教会
森にたたずむ教会は、長い間使われていないのか、朽ち果ててしまっていた。あちこちの壁や窓は砕けていて、さらに壁には蔦が大量に付着していた。
「こんなところにレーグ大臣が・・・?」
シロヤは教会を再び見た。対してプルーパは、教会の壁を触りながら呟いた。
「ここ、バスナダ国が昔、軍事国家として発展していた時の名残のようね。森地帯の植物を兵器に変える儀式をしに来ていたと言われていた場所よ。噂には聞いていたけど、本当にあるなんてね・・・。」
「昔って言ったら・・・汚染植物を人工的に生産していた時代ね?あの時にこの森を使われたから、さっきみたいな子が出来たのね。」
プルーパに続いて、フカミが呟いた。
さっきみたいな子と言うのは、シロヤたちを襲ったあの木の事だろう。
「バスナダ国が軍事国家・・・?汚染植物・・・?」
「信じられないと思うけどね。先代のバスナダ国王は就任と同時にこの国の軍事予算を10倍にしたのよ。」
「10倍!?」
シロヤは目を丸くした。今のこの平和なバスナダ国を見ていると、とても軍事国家として成り立っていたとは思えなかった。
「それで、バスナダ国特有の植物を兵器に変える計画を実行しようとしたの。この教会はその計画の名残ね。昔はここで植物兵器を作っていたのよ。」
「!!!何か来る、隠れて。」
キリミドがプルーパとシロヤを引っ張る。四人は、近くの茂みに身を隠した。
しばらくしたのち、教会から男が一人出てきた。
「あれは・・・。」
「間違いないわ、レーグね。」
レーグは教会を見上げて、何かを呟き始めた。シロヤは聞き取ろうとしたが、距離が遠く、草木のざわめきがレーグの声をかき消して、こっちまで届かない。
しばらく呟いたのち、レーグは来た道を戻っていった。
「よし、入るなら今よ。行きましょう。」
先陣を切ってプルーパが教会に入り込む。遅れてシロヤ、フカミ、キリミドが入っていった。
中は外よりも朽ち果てていた。椅子はボロボロ、わずかな光すら届かない真っ暗な空間。奥に見える微かな光は、どうやら蝋燭の火のようだった。
「レーグがここに来た目的は何なんだろう・・・。」
「さぁね。古臭い奴だと思ってたけど、まさか先人たちの知恵でも借りに来ているのかしら。」
かつてここでは、軍事的植物兵器を作っていたという。しかし、表面上はただの教会なため、蝋燭の火以外には何もない。
ふとシロヤは、足下の何かに目をやった。
「・・・これって、蔓?」
「それが汚染植物の一部よ。」
汚染植物、さっきもフカミが言っていたが、シロヤには理解できなかった。
プルーパは、シロヤの理解できない思考を読み取って言葉を続けた。
「あぁ説明してなかったわね。植物兵器は完成しなかったんだけどね、その代わりに無差別に人を襲う植物が生まれたのよ。それをこの国では"汚染植物"って読んでいるのよ。」
さっき二人を襲った木。フカミはあれが汚染植物だと言っていた。つまりあれが、軍事国家だったときの名残なのだろう。
「やっぱりレーグの目的は・・・汚染植物なんでしょうか?」
「わからないわ・・・ただ、旧バスナダ国家の"何か"が目的なのは確かね。」
プルーパは首をかしげた。それと同時に、朝の予算での会話が脳裏をよぎった。
「軍事予算の拡張・・・まさか旧バスナダ国家の・・・?」
「有り得るわね・・・それなら朝の予算の話と合点がいくわ。」
「ヒヒヒヒヒ!」
「!!!!!」
シロヤ達は一斉に後ろを振り向いた!入り口には、含み笑いをしながら四人を見つめるレーグがいた。
「尾行調査なんて古いことがお好きなのですね、ヒヒヒヒヒ。」
人を小馬鹿にするように含み笑いをするレーグ。
「それはお互い様じゃない?過去の国の汚点を復活させようなんて、大魔王にでもなったつもりかしら?」
「ヒヒヒヒヒ、私なりの野望のためなんですよ。まぁ、あなた達には関係ないんですがね。ヒヒヒヒヒ。」
含み笑いを何度も続けるレーグ。
「野望って・・・?」
「よそ者の旅人風情には関係ありませんよ。まぁ敢えて言うなら・・・権力を絶対的なものにしたい、ですかね。」
それを聞いた瞬間、プルーパは叫んだ。
「あなたまさか・・・"星"が目的!?」
しかしレーグは不動。しばらくしたのち、レーグの姿はなかった。
「やられたわ!今のはホログラムよ!今すぐ城に戻るわよ!」
プルーパが血相を変えて走り出した!シロヤは訳もわからずプルーパに着いていく。
突然、後からついてきたフカミとキリミドが、走るのを止めた。
「お急ぎみたいね。キリミド!森の入り口まで送ってあげるわよ。」
「はい!」 フカミとキリミドが手をかざすと、周りの木の枝がシロヤとプルーパを持ち上げた。そのまま高速で枝が入り口の方まで移動した。
「二人ともありがとうね!今度甘砂まんじゅうでも持ってくるわ!」
「じゃあ俺は砂豚でも持ってくるよ!」
去り行く二人を見ながら、フカミは呟いた。
「遠慮するわ、私ベジタリアンだから。」