来訪
「・・・。」
朝、シロヤは自室にいた。
シロヤしかいない部屋は恐ろしいほどに静かであり、恐ろしいほどに空気が重かった。
「ダメだ・・・整理できない・・・。」
ゴルドーの話を聞いてから、シロヤの頭の中の情報は全くの整理がつかなくなっていた。色んなことが起こりすぎて、色んな事実を知りすぎて、シロヤの頭の中は完全に混乱していた。
ガチャ
「シロヤ・・・。」
「・・・シアン様。」
静寂を破った扉を開く音と共に、シアンが入ってきた。
「・・・浮かない顔をしておるぞ?」
「え?」
シロヤの顔を見たシアンは、まるで部屋に流れる重い空気を表すかのように曇っていた。
「お!俺は大丈夫ですよ!」
すぐさま笑顔を浮かべるが、明らかに作り笑顔だ。
「・・・そうか。」
小さく呟くと、シアンはゆっくりとシロヤに歩み寄り、シロヤの隣に座った。
「シアン様・・・?」
曇った表情のまま、シアンはシロヤの肩に頭を乗せた。
「・・・すまない・・・。」
「え?・・・何で謝られるのですか?」
そう聞いた時、シロヤの足にポタッと水滴が落ちた。水滴は勢いを増し、シロヤの足を濡らしていく。
「う・・・うぅ・・・本当にすまない・・・そなたを巻き込んでしまって・・・。」
「・・・。」
シアンは涙を流していた。流れる涙を拭おうとせず、シアンはさらに言葉を紡いでいく。
「私達の国のことに・・・シロヤを巻き込んでしまって・・・本当に・・・本当に申し訳ない・・・。」
「・・・。」
嗚咽を漏らし始めるシアン。そんなシアンを、シロヤは軽く抱いた。
「・・・?」
驚くシアンに、シロヤは抱いたまま語りかけた。
「俺は迷惑だとかなんて思っていません・・・。」
「命を懸ける戦いに巻き込んでしまったのだぞ・・・?」
「・・・絶対に負けません。」
シロヤはシアンを強く抱いた。
「俺には力強い仲間達がいます・・・皆がこの国を、そしてシアン様を守るために戦っています。だから・・・俺は負けません。皆が生きている、皆が戦っている、それだけで俺は強くなれます。」
その言葉を聞いたシアンは、涙を押さえることが出来ずにボロボロと流し続けた。
「そなたは優しいのだな・・・見ず知らずとも言える私達のために・・・。」
「・・・シアン様。」
シロヤはシアンの顔を見つめた。
しかしその顔は、言うか言わないかを葛藤しているような声だった。
「・・・何だ?」
「あ・・・いや・・・その・・・。」
シロヤは決意して、ゆっくりと口を開いた。
「一応・・・俺は"国王見習い"ですから・・・見ず知らずって言うわけでは・・・シアン様とは・・・その・・・。」
そこまで言って、再びしどろもどろになるシロヤ。そんなシロヤに、シアンは涙を流しながら微笑んだ。
「ふふ・・・そうであったな・・・シロヤはもう私の夫、国王となるお方だったな・・・。」
そう言って、シアンは再びシロヤに胸に身を預けた。
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。
「・・・シアン様?」
「・・・。」
しばらくシロヤの胸に身を預けていたシアンは、いつの間にか眠りについていた。
シロヤはゆっくりとシアンをベッドに寝かせた。
「ふぅ・・・。」
長い時間、シアンはシロヤの胸で泣いていた。時計を見ると、時刻はもう昼になろうとしていた。
何の気なしに窓を見た瞬間・・・。
「!」
窓の向こうに見える謎の影。それはゆっくりゆっくりと、どこかを目指しているようだった。
「あの方角・・・!」
シロヤはすぐさま部屋を出た。
シロヤは扉を開けた。
「・・・!」
たくさんの国王達の墓が並ぶ王族の墓場に、見ず知らずの男が立っていた。
「・・・誰だ!?」
叫ぶと同時に剣を構える。
男はゆっくりと振り向くと、シロヤの方に向かって手をかざした。
バタン!
「!」
急に扉が閉まった。一瞬シロヤの気が扉に行ってしまい、隙が出来てしまった。
「しまった!」
そうシロヤが言った時には、もう男はシロヤに近づき剣を向けていた。
「くっ・・・!」
剣を強く握り、シロヤは男からの攻撃に耐えようと力を込めた。
しかし・・・。
「・・・。」
「・・・?」
男は剣を構えたまま立ち止まっていた。攻撃しようともせず、ただそこに立っているだけだった。
「・・・お前は・・・。」
そうシロヤが呟いた時、男はゆっくりと口を開いた。
「シアン・・・シアン・・・。」
「!!!」
男は何度もシアンの名前を呼んでいる。シロヤに緊張が走る。
「お前・・・シアン様の命を狙っているのか!?」
そう叫んだ時、男が涙を流した。
「!」
剣を構えたまま涙を流す男。その時、何事かと不思議に思うシロヤに向かって、光が放たれた。
「―――――!!!」
言葉にならないような叫びを発し、全身から発光する男。
「な!うわぁぁぁ!!!」
光に包まれ、シロヤは意識を失った。