恥ずかしさを隠すように笑うレジオン。

 そして、レジオンは倒れているグンジョウにスッと手を差し出した。

「立てよ、娘達に会いに行くぜ。」

 その手を見て、グンジョウはさらに笑った。

「残念だ・・・その手は・・・握れない・・・。」

 その瞬間、グンジョウの体が光り輝き、その輝きがいくつかの小さな塊となってグンジョウの体から空に向かって離れていった。

「この光は・・・星?」

 輝きが蛍のようにレジオンとグンジョウを包む。その輝きは、今レジオンが纏っている光とまったく同じものだった。

「星が・・・私を浄化・・・しているようだ・・・私は・・・ここまでのようだ・・・。」

「何だよ、随分急だな。」

 レジオンがため息混じりに呟く。

 次第にグンジョウを囲む光が強くなっていく。それは、グンジョウとの別れを意味することを、レジオンはわかっていた。

「いいのだ・・・最後に・・・お前に会えた・・・。」

「何カッコつけてるんだよ、ガラじゃねぇぞ?」

 悲しさを押し殺して皮肉を言うレジオンに、グンジョウは精一杯の笑顔で答えた。

「娘を頼むぞ・・・。」

「それは俺に言うもんじゃないぜ?あいつらには立派な白のナイトがいるんだからな。」

 光がグンジョウを完全に包み込み、その姿は見えなくなった。しかし、それでも声ははっきりと聞こえてきた。

「そうだった・・・な・・・」

「あぁ、お前の意思はあいつがしっかりと受け継いでいる。だから・・・お前はもう休め。」

「・・・・・・・・・あぁ」

 グンジョウが答えた瞬間、包み込んでいた光が一瞬にして小さな光の玉になって、バラバラに空中に散らばっていった。その先に、グンジョウの姿は影も形もなかった。

「ありがとう、レジオン」

 最後、光から声が聞こえた。それは、腐敗した体から出ていた途切れ途切れの言葉ではなく、正真正銘の生気を感じるグンジョウの最後の言葉だった。

「・・・。」

 しばらくその光に包まれながら空を見上げるレジオン。グンジョウの光は真っ直ぐに空に向かって飛んでいった。それは、この地に未練を残さずに消えていったグンジョウを表しているのかもしれない。

「ったく・・・カッコいい死に方しやがって・・・ガラじゃねぇっての。」

 空に向かっている光の玉に皮肉を言う。

 その時、レジオンの頬を一筋の涙が通った。

「・・・。」

 自分が泣いている、そのことを認めたレジオンは、涙を隠すように再び笑った。

「ちっ・・・ガラじゃないの俺も同じってことか・・・。」

 もはや涙は止まらない。レジオンも涙を止めようとせず、ただグンジョウの光が空に向かって次々と消えていく姿を見続けていた。

「シロヤ・・・責任重大だぜ?グンジョウの志を引き継いだんだからな。」

 空に向かって、レジオンは呟いた。

 そして、光の玉は完全に消え去った。

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