精霊
プルーパが放った短剣は、枝の本体に直撃した。
その瞬間、枝が苦しむように暴れまわった。周りの木々をなぎ倒すかのように、枝は木の幹にぶつかっては落ちていった。
プルーパとシロヤは、枝を何とか避けながら先に進もうと走る。
「・・・!」
先に走るプルーパを追うシロヤ。暴れまわる枝の本体の横を走り抜けようとした瞬間、シロヤは森の先に人の姿を見た。
奇妙な人だ。羽衣のように透き通ったドレスに身を包んだ少女。最大の特徴は、頭の上には綺麗で大きな花があり、少女の肌が森のように綺麗な緑色だということだ。
少女は走り抜けるシロヤを見つめていた。そして少女の姿を確認したシロヤ。二人の目が合った瞬間、少女に向かって暴れまわる枝が襲いかかった!
「あ!危ない!」
シロヤは叫ぶと同時に逆走した。自分の命が危ないと思ったのは、少女に向かって走り出してからだった。
「シロヤ君!?」
異変に気づいたプルーパが後ろを確認して叫んだ。
枝は高速で少女に向かって伸びる。シロヤも全力だが、枝の方が速かった。間に合わないと悟ったシロヤは、我が身を弾丸にするように頭から飛び込む。全力で地面を蹴って少女に手を差し伸べる。
瞬間、枝は少女がいた先の木を幹を貫いた!
「シロヤ・・・君?」
プルーパは走って確認に向かった。
「いてて・・・。」
シロヤは枝を交わして、少女を胸に抱いたまま倒れていた。
ほっと胸を撫で下ろすプルーパだったが、直後、さらに枝がシロヤと少女に向かって伸びた。
「シロヤ君!危ない!」
倒れたまま動かないシロヤに伸びる枝。プルーパが短剣を構えた直後、枝はその動きを止めた。
見ると、少女が枝に手を伸ばしていた。まるで少女の言うことを聞いているかのように、枝は少女の前で止まっていた。
「あなた少し・・・おいたが過ぎたわよ?」
少女の手の先が淡く光ったと同時に、枝、そして枝の本体の木が瞬時に枯れ、腐り落ちていった。
「いてて・・・何があったんだ?」
起き上がったシロヤは、腐り落ちた枝を見て呟いた。腕を押さえているシロヤに、少女はやさしく声をかけた。
「私を守ってくれてありがとうね。おかげで助かったわ。」
少女はシロヤの腕を軽く触る。走ってシロヤの元にやって来たプルーパが、少女に声をかけた。
「あなたもしかして・・・精霊?」
「えぇ、そうよ。私を助けてくれるなんて物好きな人ね。」
少女は軽く笑ってシロヤを見つめた。
「精霊?普段は姿を隠していて人間には見えないって聞いていたけど・・・?」
「この辺は人の通りが少ないし、姿隠すのって結構疲れるのよね。」
少女はクスッと笑ったのち、思い出したように呟いた。
「でも最近、変な男がよくここを通るのよね。なんか呟きながら奥の方に進んでいってるわよ。」
「怪しい男!?その男、どこに向かってるかわかる?」
プルーパは食いかかるように少女に迫った。おそらく、怪しい男というのはレーグのことだろう。
「わかるわよ?行きたいんだったら案内するわよ?」
「本当に!?じゃあお願いします!」
シロヤは少女に頭を下げた。その瞬間、腕に激痛が走った。さっき少女を助けたとき、腕から着地してしまったため小枝が刺さってしまったのだろう。
「あなた・・・怪我してるわよ?まずはその怪我を治してあげるわ。」
そう言うと、少女の目線の先、森の奥から透き通るドレスに身を包んだ少女がやってきた。前髪で目が隠れていて、助けた少女よりも肌の色が薄い。森のような深い色ではなく、草木のように淡い緑色だった。
「あぁキリミド、ちょうどよかったわ。この人の腕を治してあげて。」
そう言うと、少女はシロヤの腕に手をかざした。少女の手の先が淡く光ると、シロヤの腕から痛みが無くなっていった。光が完全に消えると同時に、シロヤの腕は正常に動くようになった。
「治りましたがあんまり無理はしないでくださいね。」
少女はシロヤの腕を撫でた。
「わかった、ありがとう。」
「じゃあ行くわよ。キリミド、あんたも来なさい。」
少女二人を前にして、シロヤとプルーパは森の奥を目指した。
「あぁ、紹介がまだだったわね。私はフカミ、よろしくね。」
「えっと・・・私はキリミドっていいます。姉を助けていただきありがとうございます。」
「えぇ!二人って姉妹なの?」
「別に珍しくないわよ。精霊にだって兄弟姉妹はいるものよ。」
驚くシロヤに、フカミとキリミドはクスクスと笑った。
「見えたわよ。あれが怪しい男が毎回来ている場所よ。」
森の奥深く、太陽の光が届かない暗い森の中に、大きな教会が建っていた。