故郷
「!」
バッと上半身を起こすと、そこにあったのは王家の墓だった。
シロヤはゆっくりと身を起こし、回りを見渡してみる。しかし、さっきまでいた男の姿はどこにもなかった。
バァン!
「シロヤ!」
勢いよく開けられた扉。その先にいたのはシアンだった。
「急にいなくなってびっくりしたぞ。何故ここにいるのだ?」
「えっと・・・それは・・・。」
正直に言わない方が察したシロヤは、しどろもどろになりながら言葉を探した。
それを見たシアンは、少し微笑みながら小さくうなずいた。
「言いたくないのならば言わなくてもいい。私もこれ以上聞かないでおこう。」
そう言うと、シアンはシロヤの横を通り、一つの墓標の前に来て、ゆっくりと膝をついて頭を下げた。
「お父様・・・お父様が望んだ平和には、まだ時間がかかるかもしれません。しかし、私達は必ずや平和を成し遂げてみせます。」
墓標に向かって言葉を紡ぐ。
シロヤはシアンが語りかけている墓標の文字を確認した。そこには、"29代バスナダ国王 グンジョウ"と書いてあった。
「やっぱり・・・あれは夢なんかじゃなかったんだ・・・。」
そう思ったシロヤは、グンジョウの墓標に向かって小さく手を合わせた。
「・・・。」
しばらく黙祷を捧げる二人。
そして、二人は同時に頭を上げた。
「シロヤ、明日、行きたいところがある。同行してはくれぬか?」
「は!はい!もちろんです!」
シロヤの答えに、シアンは優しく微笑んだ。
二日目、シロヤはシアンに連れられてある場所にたどり着いた。
「シアン様・・・ここは?」
二人が来たのは、王家の旗が立てられた祠のような所だった。
「ここは・・・我らは禁断の地と呼んでいる場所だ。」
「禁断の地・・・?」
そこでシロヤは、グンジョウの言葉を思い出した。
「そう・・・絶対に立ち入ってはならぬ場所だ。」
そう言ってシアンは、祠の入り口に手を当てながら、悲しげに語り出した。
「ここは・・・私の最初の故郷だった。」
「え?」
「私は孤児だったらしい。母がここに捨てられた私を保護したそうだ。」
「・・・。」
「それを知ったのは・・・私がまだ10歳の時だった。最初は信じられなかったが・・・いや、信じたくなかった。しかし、私が孤児であった記録はいくつも見つかった。」
何故シアンがそのことを知っていたのか、シロヤは疑問に思った。
「何より最大の証拠だったのが・・・母の手記だった。そこには私が孤児であったということが書かれていたのだ。」
「・・・!」
そこまで聞いたシロヤは、ローイエが話してくれたシアンの過去の話を思い出した。
「まさか・・・それをシロヤに教えたのって!」
シアンが口にした言葉は、シロヤが予想していた通りだった。
「レーグだ。」
シロヤの頭の中で、全ての謎が解けた。あの時、レーグが10歳のシアンの心を砕いたあの日、レーグが何を言ったのかが・・・。
「しかし・・・私は何も変わっていない。」
複雑な表情をしているシロヤに、シアンは優しく語りかけた。
「孤児だろうと関係ない。私は父や母の愛情を受けて育った。父や母の意志を受け継ぎ、平和な国を作り上げるという思いに変わりはない。」
決意を秘めたシアンの表情。その表情を見たシロヤは、暗くなっていた表情を自然と明るくした。
「シアン様は強いのですね。」
「私はそなたのおかげで強くなれたのだ。現実と向き合い、未来へと向かう力をくれたのはそなただ。礼を言う。」
小さく頭を下げるシアン。
「行こう。明日は皆の答えを聞く日だ。」
そう言って歩き出すシアンに、シロヤは急いでついていく。
「・・・絶対に平和を成し遂げよう。シロヤ。」
「・・・はい!」
二人は歩き出した。平和を成し遂げると言う絶対の誓いを胸に秘めて・・・。
そして、夜が明けた。