前夜
「・・・。」
ここはバルーシの自室。その中で一人、バルーシは装備の整備をしていた。
「・・・ロブズン・・・。」
誰に聞かせるわけでもなく、バルーシは小さく呟いた。
「必ずお前を・・・救い出してやるからな・・・。」
今回の戦争で、バルーシは弟であるロブズンと対立することになるだろう。しかしバルーシは、必ずロブズンを救おうという断固たる決意があった。
「また兄弟三人で笑える日を・・・取り戻してみせる。」
バルーシは整備の手を速めた。
「ごめんねリーグン。呼び出しちゃったりして。」
ここはプルーパの自室。あの後、プルーパはリーグンを自室へと招き入れた。
「プルーパ様、話とは一体なんでしょうか?」
そう言われて、プルーパは小さく息を吸って言った。
「・・・"アレ"を出してくれないかしら?」
「!!!」
それを言われた瞬間、リーグンは驚きの表情になった。
「まさか・・・アレを使う気なのですか!?」
「えぇ・・・じゃないと今回の戦争、勝てないかもしれないわ。」
「無茶です!プルーパ様はまだアレは使いきれていないはずです!」
「・・・無茶は重々承知よ。」
プルーパの目は真剣だった。リーグンはそれを感じとり、渋い顔をしながら小さく頷いた。
「・・・ありがとう、リーグン。」
プルーパは優しく微笑んだ。
「それとリーグン、あなたも無茶はやめておきなさいよ?いくらあなたでもあの魔法は荷が重いんじゃないかしら?」
「な!なぜそれを!?」
その言葉に、プルーパはいたずらっぽく微笑んだ。
「女の勘・・・よ。」
「何やってるの?クピンちゃん。」
ここはクピンの自室。ローイエがクピンの自室を訪れた時、クピンは自室の掃除をしていた。
「お部屋の掃除をしております。戦地に赴く前は必ず部屋の掃除をすると、文献に書いておりましたので。」
クピンが笑顔で言った。
「おいおい、それは最初から死ぬ気で戦地に行くやつの行動だぜ?」
「レジオン!」
振り向くと、レジオンが笑いながらクピンの部屋に入ってきた。
レジオンの指摘に、クピンは「そうだったんですか」と言わんばかりの表情で固まっていた。どうやら間違った解釈をしていたようだ。
「ク・・・クピンちゃん?」
「えへへ・・・ご安心ください、必ず生きて帰ると約束しましたから!」
「ぷっ!あははは!クピンちゃんったら!」
「ガハハハ!ったくてめぇは勘違いが過ぎるぞ!」
「す・・・すいません・・・えへへ。」
部屋の中、三人の笑い声が響き渡った。それは、明日戦争に出向くような人達とは思えなかった。
ここはシロヤの自室。
「・・・シアン様?」
「スー・・・スー・・・スー・・・。」
シロヤの肩を借りていたシアンは、いつの間にか眠りについていた。
「・・・。」
シロヤはシアンの寝顔を見て、小さく笑った。そしてそっと髪を撫でて、自室のベッドにゆっくり横に寝かせた。
「・・・心配?」
「フカミさん・・・。」
いつの間に来ていたのか、部屋にいたフカミがシロヤに話しかけてきた。
「不安なのはわかってるわ。あなたは何人もの・・・いえ、今はこの国全ての人間の命を背負ってるんですものね。」
フカミの言葉に、シロヤは少し考え込んだ。
確かに今、自分は一人ではない。信頼してくれている皆のために、シロヤは必ず生きて帰らなければならない。
「でも・・・。」
シロヤはそこで初めて言葉を紡いだ。
「それが重荷になるなんて決して思いません。むしろ・・・それが俺の力になると思います。」
「シロヤさん・・・。」
キリミドが笑った。それを見てフカミ、そしてシロヤも笑った。
「皆さんの思いが、皆さんの願いが強ければ、俺達は必ず乗り越えられます。」
「シロヤさんらしいですね。」
「でもそんなあなたの考え・・・嫌いじゃないわ。」
そう言って、フカミとキリミドはまた笑った。それに釣られるようにシロヤも笑った。
「・・・!」
ふと見てみると、ベッドで寝ているシアンも笑っていた・・・ような気がした。
それを見て、シロヤはまた小さく笑った。
そして、それぞれの思いが交錯した夜は過ぎていった・・・。