継承
「シアン様が・・・鍵?」
グンジョウの言葉に、シロヤは驚きを隠しきれないでいた。
「そう・・・ラーカの封印を解く鍵。それはシアンが幸せになることだ。」
「・・・。」
シロヤは呆然としていた。そんなシロヤに、グンジョウはさらに言葉を続けた。
「シアンは・・・私達チラプナの血を受け継いでいない、言うなれば"孤児"だったのだ。」
「孤児・・・?シアン様は王家の娘じゃないんですか?」
「シアンは、我妻イリーボアが禁断の地で見つけた産まれたばかりの赤ん坊だった。その赤ん坊を城に連れ帰り、私達は育てることを誓った。」
グンジョウは昔を思い出しながらさらに語った。
「そして私は気づいたのだ。何故シアンが禁断の地にいたのかを・・・。」
「それは・・・誰にも見つけられず、誰にも幸せにされずに生きていくため・・・。」
グンジョウは拳を強く握った。その拳からは、ゆっくりと血が滴り落ちていた。
「だが・・・私には出来なかった!シアンを再び禁断の地に戻すことなど!」
「・・・。」
「もはや封印も何も関係ない!私はシアンを守る悪魔と戦うことを誓った!」
「そしてあなたは作り上げた・・・誰にも負けない強い国を、シアン様のために砂を竜に変えた・・・。」
「実に愚かだと思った・・・シアンを守るため、私は国民を肥やしにしてしまった・・・。」
グンジョウは涙を流しながら、さらに血を流しながら拳を強く握った。
「私には・・・命をかけるしか無かったのだ・・・シアンやプルーパ、ローイエを守るため、国民を守るため・・・私が贄となるべきだったのだ・・・。」
涙を流しながら語るグンジョウに、シロヤはそっと呟いた。
「それは・・・勝手です・・・。」
「・・・?」
シロヤはグンジョウを見ながら、ゆっくりと口を開いた。
「シアン様は、あなたが本当は平和を望んでいたことを知っているはずです。」
「・・・。」
「いえ、シアン様だけではありません。プルーパ様やローイエ様、バルーシさんやレジオンさん、リーグン様やクピンさん、ランブウさんやフカミさんやキリミドさんだって・・・皆そう思っているはずです!」
「・・・。」
「皆、あなたが作ろうとした平和を作るため、今まで戦ってくれました。レーグが暗殺を企てた時だって、シアン様が自分を見失ってしまった時だって。」
そう言って、シロヤは持っていた剣をグンジョウに向けた。
「俺は・・・あなたが出来なかった、ラーカを倒してシアン様を幸せにすることを受け継ぎます。必ずラーカを倒し、シアン様を幸せにしてみせます!」
決意を秘めたシロヤの言葉。それを聞いたグンジョウは、腰の剣を抜いてシロヤに向けた。
「バスナダの地を二度も守った君になら・・・私の意思を託せる・・・。」
「・・・。」
「シアンを・・・この国を頼んだぞ。シロヤ。」
その瞬間、シロヤの後ろから強い光が溢れだした。
「さぁ、行くのだ。私が行けるのはここまでだ。」
「・・・必ず、約束を守ります。」
そう言って、シロヤは光に向かって走り出した。
「頼んだぞ・・・白の勇者よ。」
走っていくシロヤの背中を見ながら、グンジョウは小さく呟いた。