信念
各地で火災が発生している市街地で、兵団の兵士達が必死に消火活動に当たっていた。
「まずい!周りに燃え移り始めたぞ!」
「こっちに増援を!このままじゃ消火出来ない!」
「貴重品の保護も怠るな!」
慌ただしく兵士達が行き交う中、バルーシは中央広場の方へ走って向かっていた。
「隊長殿!どちらへ!?」
「すまない!消火活動は皆に任せた!俺は奴と決着をつけなければ!」
そう言って、バルーシはさらに走るスピードを速めた。
「ちっ、この程度じゃ物足りねぇぜ・・・。」
中央広場で一人、ドレッドが両手に剣を持ちながら呟いた。
「もっと盛大に燃やし尽くしてやりてぇのに・・・全くどいつもこいつも思いきりの気持ちが足りないな・・・。」
やれやれ、と小さくため息をついて、ドレッドは左手の剣を右手の剣に重ね合わせて、高速で擦り合わせた。その瞬間、右手の剣に激しい炎が灯った。
「景気付けだ。一発どでかい火柱でも上げて前哨戦を盛り上げますかな。」
そう言って、ドレッドは炎を纏った右手の剣を振りかぶった。
「たーまやー!」
掛け声と共に右手の剣を振るうと、炎が剣を離れて、真っ直ぐと中央広場にある一番高い建物に向かっていった。
シュ・・・!
「あぁ!?」
間の抜けた声を上げるドレッド。
ドレッドの目の前で、真っ直ぐ飛んでいった炎が急に消滅した。
「な!何だ何だ!?」
目をぱちくりさせるドレッド。その時、ドレッドの体に風が走った。
「・・・!」
その風を感じたとき、ドレッドは表情を緩めて風が吹いている方向を見た。
「久しぶりだな!俺のライバル!」
すぐさま両手剣を構えるドレッド。そしてそれと対峙する、銀色の防具を身に付けた銀髪の青年、バルーシ。
「お前が火をつけたのか?」
「その通りだ!まぁ、もっと景気よくやりたかったんだが・・・狼煙だからしゃあないか。」
退屈そうな表情になるドレッドに、バルーシは表情を曇らせた。
「貴様・・・人々の情や様々な想いが籠った街を破壊するなど・・・!」
バルーシの怒りの言葉に対し、ドレッドは笑いながら返した。
「街何かどうでもいいんだよ!情なんかいくらでも込められるじゃねぇか!壊れたものは建て直せばいい話だしよ!」
「・・・何だと?」
ドレッドの言葉に、バルーシは眉を動かした。
「だけどよぉ!人は一回壊れたらもう直らねぇ!だったら壊れる前に戦闘を楽しむってのが戦士じゃないのか!?」
「・・・。」
バルーシは、別人を見るような目でドレッドを見た。
この男は、心までラーカによって悪に染まった男だと思っていたが、その考えは間違いかもしれなかった。この男、考え方は間違っているかもしれないが、自分の"信念"を重んじてる。
「なるほど、道理で似た者に見えるわけだ。」
「さぁ!似た者同士、死ぬまでやり合おうぜ!」
主君を守るバルーシの"信念"。そして闘争と人間に対するドレッドの"信念"。
今、二つの信念がぶつかり合う時が訪れた。