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Sand Land Story 〜砂に埋もれし戦士の記憶〜  作者: 朝海 有人
第三章 白の勇者と古の記憶
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自責

「月が綺麗ね・・・。」

 バルーシとプルーパは、部屋の窓から見える月を眺めていた。

 二人の間に流れる静寂。しばらく月を眺めていると、最初にその静寂を破ったのはバルーシだった。

「あの・・・プルーパ様?」

「ねぇバルーシ、悩みがあったら私達に相談しなさいよ?」

「・・・。」

「シロヤ君も私達もバルーシを心配してるのよ。だから・・・ね?」

 バルーシに柔らかい笑顔を見せる。月明かりに照らされたプルーパの笑顔は、神秘的な印象があった。

「・・・はい、ありがとうございます。」

 バルーシは小さく会釈をした。

「・・・プルーパ様。」

「なに?」

 柔らかい笑顔のまま返事をするプルーパ。対してバルーシは、決意を固めたような真剣な表情をしていた。

「・・・プルーパ様は覚えているでしょうか?私が初めて城に来たときのことを。」

 そう聞かれたプルーパは、しばらく首を傾げた。考えてみれば、バルーシと会ったのは五年前、バルーシが王室前の警備をしていた時のはずだ。

「・・・ごめんなさい、覚えてないわ。」

「そうですか・・・。」

 悲しげな表情になったバルーシを見て、プルーパは少し慌てたように口を開いた。

「よかったら聞かせてくれないかしら?バルーシが初めてここに来たときの話。」

 そう言われて、バルーシは月を見ながら物思いにふけるように口を開いた。




六年前・・・。




「バルーシ、ここがお前の部屋だ。」

 金髪の青年に連れられて、銀髪の少年は小さな部屋へやって来た。

「もういつもみたいに俺はお前達を守れないから・・・これからはお前が弟を守ってやるんだぞ?」

 そう言って金髪の青年は、少年の銀髪を優しく撫でた。

「じゃあな、バルーシ。強く生きるんだぞ。」

 そう言って、金髪の青年―――ゴルドーは部屋を出ていった。


ドクン・・・。


「!」

 ゴルドーが部屋を出ていった瞬間、銀髪の少年―――バルーシの心に何かがのし掛かった。

「兄さん・・・行っちゃダメだ・・・行っちゃダメだ・・・!」

 うわ言のように呟いて部屋を出るが、いくら探してもゴルドーの姿は見つからなかった。

 バルーシがゴルドーと話したのはそれっきりだった。

 バルーシは何度も探し回ったが、いくら探してもゴルドーは見つけられなかった。

 バルーシの弟も、長らく帰ってこないことに疑問を持ち始めていた。

「銀兄ちゃん、金兄ちゃんはどこ行ったの?」

「・・・・・・・・・。」

「ねぇねぇ、ねぇねぇねぇ!」

 いくら弟が問いかけても、バルーシは答えられなかった。


 しかし、いくら探しても見つからずにバルーシも諦めかけていた時、事件は起きた。


 六年前のある日、国王命令によって全員が城に軟禁となった。それはなぜだかわからないが、バルーシは弟と一緒に部屋にいた。

「銀兄ちゃん、金兄ちゃんそろそろ帰ってくるかなぁ?」

「・・・あぁ、そろそろ帰ってくるさ。」

 不安にさせまいと笑顔を浮かべるバルーシ。

 バルーシの笑顔を見て同じように笑顔になった弟は、窓から外を覗きこんだ。


「あ!金兄ちゃん!」


「!」

 その言葉に、バルーシはすぐさま窓から外を見るが、金髪の青年の姿は見えなかった。

「まさか・・・でも・・・!」

 そう言うと、バルーシはすぐさま剣を持って部屋を飛び出した。

「ここで待っていろ!すぐに戻ってくる!」

 弟に言葉を残して、バルーシは窓から見えた景色に向かって走り出した。




「兄さん!ゴルドー兄さん!」

 城の外で必死に名前を呼んで探し回る。しかし、いくら探してもゴルドーの姿は見当たらない。

「一体どこへ・・・。」

 その時、


「うわぁぁぁ!!!」


 バルーシの身に強い衝撃波が襲ってきた。体ごと吹き飛ばされて壁に激突するバルーシ。

「くっ・・・一体何が・・・。」

 バルーシは、初めてそこで空を見た。

「な・・・何だあれは・・・。」

 バルーシが見えた空に浮かんでいたのは、黒く歪んだ塊だった。

 バルーシはその塊を見た瞬間、瞬時に悟った。

「何かよからぬことが・・・起きようとしている・・・。」

 そう呟いたバルーシの頭に、一つの言葉が蘇った。


「これからはお前が弟を守ってやるんだぞ?」


「しまった!」

 バルーシは危険を察知したのと同時に、ゴルドーの言葉を思い出してすぐさま城へと戻っていった。

 とにかく全力で走る。そうしなければならないような気がしたからだ。

 そしてバルーシは、弟がいた部屋の扉を勢いよく開けた。


「・・・・・・・・・。」


 その部屋には誰もいなかった。

「そんな・・・そんな・・・!」

 バルーシはすぐさま膝をついて自分のしたことを後悔した。

 弟を放ってしまったために、守ることができなかった。守らなければならない弟を守れなかったその自責の念が、涙という形でバルーシの頬を濡らした。


 その後、いくら探しても二人の兄弟は見つからなかった。

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