本番
「そ、それは・・・!」
バルーシは、ドレッドが出した何かを見て固まった。ドレッドが手に持っている何かは、バルーシの背を越すほどの長さの刀だった。
「こいつを使うのは久々だな・・・ま、それだけ実力があるってことだ、喜んで良いぜ。」
言葉と同時に、ドレッドは持っていた長い刀を横に伸ばした。
「だが・・・喜ぶ前にこいつで斬り殺されちまうがな。」
ドレッドの長い刀は、横に伸びたまま制止していた。200mはあろう刀を空中で制止させているのは、並の人間ができることではない。バルーシはそれを感じとり、それと同時にドレッドという相手がどれだけ強いかを再確認した。
「その刀は・・・。」
「こいつか?"長尺刀"って言うんだ、俺の切り札ってところかな。」
ドレッドが長尺刀を構えた瞬間、強風のような闘気がバルーシを襲った。
その闘気を受けたバルーシは、今まで以上に強く剣を握った。
それは、まさしく本能的にとった行動だった。闘気を受けた瞬間、全身の毛が逆立たんばかりの震えがバルーシを襲った。それは、命の危険を示す本能的な"危険信号"でもあった。
「さぁ!こっからが本番だぜ?」
ドレッドは言葉と同時に地面を蹴った。
バルーシはドレッドの動きを目で追い、瞬時に剣を構えた。
「・・・どんな武器も長ければ長いだけ振りが遅くなる。軌道さえ読むことができればかわせるはず!」
ドレッドに向かっていくバルーシ。そして、ドレッドはバルーシに向かって剣を振った。
「!!!」
その瞬間、ドレッドの腕が消えた。
「ば!馬鹿な!」
すぐさまバルーシは体制を変えて身を低くする。そのわずか上を、ドレッドの刀が高速で通りすぎていった。
「くっ!」
身を低くした状態のまま後ろに跳び、距離をとって再び剣を構える。
「おほっ!俺の初太刀をかわしたのもお前が初めてだ!」
陽気に言うドレッドに対して、バルーシは今のドレッドの攻撃を見てさらに焦りの表情を見せた。
「馬鹿な・・・腕が消えたのは剣の重量を極限まで軽くしたからではないのか。」
「それは間違いじゃねぇぜ?だがな、それはただ単に腕の負担を軽くしてるだけだ。普通の重量だろうと俺の剣速は変わりはしないさ。」
ドレッドの言葉に、バルーシはさらに表情を固くした。身体中の危険信号が本格的に強まり始める。
「さぁ、やりあおうぜ!」
再びバルーシに向かっていくドレッド。
バルーシは、今度は剣を"避ける"のではなく"受け止める"ために構えた。
「無駄だ!」
ドレッドの言葉と共に、バルーシの剣に強い力が襲った。
「ぐあぁ!」
今までに感じたこともないほどに強い力。その力が剣を握っている腕に襲いかかる。
キィィィン!
「しまった!」
強い衝撃によって、バルーシの剣が弧を描いて横に飛んだ。
「くっ!」
すぐさま剣の所に向かおうと思った瞬間、バルーシの目の前に刀の先が突きつけられた。
「おっと・・・行かせやしないぜ?」
ドレッドの剣によって動きを封じられたバルーシは、拳を握ったまま止まっていた。
「さぁ、覚悟を決めな。もうすぐ貴様の喉元をこいつで貫いてやるよ。」
その言葉を聞いたか聞いていないのか、バルーシは力強く拳を握ってドレッドを睨んだ。
「・・・考えろ。こんな時、シロヤ様ならどうする・・・レジオンさんならどうする・・・プルーパ様ならどうする・・・!」
目を瞑ってしばらく考えて、バルーシは拳の力を弱めた。
「さぁ!トドメだ!」
瞬間、バルーシの喉元を刀の先が貫いた・・・かのように見えた。
「なっ!」
寸ででバルーシは刀を交わし、全速力でドレッドに向かっていった。
「はぁぁ!」
拳を強く握ってドレッドに殴りかかろうとした瞬間、横目にドレッドの腕が消えたのが映った。
「!!!」
「甘いぜ!」
瞬間、バルーシの体を刀が捕らえて、胴体を切り裂いた。
「ぐわぁぁぁ!!!」
刀はバルーシの胴体を半分以上切り裂いて進んでいたが、完全にバルーシの体を切断はできなかった。
それに気づいて、ドレッドは刀を引き戻して再び構えた。
しかし、倒れるバルーシの体に、もう反撃はおろか立つ力すら残っていなかった。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。」
荒くなる息、冷たくなる体、朦朧とする意識。それは、バルーシの体に死を意味するように襲いかかった。
そしてバルーシは、消え行く意識の中で呟いた。
「・・・シロヤ様・・・シアン様・・・私は・・・・・・ここまでのようです・・・・・・・・・生きて帰るという約束を・・・・・・破ってしまい・・・申し訳・・・ありません・・・・・・・・・。」
薄くなっていく意識、霞む視界の中、バルーシの目に映ったのは、小さな袋だった。
「兄さんの・・・お守り・・・・・・?」
そこで、バルーシの意識は完全に消えた。最後に映ったのは、小さな袋から漏れ出す金色の光だった。
「ちっ、逝ったか。」
刀を振り上げ、ドレッドはバルーシを見たまま呟いた。
「・・・何だぁ?」
ドレッドは驚いたように声をあげた。バルーシの体を、急に金色の光が包み始めたのだ。
「何か・・・やべぇ!」
急に全身の毛が逆立たんばかりに緊張するドレッド。それはまるで、バルーシの命の"危険信号"のようだった。
「くそ!もういっちょトドメだ!」
ドレッドが振り上げた刀を振り下ろした瞬間、刀が空中で止まった。
「くっ・・・まさか!」
金色の光が刀を止めていた。その正体は、死んだはずのバルーシの手だった。