意味
「お兄様、起きて起きて!」
地下帝国探索の次の日の朝、ローイエはベッドで寝ているシロヤを起こしていた。
ユサユサと何回も揺らしていると、やがてシロヤはゆっくりと目を開けた。
「うぅ・・・ん・・・ふわぁ・・・。」
大きなあくびを一つして、シロヤは大きく伸びをした。
「おはよう、お兄様。」
「おはようございます、ローイエ様。」
「・・・。」
ジーっとシロヤを睨むローイエ。
「あ・・・おはよう、ローイエちゃん。」
「♪」
言い直したシロヤの言葉に、ローイエは満面の笑みになった。どうやらご機嫌になったようだ。
「あ、お兄様。フカミちゃんが話があるって言ってたよ?作戦会議室にいるから。」
「え?フカミさんが?分かりました、ありがとうございます。」
そっとローイエの頭を撫でるシロヤ。
「もぅ・・・敬語やめてよぉ・・・えへへ・・・。」
いつもなら不機嫌になるローイエだが、頭を撫でられたことで帳消しになってしまったようだ。
「来たわね。」
作戦会議室に行くと、中にはフカミとキリミドがいた。
「俺に話ってなんですか?」
シロヤがそういうと、フカミとキリミドはシロヤに駆け寄ってきた。
「ちょっとあなたに見てほしいものがあるのよ。」
「私達についてきてください。」
「え?見せたいもの?」
フカミとキリミドはシロヤの手を掴んで、グイグイと引っ張って作戦会議室を出ていこうとした。
「ちょ!ちょっと引っ張りすぎですって!」
ふたりの精霊に連れられ、シロヤは城を出ていった。
連れられてやって来たのは、未開拓地帯の奥の教会だった。
「ここって確か・・・レーグを尾行したときに来た・・・。」
一年も経っていないはずなのに、ずいぶんと昔のことのように思えてしまうシロヤ。
「シロヤ君、こっちよ。」
フカミに招かれて、シロヤは森のさらに奥へと歩を進めていった。
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。
「さぁ、着いたわ。」
森の奥へとどんどん入っていくと、やがてシロヤ達は拓けた場所に出てきた。
「ここは・・・?」
「ここは私達の家よ。ほらあそこ、入り口があるでしょ?」
フカミが指差した方向に、人が屈んで入れる程度の大きさの穴があった。
その穴を潜ると、フカミは中央にある大きな花に手をかざした。
「わっ!」
花が光を帯びると、周りを照らし始めた。明るい部屋で、キリミドが一つの方向を指差した。
「つい最近まで、そこにランブウさんがいたんですよ。」
「今はどこへ?」
「国境警備隊の皆さんを連れてどこかに行ってしまいました。」
そんな話をしていると、フカミが二人を手招きしていた。
「見てほしいものはこれよ。」
そう言って指差した方向にあったのは、大きな石板だった。
「こ!この石板の絵!」
石板を見た瞬間、シロヤは驚きの表情で叫んだ。
「見たことあるでしょ?地下帝国で。」
「はい・・・まさしくあの壁画の絵と同じです・・・!」
シロヤが見ている石板の絵は、地下帝国のさらに奥で見た巨大壁画の絵と同じものだった。
「今日、ここに呼んだ理由はね、この絵の意味をシロヤ君に教えるためだったの。」
「この絵の意味?」
シロヤの問いに、キリミドが深呼吸を一つしてゆっくりと語りだした。
「空を取り込まんばかりの巨大な闇がこの地を覆う時・・・人が持つ何者にも負けぬ強い力が集まり・・・闇に打ち勝つ英雄、この地に現れる・・・。」
「巨大な闇・・・?闇に打ち勝つ英雄・・・?」
石板の絵の意味を語るキリミド。シロヤは気になった部分を復唱した。
「あくまでも憶測だけどね、これは英雄と魔の戦いを表した物だと思われるわ。」
まだバスナダという国がなかった時代、旅人だった男がチラプナと共に魔に立ち向かった話、それがこの絵だとフカミは言っていた。
「じゃあ・・・やっぱりあの地下帝国は・・・。」
ザッ・・・。
「!!!」
突然響いた草を踏む音。勢いよく振り向くと、そこには鎧の男が立っていた。
「あなた・・・!いつからそこへ・・・?」
フカミの問いに答えようとせず、男は兜を取った。銅髪の髪がサラサラと揺れる。
「あなたは確か・・・地下帝国にいた・・・。」
男は兜を持ったまま、ゆっくりと語り始めた。
「貴様達の推測・・・二日後にラーカが攻めてくるのは真実だ。」
「え!?」
全員が驚きの表情になると、男はさらに言葉を続けた。
「だが・・・明日、この街に狼煙が上がる。」
「狼煙・・・?」
男はゆっくりと、狼煙の意味を話した。
「その狼煙は前哨戦の合図だ。ラーカの下についている我々は明日、この国に攻撃を開始する。」