剣袖
「そ・・・それは・・・!?」
プルーパの着ていた服が地面に落ちるのを横目に、ルーブはプルーパを奇異な目で見た。
プルーパが今着ているそれはあまりにも異質だった。絹のように鮮やかに流れる布生地に同素材の鮮やかな帯。足元まで隠れる長さのそれは、袖が膝まで伸びる程に長かった。
「プルーパ様・・・それは・・・?」
クピンが口を開くと、プルーパは小さく微笑んだ。
「これは剣舞踊の使い手の奥義、"剣袖"よ。」
「剣袖・・・?」
プルーパがクルリと一回りすると、袖がまるで意思を持ったように鮮やかに舞い、鮮やかに空を切った。
「これは私の霊力を吸って剣となる着物よ。私の霊力が尽きない限り、この袖は全てを切り裂く刃となる。」
プルーパはそこで、改めてルーブの方を向き直った。
「もっとも・・・私の霊力はさほど高くないし、そう長くは持たないでしょうね。でも・・・それまでに決着を着けるわ。」
その言葉に、ルーブは怒りの表情で斧を構えた。
「いい度胸ね!果たして時間内に私を倒すことができるかしらね!」
言葉と同時に地面を蹴るルーブ。対してプルーパは冷静な表情でその場から動かないでいた。
「倒すわ・・・バスナダのために、シロヤ君のために!」
プルーパも言葉と同時に地面を蹴る。しかし、プルーパはただ前に出るのではなく、ルーブの足元をめがけて体制を低くして走った。
それについていこうと足を止めるルーブ。それを見た瞬間、プルーパは地面を強く蹴って高く飛び上がった。
「ちぃ!」
すぐさま斧を構えるルーブ。対してプルーパは、飛び上がった状態から体を大きく捻ってムーンサルトをした。そして空に足を向けた状態のまま体を回転させた。
その瞬間、剣の袖が同じように回転してルーブに襲いかかった。
「くぅ!」
両腕の袖から繰り出される刃を斧で受けるが、回転により威力を増す刃に次第に押されていく。
ルーブの腕が次第に力を失っていった時、プルーパは体を再び捻って地面に着地した。
「まだよ!」
着地と同時に、プルーパは再びルーブに向かっていった。
ルーブも負けじと斧を振るう。二人の刃の力は互角であり、どちらも力で競り負けることはなかった。
しかし、いつの間にかルーブはどんどんと後ろに下がっていき、プルーパがルーブを圧倒していた。
「くっ!」
ルーブの表情が次第に曇っていく。
ルーブの武器である戦斧は、武器の中では"重量武器"に属している。重量武器は、手数では他の武器を大きく下回るため、一撃の重さに懸けるのが正しい戦い方なのだ。
対してプルーパの剣袖は、プルーパの舞踊の速さがそのまま攻撃の速さに繋がる。プルーパが舞踊を緩めない限り、剣袖の攻撃はスピードを緩めることはないのだ。
さらにスピードを上げていくプルーパの動きと剣袖の刃に、次第にルーブは息を切らし始めていた。
「くっ・・・!」
苦悶の表情で息を切らすルーブ。
キィィィィィン!!!
「っ!」
ルーブの斧が、派手な音を立てて大きく弾かれた。
すかさずプルーパは、武器を失ったルーブに向かっていった。
ガクッ・・・。
「!!!」
瞬間、プルーパの体が力を無くして倒れた。
「そ・・・そんな・・・!」
プルーパは瞬時に悟った。自分の霊力が底を尽き、剣袖を保つことができなくなってしまったことを。
「ふ・・・ふふ・・・ははははは!」
勝ち誇ったように倒れているプルーパの前に立つルーブ。その手には、吹き飛ばされたはずの斧が握られていた。
「残念ね!もう少しだったのに霊力が切れちゃうなんてね!」
ルーブを足を上げて、そのままプルーパの頭を踏みつけた。
「あぅ!」
「まだよ・・・苦しみをもっと味あわせてから・・・それから殺すわ・・・!」
さらに頭を踏みつけるルーブ。プルーパの頭は次第に紅く染まっていった。
「プルーパ様!」
「邪魔をするな!」
クピンが悲痛の表情を上げて走り寄るが、すぐさまルーブに弾き飛ばされてしまった。
「・・・そうね、まだあなたがいたわね。」
何かを思い付いたように舌を出して、ルーブはゆっくりと動けないクピンに近寄った。
「あなたを先に殺させてもらおうかしらね・・・!」
「あ・・・あぁ・・・!」
「そこで見ているといいわ!大事な仲間が殺される瞬間をね!」
言葉と同時に、ルーブは斧をクピンに振り下ろした。
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。