誘導
「皆さん!急いでください!」
一斉に走っていくたくさんの市民達を誘導する声。
その声を発している人は、狼煙が上がる二十分前に市街地にいた。
「皆さん聞いてください!これから二十分後に街で火が上がります!」
最初は聞き流す人もいたが、その緊迫した様子に次第に人はただ事ではないことを確認した。
「急いで街から避難してください!」
この言葉と共に、市民全員の頭にある映像が流れ込んだ。それこそが、二十分後に起こる火事、狼煙の映像だった。
映像が見えた瞬間、市民全員がパニックを起こした。
「皆さん落ち着いてください!私の誘導についてきてください!」
そう言って、人―――クピン一人の市民誘導が始まった。
市民が一斉に地下帝国入り口である禁断の地に向かっていくのを、クピンは必死に一人で誘導をしていた。
「ねぇお姉ちゃん!僕達どうなっちゃうの!?」
各所で不安に駆られるような声が上がるが、全てクピンは優しくこう言った。
「大丈夫、シロヤ様達が皆を守ってくれるからね。」
しばらくすると、先頭の市民が地下帝国の入り口にたどり着いた。
「急いでください!皆さん急いでください!」
必死に市民を誘導するクピン。
「あら?随分と派手にやってるじゃない?」
「!!!」
急に声が聞こえてきた。クピンは周りを見渡してみるが、周りに市民以外の人の気配はない。
市民達の避難は三分の一を終えた所で、クピンが再び周りを見渡すと、視界に誰かが映った。その誰かは、青い長髪を揺らしながらゆっくりと歩いて逃げる市民達の方へ向かっていた。
「!!!」
クピンは直感で理解した。
「あの人は・・・危険です!」
すぐさまクピンは市民の誘導の手を速めた。
「無駄よ・・・無駄よ無駄!全員死んでもらうわよ!」
はっきり聞こえた声と共に、青髪の女―――ルーブは背中から巨大な斧を取り出して地面を蹴った。
「まずい!」
それを見たクピンも地面を蹴る。既に市民は半分以上が地下帝国に避難している。ここで市民達を危険に晒すわけにはいかない。
「さぁ!死になさい!」
勢いよく振った斧から巨大な衝撃波が迸る。一直線に逃げる市民に襲いかかる衝撃波。
「させません!」
クピンは市民と衝撃波の間に立って手を構えた。
その瞬間、クピンの目の前で衝撃波が止まった。
「何!?」
予想外の出来事に動きを止めるルーブ。
クピンは霊力の力で、ルーブの衝撃波を受け止めていた。
「えぇい!」
クピンが手を振ると、止まっていた衝撃波が軌道を変えて消滅した。
「くぅ!よくもやってくれたわね!」
ルーブはそのまま、斧を構えてクピンに向かっていった。
「まずい!これじゃあ街の皆さんが!」
クピンは避難状況を確認した。もう少しで全員の避難が完了する。少しだけ時間を稼げれば間に合う。
そう思ったクピンは、向かってくるルーブに手を向けた。
その瞬間、ルーブの動きが止まった。
「かぁ・・・貴様・・・!」
クピンは、霊力でルーブの動きを止めていた。そしてそのまま手を上げると、ルーブの体も同時に浮き上がった。
「少しだけ・・・遠くにいっててください!」
そう言って、クピンは物を投げるように手を大きく振った。
「あぁぁ!」
その動きに合わせて、ルーブの体はクピンが手を振った方向に飛んでいった。
飛んでいったのを確認すると、クピンはすぐさま市民の方に目を向けた。
見ると、市民全員が地下帝国に避難を終えていた。
「よかった!これであとは!」
すぐさま城に戻ろうとした瞬間、クピンは固まった。
「許さないわ・・・!よくも私をここまでコケにしてくれたわね!」
先にいたのは、激昂して斧を構えるルーブだった。
「民を殺すのはいつでも出来るわ!でもその前にあんたからよ!」
ルーブは全速力でクピンに向かってきた。
「!!!」
このままいたら殺される!と直感し、クピンはすぐさまその場から離れた。
「逃がさないわ!」
逃げるクピンの後を追い、ルーブは斧を投げた。
「いやぁ!」
キィィィン!
「ちっ!」
斧はクピンの手前で甲高い金属音を上げると、跳ね返ってルーブの元に戻ってきた。
「次は逃がさないわ!」
そう言って再びクピンを追う。
カクン・・・。
「え?」
走っている最中、クピンの体が急に倒れた。
「ま・・・まさか・・・!」
クピンは、自分の身に何が起きたのか直感で理解した。
「霊力が・・・使えない・・・!」
クピンはこの短時間で、霊力の消費量が高いことを何度も繰り返した。そのため、反動によって霊力が使えない状態になってしまったのだ。
「そ・・・そんな・・・!」
立ち上がろうとした瞬間、
「つ・か・ま・え・た!」
「!」
目の前に、斧を構えたルーブが立っていた。
「手間取らせてくれたわね!でも・・・これでおしまいよ!」
ルーブは斧を振りかぶって、クピン目掛けて勢いよく降り下ろした。
キィィィン!
「な!」
耳に響く金属音。見ると、クピンとルーブの間に二人の影が見えた。
「よく頑張ったわね、クピン。」
「クピンちゃん、後は私達に任せて!」
ルーブの斧を止めている二人が、クピンに向かって言った。
「ちっ!そういえばあんたもいたんだっけね!」
ルーブはすぐさま後ろに飛び退いて、再び斧を構えた。
「クピンの次は」
「私達が相手だよ!」
ルーブが構えたのに合わせて、プルーパが短剣を構え、ローイエが槍を構えた。