父子
森の中を走るシロヤ達。
「・・・!」
しばらく走ってから、シロヤは異変に気づいた。
「レジオンさんが・・・いない?」
勢いよく走っていた勢いを止めて、シロヤは後ろを振り向くが、もう森の入り口は見えなくなっていた。
「シロヤ様!」
「シロヤ君!早く行くわよ!」
フカミの叫びにハッとなって、シロヤは再び前を向いて走り出した。
「信じてますよ・・・レジオンさん。」
シロヤは心の中で呟いた。
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。
「ここが・・・フカミさん達の家・・・?」
目の前に見える草花で作られた家に、リーグンは見とれるように立っていた。
「この中に・・・地下帝国への入り口が?」
「えぇ、こっちよ。」
フカミに先導されて歩いていくと、そこには人工物の跡が転がっていた。
「この先をまっすぐ進めば地下帝国の最深部に着くわ。そこには必ず何かがあるはずよ。」
フカミの言葉に、シロヤは表情を引き締めて先に向かっていった。
「さて・・・シロヤ君、ここから先は一人で行くことになるわよ。」
「えっ?」
立ち止まるシロヤの前に、フカミ、キリミド、リーグンが揃って背を向けて立っていた。
「シロヤさん、私達のことは気にせずに進んでください。」
「でも・・・。」
その言葉に、リーグンは振り向いて笑顔を見せた。
「シロヤ様、私達を信じてください。私達は誰一人欠けることなく平和を手に入れる、そう誓いましたので。」
リーグンの言葉に、シロヤは強く拳を握ると、勢いよく振り替えって地下帝国に向かって走っていた。
「・・・行ったわね。」
フカミがそう言ったと同時に、目の前の木々が暴れだして枝をフカミ達に向かってなぎ払った。
「危ない!」
リーグンの声と共に、三人の周りを草花が取り囲んで木の枝を防いだ。
「ふぅ、容赦なしね、まさか汚染植物まで出してくるなんて。」
「・・・出てきてください!」
強いリーグンの声は、暴れている木の先に向かっていった。そしてその声に答えるかのように、その先から声が返ってきた。
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」
笑い声はゆっくり近づいてきて、やがてその声の主が木の奥から現れた。
「おやおや、誰かと思えば役立たずさんでございましたか、ヒヒヒヒヒ!」
「あらあら・・・!」
「あなたは・・・!」
フカミとキリミドがその姿を見て驚きの表情を露にした。しかし、リーグンだけは表情を変えずに杖を構えたまま声の主を見続けていた。
「・・・薄々気づいてました、私達が森に入った時から、あなたの気配が私達の後ろをつけていたことを。」
「ヒヒヒヒヒ!貴様ごときに見抜かれるなど、少し体が鈍ってしまいましたかね。」
そう言うと、声の主は持っていた杖を振った。その瞬間、木々がさらに暴れだして枝をリーグン達に向かって放った。
「ヒヒヒヒヒ!」
笑い声と共に、一つの枝がリーグンの体に向かっていった。
「リーグンさん!」
キリミドの声と共に、リーグンの体は枝に貫かれ、リーグンは貫かれたまま力を無くしてぐったりとなった。
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」
笑い声が強くなった。
しかし、その笑い声は不意に止まった。それは、貫かれたリーグンの体が砂となって崩れ去ったのを見てからだった。
「な、サンドドールだと・・・!」
初めて声の主が余裕のない声をあげると、その後ろから声が聞こえた。
「お父様・・・出来れば私はお父様とは戦いたくありません・・・降伏してください。」
寂しげな声を聞いて、お父様と呼ばれた声の主が振り向くと、先に立っていたのはリーグンだった。
「ヒヒヒヒヒ!何を今さら、私はラーカ様に素晴らしい力と復讐のチャンスを頂いた!全てはあの忌々しいシロヤに復讐するため!そのためならば例え息子であろうと容赦はしませんよ!ヒヒヒヒヒ!」
その言葉を聞いて、リーグンはさらに悲しげな表情を強め、フカミとキリミドに向かって言葉を発した。
「フカミさん、キリミドさん、父のけじめは私につけさせてください。」
その言葉に、フカミとキリミドは優しく微笑んだ。
「えぇ、私も信じるわ、あなたのことをね。」
「汚染植物の相手は私達に任せてください!」
フカミとキリミドの言葉にリーグンは軽く微笑み、再び表情を引き締めた。
「ヒヒヒヒヒ!賢者の私に戦いを挑むのですか!?命知らずには実力の違いを父がレクチャーしてあげましょう!ヒヒヒヒヒ!」
そして、二人同時に杖を振り上げた。
「もう迷いません!シロヤ様のためにも・・・私はあなたを!父、レーグをこの手で倒します!」
リーグンとレーグは、同時に杖を構えて詠唱を始めた。