戦術
「おいどうした?お前はそんなもんだったか?」
人気のない街中に響く声。両手に剣を持った声の主の先には、剣を持って銀色の防具に身を包んだ青年が立っていた。
「なんだ?あの時から弱くなっちまったのか?つまらねぇじゃねぇかよ!」
声の主―――ドレッドはそう言うと、右手の剣を左手の剣にくっつけた。
その瞬間、ドレッドの右腕が消えた。
「!!!」
消えた右腕が現れた時、右手に握られている剣には激しく燃える炎が纏われていた。
「オラァ!」
ドレッドは炎のついた右手の剣を思いっきり振った。その瞬間、剣に纏われていた炎が刀身を離れて青年―――バルーシに向かって飛んでいった。
「っ!」
高速で飛んでくる炎を寸でで交わす。しかし、交わす体制から攻めの体制に持っていった瞬間、目の前からドレッドの右手の剣が迫ってきた。
「くっ!」
キィィィン!
金属音が街中に響く。バルーシは目の前まで迫っていた剣を柄の部分で受け止めていた。
すぐさま体を回転させて切りかかろうと体制を変える。
「甘いぜ!」
「何!?」
突如、ドレッドの左腕が消えた。切りかかろうとしていたバルーシに向かって、今度はドレッドの左手の剣を振るってきたのだ。避けようとするも、迎撃体制に入っていたバルーシは攻撃についていけず、避けることができなかった。
「ぐっ!」
ドレッドの斬撃をまともに受け、バルーシは後ろによろめきながら下がった。その切られた腕からは、血が流れ始めていた。
「へっ!まともについていけてねぇじゃねぇか!」
ドレッドの"消える"剣に翻弄されるバルーシ。対してドレッドは、劣勢のバルーシに向かって二つの剣を鳴らして嘲笑っていた。
「何故だ・・・奴の剣撃はさながら神速・・・目で捉えられない。」
目で捉えられるなら防御のしようも回避のしようもある。しかし、ドレッドの剣は目で捉えることができない。故に防御も回避も出来ない。
「くっ・・・このまま長期戦に持ち込まれてはこちらが不利になる・・・何とかして奴の消える剣を見極めねば・・・。」
そう言って、バルーシは再び剣を構えて立ち上がった。
「へ!まだやるってのかい!」
笑うドレッドとは対称的に、バルーシは額に汗を流しながら向かっていった。
「何度やったって同じだってのによぉ!・・・ってのわぁ!」
油断しきっていたドレッドに、バルーシは自分が持てる最速で近づいて剣を振った。
「ちっ!」
ドレッドはバルーシの剣を、左手の剣で受け流そうと構えた。
キィン
「!?」
響いた金属音を聞いたとき、バルーシの顔が一瞬にして疑問に変わった。
「おらよ!」
「っ!」
間髪入れずにバルーシの体を切り裂く右手の剣。バルーシはすぐさま後ろに飛び退いた。
「・・・今の金属音、今までに聞いた金属音とかけ離れてる・・・何故だ?」
構えながら思案するバルーシ。
「そしてあの手応え・・・まるで細い鉄棒を切りつけたような感触だった・・・普通の剣ではああはなるまい。」
しばらく思案するバルーシ。そして、あるキーワードがバルーシを閃かせた。
「"普通の剣ではない"・・・奴の剣は何かしら異質な剣なのではないか・・・?」
そう思って、バルーシはそれを確かめようと再びドレッドに向かっていった。
「おらおらどうしたぁ!俺はまだまだ疲れてないぜ!」
そう言って、ドレッドは両手の剣を同時に高く上げると、向かってきたバルーシに向かって消える両腕で降り下ろした。
キィィィン!
「ぐわぁ!」
強い衝撃を受けてよろけるバルーシ。
その時、バルーシはあることに気がついた。
「あれだけ剣を振っておいて疲れていないだと・・・まさか奴の剣・・・腕への負担を軽くして・・・。」
ここまで言って、バルーシはハッとなった。
「そうか・・・!奴は剣を軽量化しているのだな!そうすれば全ての問題が解決する。」
切りかかった時の異質な音は、鉄の量が少ないために普段とは違う音になっていたのだ。
そして問題の"消える"両腕。
「あれはおそらく・・・剣を振る速度があまりに早いために消えて見えるだけ・・・軽量化した剣は普通に振っては威力が落ちる、そのために速さで力を補ったというわけか・・・。」
ドレッドの戦術に答えを出したバルーシは、そこで小さく口角を上げた。
「似た者同士だと思っていたが・・・戦術は全くの真逆と言うわけか。」
ドレッドの速さで力を補う戦術に対して、バルーシは力で速さを補うパワータイプ。二人は決定的に違っていたのだ。
戦術が全く違う相手を前にして、バルーシは再び表情を固めた。
「戦術は見破った・・・後はそれを打ち破るのみだ。」
バルーシの額から、また一筋の汗が流れ落ちた。