清算
長尺刀は、金色の光を纏うバルーシによって止められていた。
「おめぇ・・・一体・・・。」
その光景を前に、ドレッドは完全に動きを止めていた。確かにトドメを指し、確かに自分の前で息絶えた男が、たった今自分の目の前で長尺刀を素手で受け止めているのだ。
「確かに死んだはずじゃねぇかよ・・・死者を生き返らせるなんて星でもない限り・・・!」
ここまで言って、ドレッドは気づいた。
「まさか!その袋に入ってたのは!」
慌てるように早口になるドレッドの前で、バルーシは冷静に佇んだまま答えた。
「そうだ・・・確かにこれは星に間違いない・・・。」
「何でだよ・・・何で選ばれた者じゃないお前が星の力を・・・!」
目の前の光景と事実を信じきれていないドレッドに、バルーシは静かに話始めた。
「星が・・・私に語りかけてくれた、シロヤ様を守れ、と。」
それを聞いて、ドレッドはすぐさま後ろに飛び退いて長尺刀を再び構え直した。
「星は選ばれし者をを守るためにお前を利用してるとでも言うのか!」
構え直した長尺刀をバルーシに向かって振るう。その太刀筋は長尺刀を持っている腕ごと消えてしまった。
「・・・違う。」
バルーシが言葉を発したと同時に、ドレッドの長尺刀がバルーシの体を捉えて、切り裂いた。
「!!!」
しかし、ドレッドは手応えを感じなかった。確かにバルーシの体を捉えたはずだったが、まるで蜃気楼を切ったかのように剣はすり抜けてしまった。
それと同時に、切り裂いたバルーシの姿が蜃気楼のようにゆっくりと消えてしまった。
「な!」 驚くドレッド。目の前に見えていたバルーシの姿は、煙が晴れるように消えてしまった。
「!!!」
すぐさま後ろに気配を察して、ドレッドはさらに飛び退いた。その視線の先には、さっきまでドレッドの目の前に見えていたバルーシの姿があった。
「星は、人を利用するような事はしない・・・。」
「うるせぇ!てめぇに何がわかるんだよ!」
再び長尺刀をバルーシに向かって振るうが、バルーシの体に届く前に左手によって受け止められた。
「星は私に力をくれた時・・・私に語りかけてくれた。」
「くっ!」
再び長尺刀を振るおうとするが、受け止められた刃先が動かず振るうことができない。その隙をついて、バルーシはすぐさまドレッドとの間合いを詰めた。
「確かに聞こえた、"君はシロヤに必要とされている。シロヤを守り、シロヤと共に彼の望む未来を築け。"」
「星が・・・語りかけただと・・・!?」
信じられないような表情で固まるドレッドを前に、バルーシはさらに続けた。
「そして気がつけば、私は立っていた。星は私に命に授けてくれたのだ。」
「ふざけんな!星が意思を持ってるとでも言うのかよ!」
激昂するドレッドは、目の前のバルーシに蹴りを入れた。
しかし、さっきと同様に手応えはなく、ドレッドの蹴りは煙のように消えるバルーシの体を素通りしていった。
「そうだ、星は意思を持っている。」
「!!!」
後ろから聞こえる声にすぐさま振り返ると、そこにはドレッドによって弾き飛ばされた剣を持ったバルーシが立っていた。
「以前シロヤ様が言っていた、人が星を選ぶのではない、星が人を選ぶのだと。」
「黙れって言ってるだろぉが!」
長尺刀を振り上げてバルーシ目掛けて振り下ろす。その瞬間、長尺刀の刃が甲高い音を立てて崩れ落ちた。
「!?」
何事かと固まるドレッド。
「その時私はもちろん、プルーパ様もレジオンさんも、星は物ではない、星は生きてるのだとわかった。そしてそれを気づかせてくれたのがシロヤ様だ。」
バルーシは、ドレッドに背を向けて剣を腰にしまった。
「てめぇ・・・!」
敵前逃亡かと思ったドレッドだったが、次第に自分の体の変化に気づいた。
「なんだよ・・・どうなってやがる・・・!」
ドレッドの声の後に、バルーシは背を向けたまま話した。
「星が生きているとわかった時、星は私にも力をくれた。今までバスナダの民でありながらそれに気づけなかった愚かさ、そしてそれを気づかせてくれたシロヤ様への感謝。今、私はその全てを力に変え、バスナダの民としての過ちを清算する!」
その瞬間、ドレッドの服が縦に切れていった。
「まさか・・・!長尺刀を砕いたときに!」
その言葉と同時に、ドレッドの体が縦に切り裂かれた。
「嘘だろ・・・!肉体が切られたと認識しなかったのか・・・!」
激しい痛みと共に膝をつくドレッドを背に、バルーシは空を見上げた。
「シロヤ様・・・バスナダの民としてのあり方を教えていただき・・・ありがとうございます。」
空を見上げたまま、バルーシは小さく微笑んだ。