入国
「後は・・・バスナダ国だけか。」
森の中の一本道に、青年が馬に乗って歩いていた。青年の名はシロヤ。どこにでもいる一般的な青年だ。背丈は一般男性と同じくらいで、背中に細身の剣を携えていた。
「バスナダに行ったら名物料理を食べて一泊しようか。スタンプは明日にしよう、クロト。」
クロトと言うのは、彼の相棒とも言える黒い毛の馬の名前だ。決して足の早い名馬という訳でもない、単なる一般的な馬だ。クロトは、シロヤが初めて馬の出産に立ち会った時に産まれた馬だ。シロヤにとって、クロトは弟のような存在なのだ。
「さぁクロト、バスナダの国境が見えてきたぞ。」
「バスナダ国の入国手続きをお願いします。」「おぉ、久々の入国者か。歓迎するぜ。」
国境にいた中年男性が、書類に色々と書き始めた。
「若いのに世界を巡る旅か・・・流浪の旅かい?」
「いえ、国中のスタンプを集めているんです。」
国にはそれぞれ国を表すスタンプがあり、それを集めて世界を旅する人も少なくはない。シロヤもその一人なのだ。
「んで、今スタンプはどれくらい集まったんだい?」
そう聞かれたシロヤは、一枚の紙を広げた。
「ひぃ、ふぅ、みぃ・・・ほぉ!バスナダ以外のスタンプは揃ってるのか!?いやぁ〜この国が最後たぁ〜嬉しいねぇ〜!」
中年男性は書き終えた紙をシロヤに渡した。
「まぁ砂漠ばっかの国だけどゆっくりしていきな。俺の名前はランブウだ。なんかあったらここに来な。」
「ありがとう、ランブウさん。」
シロヤとクロトはゆっくりと進みだした。
砂漠の国だが、国境付近はまだ森地帯だ。森の中の一本道を歩くシロヤとクロト。
「とりあえず宿を見つけよう。確かこの国の名物は甘砂まんじゅうと・・・。」
キャーーー!!!
森地帯に響く女性の悲鳴。シロヤは名物料理の思考を止めて、クロトの手綱を引いた。
「こっちの方から聞こえた!行くぞクロト!」
全速力で走るクロト。走りながら、シロヤは背中の剣を抜いた。
「見えた!アレだ!」
シロヤの目線の先に、大きなトカゲが人を襲っている。襲われている女性は、恐怖でさっきのような悲鳴をあげられないみたいだ。大きなトカゲはバシリスク。森地帯に住む低級の魔物だ。
「バシリスク程度ならいける!行くぞクロト!」
シロヤは剣を低く構え、バシリスクを狙う。狙われたバシリスクは足音でシロヤ達に気付き、すぐさま戦闘モードに入る。牙を剥き出しにし、今にも飛びかからんとしている。
「・・・勝負!」
飛びかかってきたバシリスクを交わし、後ろから剣を背中に突き刺す!
ギシャアアアアア!!!
バシリスクは剣を背中に刺されたままの状態で奇声をあげ、そのまま動かなくなった。
「ふぅ・・・なんとかいった・・・。」
剣に刺さっているバシリスクを抜き捨て、襲われていた女性に目を向ける。凛とした目は女性の芯の強さを感じる。
「助けていただきありがとうございます!」
深々と頭を下げ、礼を述べる女性。来ている服は上等な者で、彼女の裕福さを物語っていた。
「いえ、この辺は危険ですので気を付けてください。しかし何でこんなところに一人で?」
女性は目を閉じて黙った。言葉を考えているような感じだ。
「さっきこの国に帰ってきた、だから・・・。」
「よかったら安全なところまで一緒に行きませんか?」
女性はシロヤの言葉を聞くと、フッと軽く笑って走り出した。
「結構です!もう安全な場所に来ましたから!」
そう言って女性は走り去っていった。その先には、砂漠と行き交うたくさんの人々の姿があった。