愛敬
目を閉じて死を覚悟したクピン。しかし、クピンの体に死は訪れてこない。
「・・・?」
ゆっくりと目を開けると、目の前に広がっていたのは鮮やかな布地だった。
「クピン!大丈夫!?」
布地の奥からプルーパの声が聞こえた。
クピンが小さく頷くと、広がっていた布地がゆっくりと閉じられていった。
「き!貴様!」
ルーブが驚いたように叫ぶ。その先にいたのは、さっきまで霊力を無くして倒れていたプルーパだった。
「お姉・・・様・・・?」
ローイエが倒れていた体をゆっくりと起こしてプルーパの方を見た。その先にいたのは、さっきまで頭から流れていた血は消え、体は光輝いていた。
「プルーパ様・・・?」
クピンの言葉と共に、光輝くプルーパは一歩前に出た。その瞬間、プルーパの剣袖が目で捉えられないスピードで舞った。
キィィィン!
「くっ!」
金属音が響いた瞬間、ルーブが後ろに吹っ飛ばされた。
「くっ!貴様!何故立てる!?貴様の霊力は尽きたはず!」
焦るように捲し立てるルーブに対して、プルーパはさっきまでとは全く違う雰囲気でたたずんでいた。
「・・・!」
二人を見ていたローイエが地面に目をやると、すぐさま異変に気づいた。
地面には、さっきまで無かったものが落ちていた。そしてその落ちてる物は、前哨戦の前に全員に託されたお守りの小さな袋だった。しかし、渡された時と大きな違いがあった。それは、固く閉じられていた袋の口が開いていたことだった。
「すごい・・・プルーパ様の力が何倍にも膨れ上がってる・・・!」
クピンが驚いたように口にすると、それを聞いたルーブが声を荒げた。
「馬鹿な!尽きた力を何倍にもするなど星でもなければ!」
そこまで言った所で、ルーブはハッとなった。
「まさか・・・お姉様!」
「えぇ、最初は私も疑ったけど・・・間違いないわ。」
プルーパが舞うと、その体からまるで星のようにキラキラと輝く光が舞い上がった。
「馬鹿な!星は選ばれた者にしか力を与えないはず!」
ルーブがさらに言うが、プルーパは一切動じない。
「私の体に星が力をくれた時、確かに聞こえたわ。"選ばれた者と共に戦う者よ、選ばれた者と共に戦う力を授ける"ってね。」
「星が・・・私達にも力をくれるってこと・・・?」
プルーパが小さく頷いた瞬間、ルーブが斧を構えて叫んだ。
「くそぉ星め!どこまでも私達の邪魔がしたいようね!ならばその女ごと切り刻んでやるわ!」
向かってくるルーブに冷静に向かい合うプルーパ。
「やぁぁぁ!」
ルーブがプルーパに斧を振り下ろした。
キィィィン!
「!!!」
目の前でルーブの斧が砕け散った。
「・・・?」
クピンとローイエは何が起きたかわからなかった。ルーブが斧を振り下ろした瞬間に斧が砕けた。しかし、その間にプルーパが動いたようには見えなかった。
「ど!どうやって私の斧を!」
「ただ袖を振っただけよ?速すぎて・・・見えなかったかしら?」
プルーパの力が星によって何倍にも増したことにより、その速さは今までの何倍にも増していて、クピンとローイエはおろか、ルーブにすらその動きは目で捉えられない程になっていた。
斧を無くしたルーブだったが、すぐさま刃を無くした棒で殴りかかってきた。
「止めなさい、これ以上戦っても勝敗は見えてるでしょ?」
「うるさい!王位に目が眩み妹を貶めるようなやつに負けるわけがない!」
「な!何言ってるの!?お姉様はそんなことしないもん!」
「黙れ!私は知ってるのだ!貴様の妹が即位した日!貴様は涙を流したではないか!」
ローイエは、シロヤにシアンの過去を話した時を思い出した。
「貴様も所詮は欲深き人間だ!そんな下等生物に私は負けない!」
キィィィン!
またもや甲高い音。その音と共に、ルーブの持っていた棒が根本から砕け散った。
「確かに私はあの日・・・涙を流したわ・・・王位が欲しかったの事実よ。」
「くぅ!ならば何故貴様は!」
「決まってるでしょ?妹にそんな重荷を負わせるなんて・・・私には耐えられなかったわ。」
いつの間にか、プルーパの体はルーブを捉えていた。剣袖を構えている状態で、プルーパはさらに言葉を続けた。
「王位に対しては何の欲も無いわ。ただ私は妹達に何の不自由もなく幸せに暮らしてほしかっただけよ。でもそれは叶わなかった・・・だから私はせめてシアンの為に生きることを誓ったわ。例えそれが血が繋がってなかったとしてもね。」
「まさか貴様・・・シアンが捨て子だってことに・・・!」
プルーパの舞の動きが速まる。
「でもね、不自由しかなかった妹にも自由が出来たのよ。そしてそれを作ったのがシロヤ君・・・だから私はシロヤ君が好き、大好きよ。」
そして、剣袖が舞うと同時に、プルーパは力強く叫んだ。
「私は大好きな人のために・・・最後まで戦うわ!」
そして、剣袖がルーブの体を捉え、切り裂いた。
「あぁぁぁぁぁ!!!」
「あ、でも一つだけ・・・欲はあるわ。」
ルーブの体が切られ絶叫と共に地面に倒れる途中、プルーパは小さく微笑んだ。
「シロヤ君の・・・側室になることかしらね。」
プルーパの体から、星の輝きが光の余韻を残して消えていった。