流星
フカミとキリミドの力で森地帯を抜けた二人は、すぐさま城に向かって走った。
「まずいわ・・・"星"が狙われるなんて・・・。」
プルーパが呟いた。しかし、シロヤには"星"が何なのかわからなかった。
「プルーパ様!"星"っていったい!?」
「シロヤ君!今は走ることだけに集中しなさい!」
シロヤを一喝する。その顔には焦りが現れていた。
目的地に向かって城内を走る二人。途中、使用人や学者がプルーパの顔を見て驚いていた。おそらく、プルーパがここまで焦った表情をしたのは初めてなのだろう。
そして、プルーパとシロヤが着いたのは、地下への階段を下っていった先にあった門だった。
「シロヤ君・・・ここにレーグの目的があるのよ。この国では"星"って呼んでる物よ。」
門がゆっくりと開かれた。様々な財宝が箱に入れられて管理されている宝物庫。その先にあったのが、プルーパが言う"星"だ。
「これが"星"・・・綺麗・・・。」
キラキラとまるで宝石のように輝くそれは、それ自体が光を放っていて、薄暗い宝物庫を照らしていた。
「百年に一度、星の形の砂金がバスナダに現れるの。私達はその現象を"流星"と呼んでいるわ。そしてその流星によって生まれる砂、それが"星"よ。国王のみが所有できる国の宝、つまり今の所有者はシアンってこと。」
厳重に管理されている星は、見ているだけで不思議な力が沸いてきた。まるで、星自体が不思議な力を秘めているようだ。
「気づいた?星に秘められた力に。」
シロヤの心を読んだプルーパは、再び説明を始めた。
「この星がこうやって厳重に管理されているのかわかる?」
「え・・・?」
「この星はね・・・危険なのよ。」
「危険・・・?」
シロヤは首をかしげた。これだけ光輝く星が危険な理由が思い浮かばなかった。
「この星には魔力を増幅させる力が込められてるの。簡単に言えば、持っているだけでその人の強さを増幅させるのよ。賢者が持てば国一つを自由に作り替えることが出来るくらいに強力なの。」
星に秘められた力、シロヤはそれを知ったと同時に、光輝く星が恐ろしく見えた。
「レーグはこれを使って絶対的権力を手にしようとしているのね。レーグの魔力なら国を作り替えはできないけど、頂点に立つことぐらいなら出来るはずよ。」
「でもこれの所有者はシアン様じゃ・・・。」
「そのために"あの人"を送ったのよ。」
「あの人・・・?」
シロヤが再び疑問に思った瞬間、宝物庫の扉が開いた!
「プルーパお姉様!リーグン様が来ました!是非ご挨拶をしたいって。」
「あら、ずいぶん突然ね。ちょうどいいわ、シロヤ君にも紹介しなくちゃ。」
宝物庫を出て、客室に向かう二人。
「あの・・・リーグン様って?」
「レーグの息子よ。」
それを聞いた瞬間、シロヤは顔をしかめた。あんな親を持った子供はろくなものではないような気がしたからである。きっと、金に物を言わせて市民達を弄んでふんぞり返ってるボンボン息子なんだろうな、とシロヤは瞬時に悟った。
そんなシロヤを見て、クスクスと笑いながらプルーパは客室の扉を開けた。
「プルーパ様!お久しぶりです!」
客室の中にいた青年が深々とプルーパに礼をする。そして、シロヤに目を向けて再び深々と礼をする。
「お話はうかがっております。シアン様の命を助けた勇敢な方だと聞きました。是非、旅の話なども聞かせていただきたい。」
「え・・・はぁ・・・。」
シロヤは目を丸くした。これがレーグの息子なのか、まるで正反対、端正な顔立ちでいて端正な服に身を包んだ青年。レーグのように何かを企むような口調とはかけ離れていて、淀みのないまっすぐな瞳は、意思の強さを感じ取れた。
「よく来たな、リーグン。」
遅れてシアンが客間にやって来る。それを見るなりリーグンは再び礼をした。
「お久しぶりです、シアン様。長らく顔を見せずに申し訳ありません。文を書こうにも時間がとれずに・・・。」
「萎縮するな、そなたはいずれこの国を支えるのだからな。」
シアンはリーグンを微笑みながら見つめた。
「・・・女王様。」
急に後ろから聞こえた声、客間の入り口には、さっきまで追っていた男、レーグが立っていた。
「レーグよ、先程はどこにいたのだ?会議が終わると同時に城を出たようだが。」
「いえいえ、他国からの使者と話をつけてきただけですよ。ヒヒヒヒヒ。」
レーグは平気で嘘をついた。
「それでリーグンよ、なぜ急に来たのだ?」
「ヒヒヒヒヒ、女王様。そろそろお決めになられてはいかがですか?」
レーグが再び含み笑いをしながら言った。対してシアンは笑わずにレーグをまっすぐ見据えて口を開こうとした。
「父上、今日はその話をするためにここに来たのでしょう?ならば僕の意思は初めから決まっています!」
リーグンは、口調を強くしてレーグに言い放った。
「シアン様との結婚は正式にお断りさせていただきます!」